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「そのひと言」の見つけ方No.9

予測ルートを通らない。

2015/03/30

『水戸黄門』は、毎回旅先で悪人が出てきて、誰かが困っていて、悪人を黄門様たちが成敗し、45分ごろに印籠が出てくる、という確固としたスタイルのある時代劇です。
以前、あるディレクターが『水戸黄門』を2時間で1話にして、前編と後編を2週にわけて放送したところ、高齢者のクレームが続出。理由は「来週生きているかわからないのに、続きだなんてやめてくれ」だったそう。それくらい毎回が同じ内容、同じタイミングであることが、視聴者を惹きつける不思議な魅力になっていました。
ここまで徹底して印籠を出すタイミングを同じにすれば、「待ってました!」という反応が起きるでしょう。
一方、もっと短い時間でのコミュニケーションが必要になる広告の場合「ああ、やっぱりそうきたか」というオチに人は絶対に振り向いてくれません。「予想どおりの展開」を避けることが、企画を立てた段階で最初にチェックすべきことです。

たとえば「ふたりの恋人同士が何の事件も起きずに無事に結婚しました」というストーリーを最後まで読んでくれる人はいません。世間にいろんなおもしろい話が存在するなかで、そのような平凡な話に人は振り向かない。
でもそういう話を希望されたとしたら、コピーライターやCMプランナーはどのように考えるのでしょうか。
たとえば一番おもしろいところから話を始めたり(カップルがいきなり喧嘩して別れるシーンから始めるとか)、極端にしたり(両方の親に反対されたうえに、仕事も失うとか)、いろんな試行錯誤をして、ストーリーを練る。そうすることで受け手の予測ルートから外れることができます。
そこまでできたら、今度はディテールをつめます。
別れのシーンであれば、喧嘩して別れるのか、すれ違いで別れるのか、手紙で別れるのかなどどんどん発想が湧いてくる。複雑でおもしろみのある物語へと展開していくわけです。

以前、『エル・ブリの秘密 世界一予約のとれないレストラン』というドキュメンタリー映画を観たことがあります。

エル・ブリとは、スペインのカタルーニャ州のカラ・モンジョイという風光明媚な入り江を見下ろす場所にあるレストランです。世界最高の料理人と称されるフェラン・アドリア氏が料理長を務め、わずか45席に年間200万件の予約が殺到、宝くじに当たるよりむずかしいと言われたとか。営業は4月~10月までの半年間で、残りの半年、アドリア氏とシェフたちは新メニューの開発と研究に没頭します。
その料理というのが、見たことのないものばかりなのです。「分子ガストロノミー」と呼ばれていて、たとえば液化チッソを使って瞬間的に凍らせるなど独特な料理法を得意としていました。
見た目はごぼうみたいな棒なのに、かじるとラム酒がにじみ出てくる「モヒート カイピリーニャ」、日本では粉薬を包むために使われるオブラートをラビオリ風にアレンジした「消えるラビオリ」、氷の器をスプーンで割りながら食べる「氷の湖 ミント風味」など、料理というよりは芸術作品か何かのようで、目を見張りました。

そのときに僕は、料理の世界もコピーの世界も同じだなとしみじみ思いました。
とにかく、人の想像を裏切る。まず驚かせるというところから入らないと、人は振り向いてくれない。だから常に驚かせつづけないといけないのだと。
エル・ブリは「料理ってこんなもんだよね」という思い込みから決して入らなかった。半年店をオープンし、残りの半年は新しいメニューをあらためて考えなおすというストイックなことを繰り返しながら新しい料理を追究していたのです。
その、「考えなおしてあらゆる角度から検討する」というのが、予想を裏切るための基本かもしれません。

アドリア氏は「自分の料理を見失った」としてミシュランの三ツ星を獲得していたレストランを閉め、料理の研究機関を立ち上げたそうです。革新とは彼のためにあるような言葉だなと思います。

挿絵
絵/高島新平(電通 第4CRプランニング局)