ジブンと社会をつなぐ教室No.9
「自分らしく働く」って結局どういうこと?(後編)
2015/04/17
前回に続き、『なぜ君たちは就活になるとみんな同じようなことばかりしゃべりだすのか。』(発行:宣伝会議)刊行を記念して、電通若者研究部(通称:ワカモン)代表の吉田将英さん、ソニーの津田賀央さん、大学教授の佐藤達郎さんが集い、「自分らしく働く」とはどういうことなのか、掘り下げます。
自分の価値要素から、“シゴト”の軸を決める
吉田:自分らしく働くためには、職種や企業ではなく、自分が持っているものや譲れないことから考えることが大切です。そのプロセスを手助けするために「ジブンと社会をつなぐ教室プロジェクト」が大学のワークショップで使用したのが、「やりたいシゴト設定シート」。これは、自分の価値要素からやりたい「シゴト」を設定し、その具体例としてどのような業界、働き方、職種があるかを考えるためのシートです。
佐藤:広告の仕事でもこういうことをやりますよね。年齢や性別といった具体的なターゲットをいきなり考えるのではなく、商品やサービスの価値要素から本質的ターゲットを設定することで、商品やサービスの可能性が広がりますからね。
吉田:自分の価値要素は必ずしもポジティブなこ とである必要はないんです。僕の場合、「チームワークが好き」「表現が好き」な一方で、「働きたくない」「面倒くさがり」といった側面もある。他にもさまざまな価値要素があって、そこから導き出した「シゴト」が「自由な環境・自由な発想で常に新しい未来をチームで企画できる」ということ。これが僕にとっての、自分らしく働くための軸なんです。そして、それを実現できる職種の例として、都市開発や広告、テレビなどが候補に上がってくると。もちろん学生の頃に書いたものではないのですが、自分の中でしっくりくるものがありますね。
津田:僕は書いてみたら、トラベルガイドになりました(笑)。でも、この軸をしっかりと認識しておくことは就活生のみならず社会人にとっても大切なことですよね。働いて3年、5年、10年といった節目でこの軸を振り返ると、自分の原点に立ち戻れますし。
佐藤:このワークシートのいいところは、自分がやりたいことを独りよがりに考えるのではなく、自分の価値要素とじっくり向き合いながら、社会のどこでつながるのかを考えられる点ですね。
吉田:自分が役に立てることは何なのか。「やりたいシゴト」の欄が埋まればそれが自ずと見えてくるはず。この思考のプロセスは社会人になってからも同じです。上司を説得したいときも、奥さんを説得して車を買いたいときもそう(笑)。相手にとってどのように役に立つのかを翻訳できてはじめて、説得したり頼みごとが実現するのではないでしょうか。
自分と社会をつなぐことで見える、最適な環境(=会社)
吉田:「やりたいことがわからない」という人がいる一方で、「やりたいことはあるけど、役に立つ(お金になる)かわからない」と思い悩んでいる人もいると思うんですよ。
佐藤:そればっかりは、試してみないとわからないですよね。僕も本当はミュージシャンになりたかったけど早々に諦めて、なんとなくコピーライターになりたかったけれど、書くのが苦しすぎると嫌だから宣伝会議の講座に参加してみたんです。もちろん書くのは大変だったけれどなんとか続けられて、何度か優秀賞ももらえたので、これはできそうだと思ったんです。
吉田:遠くから見ているだけで行動しないのがいちばんもったいなくて、やってみてダメだったり、調べることがつらかったら引き返せばいいんですよね。
佐藤:やってみたら辛いということも、やってみないとわからない。だから、個人的プロトタイピングをやるといいんです。それも自分の好きな詩を書くとかではなく、講座の課題などを通じてビジネスになりそうなことをやってみるとかね。
津田:僕も新しく始める活動やオフィシャルじゃない活動には、「実験」という言葉をよく使っています。ワクワクする言葉っていうのもありますけど。
佐藤:ウェブサイトも今はABテストをしながら改善していくことが多いじゃないですか。
津田:社会人1年目なんて、ベータローンチの最たるものですよね(笑)。
吉田:そうなんです。だから、先ほどの「やりたいシゴト」も一度決めたら十字架のように背負わなきゃいけないイメージを持つかもしれませんが、途中で変えたっていいんですよ。佐藤さんも当時は教授になるという選択肢はなかったけれど、社会に出ていろんな経験をされる過程で変わっていったんですよね。
佐藤:そうです。50歳を過ぎてから、世の中でやってきたことを学生に伝えることは役に立つことだと思ったんです。これからどんどん世の中が変わって、終身雇用も減っていくかもしれない。ここにいる3人も全員が転職経験者ですし。就職する企業は3年、5年をスタートする場として考えたっていいんです。そこで働いてみて自分に合っていれば働き続ければいい。
吉田:そうですね。「自分」と「社会(誰の役に立てるのか、立ちたいのか)」を考えた上で、その2つが成り立つ環境(業界や会社)を選びましょうと。業界や会社から考え始めると、そこに自分をねじ込もうとして、その企業に合わせたエントリーシートを書いてしまう。これを僕は「ES美人」なんて言っていますが(笑)。企業のウェブサイトを見て、いわゆる「求める人物像」を演じたところで、それは他の志望者と同じになってしまうし、仮に就職できたとしても働き始めてからミスマッチが起きますからね。
津田:そう、これは決して就活に限った話ではないですよね。自分らしい働き方というものは内定で答えが出るわけじゃなくて、探し続けて、探し続けて佐藤さんみたいに教授になる人もいるし、僕のように東京から離れた富士見町で仕事を作る場合もある。22歳当時の僕は渋谷に住みたかったですもん(笑)。
吉田:22歳で向こう40年の生き方が決まるわけではないし、ゴールは内定ではありません。それなのに、エントリーシートを書いているとそういうマインドになってしまう。そのくらい学生のみなさんが追い込まれる仕組みになっていることも問題ですよね。そんな状況だからこそ、自分自身を掘り下げて、考え尽くして、仕事に対する思いを極めてほしいんです。この本に書かれているプログラムは正直言って、手間も時間もかかるプロセスですが、その過程を経ることではじめて、自分らしく働ける場所を見つけ出すことができるのだと思います。
<了>
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