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【続】ろーかる・ぐるぐるNo.57

岩田純平さんの本

2015/05/28

そういえば人生初めての英語プレゼンはNASA。テキサスにあるジョンソン宇宙センターで「Well...last summer, I struck the news that..」から始まる約20分の内容でした。なんで文言を覚えているかと言えば、英語がからっきしダメだから。実際この時も原稿をすべて丸暗記して、まるで舞台を演じるようにしゃべったのでした。先日、あれ以来かなり久しぶりの米国出張でロサンゼルスに行ってきました。慌ただしいCM撮影だったのであまり時間はなかったのですが、それでも評判を聞いていたインアンドアウトのハンバーガーにありつけました。

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創業50年以上なのにカルフォルニア州周辺にしかないこのチェーンの特徴は「本物志向」。冷凍物を一切使わず、たとえばフライドポテトは店内でジャガイモをカットするのだとか。店員の給与水準は高く、それでいて商品ひとつひとつの単価は安く、いわゆる「チェーンレストラン経営の常識」を覆したからこそ、大きな成果を上げているのでしょう。

かつて外食国内大手のセントラルキッチン(大規模調理施設)を見学し、感動したことがあります。無駄を徹底的に排除する仕組みになっている一方で、実際の調理手順は、台所でごく普通に料理するのとまったく一緒だったからです。ただつくっているのが3人前ではなくその数百倍なだけ。それを近隣エリアの店舗に冷蔵で配送し、お店で最終的に仕上げて…なんて合理的なんだ!と思ったのです。そんなこともあって、ぼくはセントラルキッチンにけっこう好意的なのですが、とはいえインアンドアウトの思想にもヨダレが出ました。合理性であれ本格であれ中途半端はダメで、ひとつのコンセプト(アイデア)で首尾一貫させることが重要なのでしょう。

つまらない話が長くなりました。この出張で撮影したキャンペーンも一緒にやっているコピーライターの岩田純平さんが最近、『それでも、前を向く。』(晋遊舎)という本を出しました。

岩田さんは、あらゆるものごとについて新しくて、かつ納得できる側面を見つける天才ですが、この最新刊で彼が発見したのは「ショート・ショート・ショート」とでも呼びたくなるような新しい「小説」の形です。

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缶コーヒー「ルーツ」の広告コピーとして開発された一編一編が、真ん中にある大きな空白スペースによって想像力を刺激し、壮大な(あるいはとんでもなく身近な)ドラマを想像させます。このスタイルこそが大きなコンセプト(アイデア)になっています。

同時にご紹介した「メール」「モテ期」「リスク」を含むすべての作品について「あっ!そうだよな!!(でも気づかなかったな!)」という新しい視点があります。この大小二つのコンセプト(アイデア)の合わせ技で、何度読み返しても「むふふ」と笑ってしまうのです。

岩田さんを「天才」というのは正確でないのかもしれません。そういえば以前「窮地に追い込まれた状態でないと、他の人が考えつかないようなアイデアは出ない」とおっしゃっていました。実際、彼のノートはいつでも手書きの文字でビッチリ埋まっています。書いて、書いて、考えて、考えて、悩んで、悩んで。にもかかわらず、そんな舞台裏は一切感じさせないのがプロフェッショナルの技なのでしょう。

…とかなんとかつまらない理屈は抜きに楽しい本なので、『それでも、前を向く。』、ぜひチェックしてみてください。

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さて次回は宮崎県での新しいチャレンジについて。

どうぞ、召し上がれ!