マーケティングROI最前線 ~アナリティック・テクノロジーが切り開く未来~No.3
Karl Weaver × 中川 健 (第3回):
クライアントの投資効率を飛躍的に
高めるエコシステム分析
2015/06/12
Data2Decisions(データ トゥー ディシジョンズ、以下D2D)とは?
イギリス・ロンドンを拠点に、電通イージス・ネットワーク(DAN)の一員としてデータ分析に基づくマーケティングコンサルティングサービスをグローバル展開。クライアントのマーケティング投資効率(ROI)を最大化するために、 Marketing Mix Modeling (マーケティング・ミックス・モデリング、以下MMM)などのエコノメトリクス(計量経済学)をはじめ、最先端のアナリティック・テクノロジー(分析技術)の開発と運用を行っている。
*MMMは、売り上げデータとメディアなどのマーケティング活動データを用い、売り上げに対する効果とROI を分析するエコノメトリクスモデル。
前回に続き、このたびD2DグローバルCEO、カール・ウィーバー氏が来日したのを機に、クライアントのマーケティング投資効率を最大化するアナリティック・テクノロジーの最先端と今後の動向について詳しく聞きました。聞き手は、統合データ・ソリューションセンターBI推進部の中川健部長。
メディアエコシステム分析の開発には好感触
中川:D2Dではメディアエコシステム分析の開発をしていると伺っています。そのことについて教えていただけますか。
ウィーバー:メディアエコシステムの測定には非常に難しい側面があります。さまざまなことが同時に起こっているからです。テレビで視聴しながら気になったことをウェブで検索する。ウェブサイトを見てさらにアクションを起こす。YouTubeやFacebookのようなインタラクティブなコンテンツを見ていても同様で、いろいろなものが複雑に絡み合ったプロセスをたどります。それをきめ細かく分析していくには、いくつもの挑戦的な試みをしなければなりません。これまでいくつかのアプローチを検討しましたが、実はまだ決定的な答えには至っていません。たとえ今、答えが見つかったとしても、1年後には状況が変わってしまう可能性も踏まえ、様々なソリューションを模索しているところです。
我々は、今、前にふれたエコノメトリクスのテクニックを導入しています。複雑性に対応できるよう、モデルを組み合わせる試みを行っていて、クライアントにとって非常に便利なソリューションとなるという感触はすでに得ています。エコシステムモデリングにより、ペイドメディア、アーンドメディア、オウンドメディアが相互にどのように関係しているかを理解することができ、FacebookやTwitterといったデジタルチャネルのROIを把握することができます。また、それぞれのメディアのインタラクションを加味した上で最適化を行うこともできます。それらの結果を個人レベルの消費者調査やデジタルデータと組み合わせる取り組みも始めています。非常にうまくいっていると思いますが、今後は、いかにより速く、効率的に測定可能にするかが課題です。マーケティング・ミックス・モデリングの場合も5年、10年前は同じ状況でしたが、エコシステムモデリングもケースを重ね、そこでのラーニングを役立てていけば、そのような効率化にそう時間はかからないと思います。
中川:エコシステムモデリング、エコシステム分析は、Carat(カラ)やiProspect(アイプロスペクト)といった特定のエージェンシーと組んでやるのですか。
ウィーバー:おそらくエコシステムプランニングに一番取り組んできたのがCaratではないかと思いますが、Isobar(アイソバー)やVizeum(ビジウム)など他のエージェンシーも似たようなアプローチを持っています。いま本当に必要なのは、どのブランドでもプランナーたちがこれを理解した上でプランニングに取り込むことです。単に、テレビがあって、その上にデジタルを付け足していくというものではありません。マスかデジタルかという捉え方ではなく、すべてのものが組み合わさってどう作用するのか、ということです。ですから、プランナーも進化をしていかなければなりません。クライアントも同様です。最近はこのようなエコシステムを理解した上でプランニングに利用する先進的な企業も出てきました。今やメディアは別個の存在ではなく相互に作用していて、消費者もそれを感じていますし、線引きをしなくなりました。
エコシステムを上手に利用できれば、ROIが50%以上向上する可能性も
中川:エコシステム分析に一番興味を示しているのは、どのようなクライアントですか?
ウィーバー:FMCG(Fast-moving consumer goods、日用消費財)業界は革新的な企業が多い業界で、すでに関心を示しているクライアントが何社かあります。また、公益事業や金融などのように実際に店舗や支店を持っているクライアントも強い問題意識を持っています。この先いくつの店舗や支店が本当に必要になるのかは重要な関心事です。小売りも同様です。多くの消費者がウェブで商品をブラウズすることで購入履歴や好みなどのデータが蓄積され、個々人の嗜好に合わせたメッセージを提供することができます。小売企業は、実際の店舗からオンラインへと消費者との接点が変化するなか、その仕組みを理解したがっています。エコシステムがどのように変化するのかも理解する必要がありますが、2年も経過すれば変化のあり方もまた違ったものになるはずです。それが彼らにとって悩みどころでもあるのです。
中川:日本市場でも今エコシステムがブームになっていて、D2Dのこの分野におけるサービスやケーパビリティーに高い関心を寄せている電通社員も多くいます。
ウィーバー:時代はまさにエコシステムの方向に向かっていますが、改めて認識すべきは、エコシステムの力を十分に取り入れていないクライアントのROIが、かなり低い水準にとどまっていることです。上手に利用できれば、ROIが50%以上向上する可能性もあります。ただ、オウンドメディアやコンテンツ開発が絡んでくると、けっして容易なことではありません。検索行動をテレビの視聴のタイミングと連動させるなど、相互作用を考慮しプランニングする必要があります。最終的に重要になるのは、物事がどのように互いにつながっているのか、エコシステムの仕組みを理解することです。そして、最適なコンテンツをそのシステムに当てはめるのです。また、エコシステムの価値を大きく左右するのがEコマースであることも重要な観点です。商品を消費者に最終的に買わせるにはどうしたらいいのか。そのプロセスを消費者にとって、できる限り簡単な形でより進化させることで、ROIもかなり改善するはずです。我々のような会社にとって、それはとてもやりがいのあることです。
中川:電通とは、どのようなコラボレーションを期待していますか?
ウィーバー:まず、今回、電通の人たちに、モデリング分析のアプローチやクライアントへのソリューションの提供について詳しく説明する機会を得て非常に満足しています。ここ半年から1年、電通とどのようにコラボレーションできるか話し合いを重ねていて、今は、D2Dのノウハウをいかようにも提供できる状態です。また、グローバルでも私たちのツールがプランニングをどうサポートできるのか検討を開始しています。
もう一つ関心のある分野は、データ、クリエーティビティー、戦略、テクノロジーすべてをどのように組み合わせたらいいのかということです。これに関しては我々のクライアントも非常に高い関心を持っています。すでにこの分野に取り組んでいる電通も、電通イージス・ネットワークの他のエージェンシーも協調して技術やノウハウを持ち寄れば、チャンスはいくらでもあります。データがこの分野でいかにその役割を果たすことができるか。私たちは、電通内のデータソリューションチームとも連携を図りたいと考えています。