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実践 インバウンド最前線No.1

沸騰するインバウンドの正しい攻め方(後)
~やまとごころ 村山慶輔氏×電通 髙橋邦之~

2015/07/20

前回に引き続き、インバウンドビジネス専門家・村山慶輔氏に今日のインバウンドの現状と課題、そして攻略法を聞きました。


外国人目線で資源のキュレーションを

高橋:電通でも、在日外国人をプロデューサーに起用した、地域資源のキュレーションプログラムを進めています。外国人目線による魅力の再発見ですね。

村山:外国人から気付かされることって多いですよね。その目線は本当に重要です。もうひとつ事例ですが、広島県の安芸太田町は人口6000人くらいで、高齢化・過疎化が激しい。1時間ほど離れた広島に欧米の観光客がたくさん来ることに目をつけて、何とかうまく呼び込めないかと、インバウンドに取り組み始めたんですね。神楽など伝統的なコンテンツがあるので、買い物目当ての客ではなく、文化的なものに造詣の深い欧米の富裕層に照準を定めて、現地の旅行会社を何社か視察に招いた。そうしたら、夜、神楽の練習をしている風景を見て彼らが「これだ!」と。神楽の練習体験ができるツアーが組まれて、それも夜だから泊まりになるのですが、実際に欧米の富裕層がどんどん来始めているそうです。
これはアジア人を対象にしていたら、きっとダメだったと思うんですね。ターゲットを明確にした上で、海外の旅行会社の目線を取り入れて、売れるコンテンツを開発した良い事例だと思います。

高橋:グローバルなシティーガイド「タイムアウト東京」代表の伏谷博之さんと仕事をする機会も多いのですが、やはり同じような話をしていました。ある県がタイムアウトの海外の記者たちを招請して、最初は県が決めた観光コースを見てもらった。でも結局、記事になったのは記者たちが独自に目をつけて取材をしたところで、しかもすごい反響で人も大勢来たそうです。

村山慶輔氏
村山慶輔氏

村山:それから、その地域の日本人自身が魅力をきちんと伝えることも大切です。地元の人が語れば深みもある。そのためには、日本人が自分の故郷や住んでいる地域を知ることがとても重要です。
スイスでは、小学校とか中学校で「地域学」を学ぶそうです。地元のペンションのオーナーや、観光事業者などが学校に来て、自分たちのビジネスについて教えるそうです。小さい頃から、地元は何で成り立っているか、どんな人たちがいるのか、どんな魅力があるのかなどが刷り込まれるんですね。大きくなれば、みんな観光案内人になれる。日本人も自分自身の国を知るために、個人の努力ももちろん大切ですが、教育などの仕組みとして底上げしていく工夫も、今後必要になってくるのではと思います。

高橋:地域の人たちには、自分たちの宣伝マンになってほしいですね。僕も、ローカル放送局の人に「エリアの魅力を発見するコンテンツをつくってほしい。テレビで放送するだけでなく、ウェブで流す方法もある。動画は、言語の壁を越えて映像と音で 魅力を十分に伝えることができる。まさにコンテンツメーカーのプロによる自分たちのエリアの魅力発信は、とても重要になると思う」と話をしたりしていま す。

村山:さらには、実際に海外に 行ってみることも大切ですよね。結局、引っ込み思案になるのは、外に行ったことが ないからだと思うんです。外に行けば行くほど、自分を客観的に比較できる。なるべく若いうちにその経験値を持ってもらうのは、絶対に重要です。また、海外 に行かなくても、外国人と話をしてみるとか、海外の目線で地域の魅力を再発見する方法はたくさんあると思います。

インバウンドで変わる日本に先手を打つ

高橋:6月、観光庁が新たに北海道の道東、東北、中部など、国内の新しい7つの観光ルートを認定しましたね。

村山:エリアの連携はとても重要ですが、それに覆いかぶさるようなオールジャパンで売っていく、という動きも同様に重要です。日本の観光庁も全体をどうプロモート していくかという発想ですし、さまざまな業種で協会ができるなど、動きがでてきています。例えば、ゴルフ。日本ゴルフツーリズム推進協会というのができて、ゴルフという横串で、北は北海道から南は沖縄までさまざまなゴルフ場が加盟して、オールジャパンで売っていこうとしています。日本のゴルフ場の魅力は通年で楽しめるところ。季節によってプレーできる地域が変わるので、通年で「日本=ゴルフ」というイメージを訴求するにはオールジャパンでの取り組みが重要です。ゴルフは一例ですが、他のスポーツや、我々が今理事をやっているジャパンショッピン グツーリズム協会では東京から始まって、札幌、仙台、関西、福岡、沖縄と、日本全体で外国人を歓迎していこうとしています。他にも日本全国でビジネスを展 開している大手流通や、大手不動産なども、地域の拠点と同時にグループ全体をプロモートしていこうとしています。

高橋:2月に発売された村山さんの著書「訪日外国人観光ビジネス」は好評で、重版だそうですね。僕たちもすごく参考にさせていただいています。本を書かれた時点と比べて、今の状況をどう見ていますか。

村山:一つは、投資がすごいですね。投資家向けにもセミナーをやったりしますが、海外の投資家から、日本の不動産、商業施設、宿泊施設などのインバウンド銘柄の可能性について、すごい問い合わせが入っています。

企業が、自分たちのインバウンドへの取り組みを海外にPRしていくことが、株価に直結するようになってきています。そのあたりの広報活動によって株価が変わってくる動きは、今年に入ってからですね。

高橋:なるほど、インバウンドにはそういう側面もあるんですね。

村山氏の著書「訪日外国人観光ビジネス」(翔泳社)はインバウンドビジネスの基本知識から実践まで網羅

村山:それから、外国人観光客が通年で増えてい ることで、時間軸、曜日軸、季節軸が消滅しつつあります。LCCの台頭の影響も大きいですね。先日福岡へ行きましたが、今まで朝と夕方に利用客が集中していて便もその枠に限られていたのが、LCCが増えたことで今や一日中飛ぶようになった。しかも週末以外はスカスカだったのが、平日もずっと忙しい。季節も、今までは中国人が春節に集中していたのが、今年は桜の花見シーズン、そして5月に入っても同じくらい観光客 が来るようになっている。アジア各国・地域の休暇に合わせて、観光ビジネスが通年化しています。

その大きな影響として、雇用も通年化して安定するんですね。屋形船のオーナーが言っていたのですが、今まで夏の特に花火の時期くらいしか忙しくなかったのが、ずっととぎれず利用されるようになってきた。季節雇用だったのが通年雇用でいけるようになって、サービスの質が担保できるようになったと喜んでいました。全て、インバウンド需要です。

高橋:話を伺って、インバウンドの重要性をますます認識しました。ただ、そうは言っても、オリンピック以降が不透明だったり、なかなか各社が思い切った投資に踏み切れずにいる、という感触もあります。

高橋邦之氏
高橋邦之氏

村山:今、マーケットが40%伸びていて、 40%マーケットが伸びているということは、売り上げも40%伸びて当たり前、平均値なんです。なので、売り上げの伸び率が40%を超えているかどうか、 ひとつの目安として見てほしいとお伝えしています。今、 棚からぼたもちではないですが何となく恩恵を受けている状況だと、仮に円高に振れたときにさーっと引いていく可能性がある。良質な顧客体験を提供し、ブ ランドを認知させ、次回は指名してもらう。そのためにも、ターゲットをきちんと定めて、サービスを開発し、情報発信をする。今うまくいっているからこそ 徹底してやるべき戦略です。

インバウンドが盛り上がっているといっても、売り上げ全体の比率でいうとまだ1割もいかないところが多いと思います。ハードへの投資もなかなか難しい。その中でどれだけ労力や予算を掛けるか、というのは経営の課題としてあると思いますが、それでも今やれることはたくさんあります。

例えば、今は団体旅行を中心としたアジアからの観光客が注目されがちですが、この先必ずFIT(Foreign Independent Travel/海外個人旅行)化が進みます。北海道はインバウンドの代表的な成功事例で、アジア人観光客に非常に人気があって、団体客が呼び込めるように 旅行会社とも関係も構築できています。でも、すでにFIT先進国である欧米人に来てもらおうとする次の動きが始まっている。欧米、特にアメリカを中心にノ ウハウを培うことによって、いずれ起きるFIT化を先取りしようとしています。
われわれがお付き合いしているところは、2年後、3年後のイノベーションを考えています。売り上げをウッと段違いに上げるためのアイデアを必死に考えていますし、そうあるべきだと思います。それがまさに、きめ細やかなマーケティングということなんですね。

高橋:今売れているからこそ、先を見据えて取り組むチャンスなんですね。私たち電通グループも、お取引頂いている各社様に信頼できるサポートを実現できるよう、日々努力していきます。今日はどうもありがとうございました。