新明解「戦略PR」No.25
最近のカンヌって、全部が全部PRカテゴリーじゃねーの?
2015/07/23
ボンジュール♪ みなさま。フランスかぶれの輩が巷にあふれるこの季節がやってきましたね。あの、ライオンの季節が今年も! ということで、例年に沿って「イグチの目」(ん?どっかで聞いたような?)でカンヌの各受賞作品を解説していきます。
もちろん受賞作を「あれってすごいよね!」「これ、むっちゃおっもしれー♪」って言うだけでは意味がございません。みなさまのお仕事に「すぐに役立つ、マネしたいあれこれ」をピックアップしていきたいと思いますので、お楽しみに。題して、「まずマネることから道は拓かれる!」です。あ、パクりってことじゃないですよ、そこんとこ、言い方気をつけてくださいね。
今年のカンヌはカオスじゃね?という印象
最初に申し上げると、私の感想は「今年はなんか傾向つかめないなー」という感じです。例年、時代を反映するような潮流があって、「次はあのトレンド目指してみよ!」という指針が持てるのですが、今年の受賞作品のバラバラ感ったら…。まーどうしましょ? ってところです。でも世界中から個性豊かな審査員が集まっているわけですから、同じ作品に評価が集まるってのも、まぁおかしな話なのかもしれませんね。今年はカテゴリーをまたいで受賞する強力なエントリーがなかったようですが、各部門ともやはりPR的な目線が盛り込まれたものが多かった気もしています。手前味噌ですが、どんどんPR視点での話題作りが拡がっているような。自分の分野なんで贔屓目に見てしまうんですかねぇ。いやぁ、やっぱり我が子はKAWAIIってことで…。
少し違う観点ではありますが、ひとつ強く言えるとすれば、今年はさらに日本からのクライアントが数多く参加していたなぁということ。もともとは作り手の祭典であるはずのカンヌライオンズですが、年々クライアントも参加するようになってきてるんですね。今年は右を見ても左を見ても、なんか見かけたお顔がたーくさん。そう、もはや作り手側のみならず、コミュニケーションやクリエーティブの最先端で何が起きているのかをクライアント自らが感じるために来ているのだと思います。いわば「自身の目で確認しに来ている」ということ。エージェンシーから漏れ聞く話しでは物足りない、信用できない、ということではないでしょうが、もしかすると最先端を走る各企業がどのような姿勢で、覚悟でコトに臨んでいるのか、そんなところを自身を鼓舞するために来ているのではないかとも感じました。そして、すぐにでも取り込めそうなものを学んでいくのです。いやいや、いいことですよね。
そこで今回は、ここ数年、私が感じている、世界の潮流に合わせて、ショートリストからグランプリまでを対象に、幅広く作品をピックアップし、すぐに「取り急ぎ○○をやってみた!」とできそうなケースをご紹介します。まさに「イグチ・コレクション」というか、「トリビュート by イグチ」というか…。あ、なんかここで間違いに気づいちゃいました。ワタシ「イグチ」でなく「イノクチ」でした。いやー、変換ですぐ出てこないんでね。
「ソーシャル・グッド」を、きちんと目的とリンクさせよう!という動きが加速中
最初に言っておきたいのが、ちょっと前まで皆が口をそろえて言っていた「ソーシャルグッドって大事よね」という潮流がどうなったのか、ということ。カンヌ全体を見ると、やや印象が薄まってきたように感じますが、ソーシャルグッドが消えたというよりも、もはや前提として考えておくべき当たり前のことになっている感じがします。
今年のゴールド受賞作品では、半数ほどがこういった社会課題にひも付いたアプローチを包含しており、やはり「やっぱそれはいいことだよね」という共感による評価が高かったことがうかがえます。しかし、さまざまな社会問題があるものの、企業活動にダイレクトに結びつくような問題はそうそうありませんし、あまり遠いところから無理やりに関連性をうたってもなんかちょっとね、ということで、現在はより企業の目的にリンケージさせる試みがなされているようです。現在これらは「ソーシャル・パーパス」と呼ばれる新しい動きとして紹介されていますが、以前から私は企業の本業から離れたCSR的なものは何の意味も成さないと言ってまいりました。この辺り、少しばかり反映されてきたのではないかという印象ですね。
すなわち、社会課題という入り口に自社のスタンスを近づけて見せるというよりも、そもそもの企業活動がどこまで社会に対して利益を提供できるのか、その企業やブランドの成り立ちにまで立ち返って見つめ直し、本気感をもってメッセージングをするものが大きな評価を集めたということ。やはり企業のためになっていないと意味がないということに、今更ながらに気づいたといってもいいのかも知れません。(偉そうですみません)
例えば、PRカテゴリーでグランプリを獲得した「#LikeAGirl」です。これはP&Gの生理用品「Always」ブランドが、生理の始まりという体の変化のタイミングによって女性がさまざまな場面において自信をなくしてしまうという現象を変えたいというキャンペーン。女性を応援する企業としての立場を明確に示し、当の女性のみならず世の中の男性に対してもメッセージを投げかけたそのやり方は非常に巧みだったと思います。
「女性っぽいしぐさをしてください」という投げかけに世の中の男性・男子たち、あるいは成人女性までもが弱々しいしぐさを演じますが、当の思春期前の少女たちはそれとは真逆な、非常に力強い振る舞いを見せつけます。この対比により、世の中の女性を見る目がいかに偏見に満ちているかをもあぶり出す仕掛けになっており、自分自身の固定概念、ステレオタイプ的な考え方に再度気づかせられるのです。
一方で、このキャンペーンは女性たちに自信を取り戻してもらうことを入口にしながら、ブランドへのロイヤルティ強化も同時に図っています。特に女性は成人前に使っていたモノをそのまま使い続けるという傾向も強く、この時期に出会ったブランドの継続使用が望めるわけですね。調査によると思春期前の少女5人中4人が「Alwaysは“Like a girl”というフレーズの概念を変えることに寄与している」と答えたそうです。
このような「世の中の固定概念」を覆そうというのは非常に体力のいる、難しい問題だと思いますが、それにあえて挑戦した姿勢は称賛に値するでしょう。ジェンダー問題は開発途上国のみで起きている問題ではなく、先進国においてもいまだ存在するのだと感じさせる、大きな問題提起になったのではないでしょうか。これも「こういう世の中を変えていくP&G」に共感を獲得するのが目的なんですよね。そういう太いつながりがあるかどうかで「ソーシャルグッド」の意味も大きく変わってくるのではないでしょうか。
同じく一昨年、多くの賞を獲得したユニリーバ/Doveの「Real Beauty Sketches」や「Camera Shy」の系譜としてエントリーされていた「#ChooseBeautiful」はバズでもすごい反響を残していましたが、今年はシルバー止まりとなりました。P&Gが女性の自信を取り戻す応援をしたのと同じく、自社の「女性の美しさを応援する企業」としての姿勢と、「自分の美しさに自信を持ってほしい」というメッセージの秀逸な気付かせ方が常に評価されていましたが、今年はあまり上位にはきませんでしたね。
しかし、「自社の立ち位置をしっかり認識し、社会に対してその価値を発信し続ける」という企業姿勢は、今後も重要視される流れと私は考えています。今一度、「自分の会社の社会的価値とはなんぞや?」と考えてみるのも良さそうですよね。
「固定概念」を捨て、成果のための最適手法を考える
同様の流れで、もうひとつ気になったのがボルボの「Life Paint」です。ボルボと言えば車のメーカー。しかし、今回発売したのは自転車ユーザー向けの発光スプレー。「なんで自動車メーカーがそんなものを発売するの?」と思われるかもしれませんが、ボルボは自動車メーカーの社会的責任として、クルマが引き起こす事故に真っ向から取り組む姿勢を打ち出したわけです。みなさんのイメージではボルボの車は非常に頑丈で、エアバッグなども最新のものを搭載、常にドライバーや同乗者の安全を守り抜くための努力を怠らないことで、その安全性への取り組みが印象に残っていますよね。ところが、今回はクルマに乗っている人だけでなく、その周辺の人の安全性まで広く考えるべき、という結論に至り、接触事故を未然に防ぐための発光スプレーを開発し、歩行者や自転車ユーザー向けに発売したんですね。これが大ヒット。
この背景にあるのが、彼らが定めた「2020年までに、ボルボ車が起こす自動車事故を0に!」という目標。特に夜間の自転車ユーザーとの接触事故が多いので、自転車に乗る人たちの視認性をアップさせ、ドライバーが事故を回避できるような手を考えた、ということなんです。ライトを明るくするなど、自動車自体の機能を向上させる、あるいはドライバーの意識を変える教育を施す、という自分たちの手の届きやすい部分の対応のみではどうにもならなかった問題に対して、接触事故の相手側となる生活者自体のあり方を変えていこうという、「逆目線」で展開したこの施策。
まさにコロンブスの卵のような発想で、車側でどうにかしなきゃ、という「自身の固定概念」を捨てて取り組んだキャンペーンと言えるのではないでしょうか。「成果のためには手段を選ばない」というその覚悟(悪い意味ではないですよ!)が、本気感を感じさせる良い取り組みとなっていると感じました。
「固定概念」を変える「きっかけ」を作り出そう!
同じく固定概念を捨て去るところから始まった事例を紹介しましょう。これはPRではブロンズを、ダイレクト部門ではゴールドを獲得している作品で、アルゼンチンのヘルスケア分野の啓発活動を行っている団体が塩分の過剰摂取を抑制するWorld Salt Awareness Week(塩について考える週間)で展開したユニークなキャンペーン「The SALT YOU CAN SEE」です。
みなさんも経験があると思いますが、少し塩味が足りないな、と思って卓上塩を手に取りパッパッと振りかけ、いざ食べてみると「うわっ!塩辛い!かけすぎた~(泣)」みたいなこと、ありますよね。あれってどうしてなんでしょう? なんでどのくらいかけたかわからないのかなぁ、と考えた時に浮かんだのが、 「塩って白っぽく、半透明だからわかんなくなっちゃうんだよね」ということ。でも誰もそれを解決してこなかったわけですね。そこで彼らが仕掛けたのが「塩 をカラーリングする」という暴挙(笑)。
「白いから分からないんだよ、これパープルにしてみよう、パープルに♪」ってんで、紫色の塩をみなさんに配布、実際に振りかけてみると派手な色がお皿に舞い散り、「うわっ!おれって普段こんなに塩をかけていたのか!」と気付くという仕掛け。もちろん、体に害のない着色料で色を付けてます。
一度、そういった体験をすると、やはりのちのち気を付けるようになるんですね。これは日頃の習慣について、なにかしら考えさせるきっかけを作りだして、その強い印象から意識を継続させるという取り組みですが、ここにも「固定概念を捨てる」という視点が生きているように思います。そういうアイデアが、記憶にも残りやすいということなのではないでしょうか。願わくば、私もこのカラーソルトが欲しいところです。売ってくれればいいのになぁ。
「きっかけ」となる場作りも積極的に仕掛ける
きっかけ作りってのも、ある程度の意識をもっている層に対してはいいのですが、それさえもない対象にどう接触を図るか、というのは難しいところですよね。口コミによる話題拡散からその映像にたどり着かせた「#LikeAGirl」や「#ChooseBeautiful」、健康問題の啓発週間というタイミングに病院で展開されたセミナーなどをその機会提供に活用した「The SALT YOU CAN SEE」などは、ある種のレールが用意されていたとも言えます。もっと偶発的にでも、意識を高めるための接触機会が作れないものだろうか。もっと生活者に近いところに出張っていってもいいんじゃないか、というヒントになるのがこちらの「THE DANCING TRAFFIC LIGHT」です。
ドイツのダイムラー社が行ったキャンペーンで、こちらも事故防止のために歩行者側の意識改革に取り組んだもの。日本ではルールを守る人が大多数ですが、海外では赤信号そのものが「注意して渡れ」みたいに捉えられている場合もありますよね。なんでみんな赤信号を守れないのか、待てないのか? というところから、「そうだ、楽しい信号なら待っている間も退屈しないのでは?」という逆発想で、信号待ちを楽しくしてみました♪ という取り組み。なんと赤信号内のヒト型サインが音楽に合わせて踊りだすという、なんとも楽しいエンターテインメントに早変わりです。しかもそのダンスがバラエティに富んでいること! 実は、近くにあるブースで、実際に人間が踊っていて、それが信号サインに変換されてるんですね。
エンターテインメントを提供する側も一般の歩行者で、自然と楽しく参加したくなる仕組みになっています。偶然出会って、見て楽しんで、あとでしっかり考えてみる、という体験創出のこのアイデア、その後5つの都市からやってみたいというオファーがあったとか。こういう自然伝播的な成果も良いですよね。これは残念ながらPRではショートリスト止まりでしたが、アウトドアカテゴリーでブロンズを取ってますね。
「一度の体験」が習慣化へ 積極関与の「体験」を生み出す
さて、最後にこちらの事例をご紹介。オランダでバレンタインデーに合わせて行われた「A KISS IS A STAMP」キャンペーンです。欧米では日本と異なり、男女を問わず、恋人や親しい人に花やカードを贈るのが定番となっていますが、そこに目を付けたのが郵便局。切手を貼るスペースに、粋なキスマークを印刷したバレンタインデー専用のポストカードを発売したところ10万枚とバカ売れ♪ 前年比で283%の売り上げになったほか、年間で40%もポストカードの販売数が増えたとか。
実は私、手紙振興のためのお手伝いもさせていただいておりますが、やはり手紙を書くってなかなか面倒でついついサボってしまいがちですよね。でも「このカードはもらったらうれしいんじゃないかな」という、相手側に立ったものが提供され、それが実際に贈ってみようと思うきっかけにもつながり、相手からも喜ばれて「良い体験」になったことが、その後のポストカードの売れ行き向上にも寄与したのではないかと思うのです。要はきっかけを提供して、良い体験をしてもらうことが重要。「もう興味ないだろう」とか「いくらやっても変わらないよね」とあきらめずに、何かしらの接点、きっかけを作っていくことが現状打破への一歩だと感じさせる事例でした。
まだまだいくつも、自分の考え方に沿うもの、刺激を与えるもの、また逆に「なんで?」という疑問を抱かせるものなどが数多くあります。カンヌライオンズは、単なる作品コンペにあらず。ここから何を導き出せるかが大切なのだといつも感じています。そんなそれぞれの目線を通じて、各種の事例を語り合うのもヒントになりますよね!クライアントさんも自身のイマジネーションを強めて、エージェンシーとももっと突っ込んだ議論ができればきっとすばらしいキャンペーンが生まれるはず。 もしカンヌにご興味あれば、ワタシご案内しますんで、来年、誰か連れてってくださーい。日にち確保して、待ってマース!!