Experience Driven ShowcaseNo.18
ミラノ万博 クールジャパンのプロデュース
2015/08/06
現在開催中の、ミラノ国際博覧会(ミラノ万博)は、「地球に食料を、生命にエネルギーを」をテーマに、140以上の国と地域が参加しています。経済産業省博覧会推進室で、万博日本館の「クールジャパンデザインギャラリー」に取り組まれた馬場亮氏にインタビューしました。
取材・編集構成:金原亜紀 電通イベント&スペース・デザイン局
日本の匠の技、伝統的工芸品の発信を、ミラノで!
浦橋:日本各地の伝統的工芸品をクールジャパンデザインとして世界に発信することや地方創生とのつながりをどのように考えられましたか。
馬場:伝統的工芸品とそれを支える匠の技は日本全国に点在する地域資源であり、海外に紹介することで、より日本への関心を高めていただく機会をつくりたいと思いました。
浦橋:「クールジャパンデザインギャラリー」というタイトルで、地方の伝統的工芸品の技を、デザイナーの佐藤オオキさんのデザイン力とかけ合わせてアピールしています。企画作業中、二百数十もある候補から実際に工房を訪れ、出来上がったものを見て、どう感じられましたか。
馬場:ある工房に伺ったときに印象的だったのは、伝統的工芸品は、他の産地と比べられるケースが多いということ。技術的、歴史的なことよりも、マーケティングの差が大きいという話でした。そして、マーケティングが足りなかったと、はっきり認識されていました。今後、日本の伝統的工芸品を世界に発信していくときは、マーケティングが重要だと思いました。それと同時に後継者の育成が課題です。お伺いした工房は、20年前はブームもあり、職人さんが20人ぐらいいたのが、今は4人しかいないそうです。
伝統的工芸品は技術にいろいろ工夫をされて、手になじむようになっているとか、使いやすくなっているとか、日常で使われてきたものだからこそ磨き上げられた技がある。全国で222件を指定していますが、日本各地に点在しているにもかかわらず、同時に全国で競い合ってきたんだなと思いましたね。例えば、南部鉄器と山形鋳物、太平洋側と日本海側で奥羽山脈を隔てて離れているじゃないですか。離れているのにそれぞれが発展している。日本全国ですばらしい技と伝統を守ってきたのですね。
デザイナー佐藤オオキ氏の突き抜けたデザイン
浦橋:デザインプロデュースに佐藤オオキさんが決まって、デザインをいくつかご提案いただきました。nendo事務所での最初の打ち合わせのときの印象はいかがでしたか。
馬場:本当に衝撃的でしたね!すごかったですよ。プロトタイプを3Dプリンターでつくってくださっていたんですが、今まで見たことないようなデザインで、しかも、日本のこういう技をクローズアップして出したいんだと力強くコンセプトを語りながら次から次へとアイデアを出されて。物事を裏から見るというふうにアイデアの導き方を説明されていました。
浦橋:特に印象に残っているものは何ですか。
馬場:海図を織ったテキスタイルはびっくりしました。
浦橋:産業廃棄物として捨てられている海図、海の地図そのものがデザインになり得るんじゃないかというものですね。海図の上に、縦糸・横糸織りまぜて、海図そのものが模様になるエコなデザイン。
馬場:しかも海図なので、防水なんです。伝統の技とエコの融合というところですね。そういう捉え方に感心しました。あと、デザイン的には薩摩焼の小鉢「タマゴのヒビから黒がにじむ器」が興味深かった。
浦橋:コラボレーションも良かったですね。
馬場:山形鋳物の急須には、ふたがついているんです。ふたを、山中塗とコラボした。
それぞれの産地を、オオキさんのデザインがつないだ。非常に面白かったですね。
浦橋:佐藤オオキさんのデザインがあって、それをつくってくれる産地の職人の方の技があるわけですが、短期間で彼らのモチベーションを高めつつ、それぞれを実現させるのは大変だったのではないですか。
馬場:それは本当に課題でした。まずデザインを面白いと思っていただかないと、産地に話も聞いていただけないということがあって。その上に繁忙期に入っている産地は、お声がけしても全く興味を持っていただけない。頭から「もう無理」と言われてしまったり。
浦橋:佐藤さんから何となくイメージする産地の案、○○焼とか○○塗というのはあったのですが、マッチングには多くの方々の協力が必要でした。やっと決まっても今度はそれをしっかり製作管理しなければならない。佐藤オオキさんのデザインに共感して受けた産地もあれば、万博がゴールじゃなくて、もっと長い目での地域の活性化につながるような、今後も販路をつくっていくことで乗ってもらえたケースもある。
馬場:そうですね。マーケティングは本当に重要で、ミラノ万博が開催されている今年から更に、これらを世界に発信していきたいと考えています。
ミラノ万博の成果を、クールジャパン発信の未来に生かす
浦橋:クールジャパンをこれからどういうふうに展開していくか、経産省としてはどのようにお考えですか。
馬場:伝統的工芸品といっても、昔からあるトラディショナルなデザインと、今現在のモダンデザインと、未来の新しいデザイン…NEW DENSANという、三つのタイプごとに、それぞれに適した形で売っていけばいいのですが、新しい見せ方の切り口で古いものを外に出していくということも考えています。伝統的工芸品産業振興協会さんは、ミラノの市内で「伝統工芸ミラノスクエア」というのを設けています。
浦橋:期間限定のショップですね。
馬場:ミラノ万博の期間、5月1日~10月31日の開催で、ミラノ万博の来場者を取り込みつつ、海外市場にどうDENSANが受け入れられるか、一定期間設置することでしっかりとテストマーケティングを実施するようです。また今後、伝統工芸と色々な分野のコラボレーションが増えていけばよいと思います。クリエーターだけじゃなくて、メガブランドのルイ・ヴィトンやエルメスと伝統工芸のコラボなども生まれていて、ルイ・ヴィトンは輪島塗と組んで漆器の小物入れをつくったりしています。そんな中、未来の発展に向けて後継者問題は解決しないと。産地の人は「このままでは技そのものが消えていくんだ」と、すごく危機感を感じていました。
張:京都の染めの技術も継承者がいなくなる可能性があり、志のある若者を区役所となど行政の職員として雇うという、特別なプログラムがあります。ある程度のベースの生活費を支援しつつ、仕事として伝統技術を学んで継承していく。そこまでしないと難しいような状況が生まれているのかもしれませんね。
馬場:どこに継承すべき技があるかも含め、個々のプロデュースが難しいですね。
浦橋:記者発表のときに、佐藤オオキさんと、産地の、十数名の工房の責任者の方、職人の親分が来て、代表して源右衛門窯の金子昌司社長が話された内容が素晴らしかったです。
馬場:引き受けた以上は何が何でもやってやるという、職人さんの思いが強く伝わってきましたね。
張:今後、佐藤さんだけじゃなくて、いろいろなクリエーターと伝統工芸のプロジェクトにつながっていったらいいですね。
浦橋:ミラノ万博へ、オープン後に行きましたか。
馬場:行きました。たとえば黒いお猪口でも、ちょっと近くに寄ると模様がついている。もっと近くに寄るとつい触りたくなる。普通美術館では触れませんよね。でもクールジャパンデザインギャラリーは作品に触れることができるのです。半面、壊れる可能性もかなりありますけどね。
浦橋:普通は、危ないからといってパーテーションで囲ったりとか、ガラスの箱をかぶせちゃったり、今回は「よし、やろう」と経産省さんが覚悟して決めたんですよね。
馬場:近づいて、匠の技を見ていただきたいということで。
張:佐藤さんも、今回は用の美、身近なものをデザインして、それのよさをわかってもらうために、近くで見てほしいと。
馬場:多くの人の思いがやっと結実しミラノ万博につながりました。この流れを、新たなクールジャパンの発信、伝統的工芸品のさらなる発展につなげていきたいです。
<了>