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電通報ビジネスにもっとアイデアを。

【続】ろーかる・ぐるぐるNo.18

ぐるぐる思考 発見!モード②
(メタファーの力)

2013/11/07

前回はアイデアを手に入れる「発見!モード」の本質が(経験的には外からやって来るひらめきのように感じられるにもかかわらず)「整理」であることをお話ししました。今回はその続きで「アイデアは言葉で表される」ことについてです。

 右が故・藤島さん、
 中央がチームの先輩波多野さんで、
 左がぼくです。
 なんか恥ずかしい・・・
 

入社して5、6年目だったでしょうか。プレゼンの準備をしていると当時上司だった藤島義行さんから「で、今回の提案をヒトコトで言うと何だ?」と言われたことがあります。「ヒトコトで言えないから、こんな分厚い企画書をつくってんじゃないか!」と心底困惑したわけですが、藤島さんがおっしゃりたかったのは「アイデアをシンプルな言葉で示しなさい」ということでした。

もしかするとアイデアは必ずしも言葉にしなくても、たとえば思いついた本人がそのまま形にすれば具体策になるのかもしれません。しかし広告会社の場合、ク ライアントはもちろん、多くのスタッフが共通の認識を持たなければ首尾一貫したキャンペーンなんてできません。だからこそ「言葉で表す」習慣があるので しょう。

しかし「目標に向けて課題を解決する新しい視点」であるアイデアを言葉で表すのは、ちょっと大変です。なぜなら昔からあるものならそれを表す言葉もあるわけですが、新しい視点はそれを直接表現する言葉がないからです。

そんなとき有効なのがメタファー。あるものを伝えるとき「芸術は爆発だ」のように他のモノ(この場合は「爆発」)をたとえとして借りて示す方法です。

メタファーを使うと、伝えたいことを直感的に理解させることができます。岡本太郎さんの作品を見たことがなくても「芸術は爆発だ」と聞けばなんとなくイメージは湧きますもんね。

まだニュースになっていない地方の逸品を集めた通販サイト「よんななクラブ」を見ていると、きっと全国の皆さまが新しい挑戦をしているからなのでしょう、メタファーがたくさん見つかります。

かりんとう+饅頭

 

「かりんとう饅頭」は黒糖を練り込んだ生地で餡を包み、油で揚げて食感をカリッとさせた、ありそうでなかった和風スイーツです。それでも「かりんとうのような風味・食感のお饅頭」という新しい組み合わせのたとえ話をされると、なんとなくその味わいがイメージできます。

生+もみじ饅頭

 

広島のヒット商品「生もみじ饅頭」はあるお客様から「京都に八橋があって生八橋があるのに、広島のもみじ饅頭には生もみじはないのか」と言われたのが開発のきっかけだったとか。でも皮がカステラなのが特徴のもみじ饅頭。焼かなかったらどうするの???などと10年も試行錯誤をしたそうです。それでもその完成品を食べるともちもちでフレッシュ。まさに「生のもみじ饅頭」。メタファーが与えるイメージが鮮明で、開発者も食べる人も同じ方向性を共有できたのでしょう。

 
食べる+トマトジュース

高知には「食べるトマトジュース」があります。これはもしかすると「食べるラー油」からヒントを得ているのかもしれません。

アイデアを言葉で表す大きなメリットはここにあります。ぼくは「思考の獣道」と呼んでいるのですが、どこかで上手くいっている構造を自分が直面する問題に転用すると、意外にも簡単に道が開けることがあるものです。そのためにもアイデアを言葉で表して、しかもストックしておくことが有効です。

別の言い方をするとアイデアとは「新しい視点」ですが、歴史上生まれたことがないほど絶対的に新しいというよりは、いま競合を含め誰もチャレンジしていない程度に相対的に新しければよいのです。

 

杉山恒太郎さんがおっしゃる「アイディアが、世界に誇る日本の輸出産業となる日が来る」iという大きな目標に突き進むためにも、ぼくたちはアイデアを曖昧模糊としたままにしてはいけません。そんな不確かなものを輸入する国なんてありませんもんね。新しい視点をしっかり言葉でつかまえたいものです。

さて、次回はこの連載で違いがよくわからなくなってきたアイデアとコンセプトの関係に触れようと思います。

どうぞ、召し上がれ!

i 杉山恒太郎『クリエイティブマインド』インプレスジャパン、2011年より。