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PDCAで進化する「ディスプレイ広告」。常に最適化を試みて成果を上げる

2015/09/08

#1に続き、「ディスプレイ広告」を配信する場合のデバイスの考え方、さらに配信後のPDCAによる最適化について、ネクステッジ電通の松野泰大さん、田村浩之さんに教えてもらいました。実際の運用ではどういったことに気を付けて成果につなげていくのでしょうか。
※株式会社ネクステッジ電通は、2016年7月1日付で「株式会社電通デジタル」となりました。

■スマホ? PC? デバイスごとに考える「ディスプレイ広告」の効果的な使い方

──「ディスプレイ広告」を配信するデバイスにも、相性の良し悪しはあるのでしょうか。

田村:ありますね。例えば求人案件。KPIは会員登録と求人応募なのですが、会員登録でいえばスマートフォンの方が断然コンバージョンレートが高く、かつCPAも安い。一方、求人応募はPCの方がコンバージョンレートが高く、かつCPAも安い。会員登録は記入する項目が少ないのでスマートフォンで手軽にできるのですが、求人応募はキャリアシートなど記入する項目が多いのでPCの方が向いているんです。

デバイスによる特性を知っていれば、会員登録に関してはスマートフォンに注力してプロモーションをかけ、応募はPCでしっかりと集めるという施策が取れます。

松野:スマートフォンは、重要なチャネルになってきていると感じます。特に、安価な日用品など低関与商材中心のEコマースサイトや会員登録系のクライアントは、スマホ広告からのコンバージョンが大半になっています。

スマホのディスプレイ広告の主流は、「インフィード型」の潮流が顕著ですね。「インフィード型」とは、いわゆる「ネイティブ広告」の一種で、SNSやキュレーションメディアなどの記事と記事の間に表れるものです。Yahoo!も採用していて、弊社で実際に運用させていただいている事例でも、PCよりも高い効率の実績が多数あります。

また、「スマートフォンだとコンバージョンにつながらず効率が悪い」と思われる商品でも、実は「スマートフォンで広告を見て、最終的なコンバージョンはPCで行う」というケースが多くあるので、クロスデバイスの考え方は大事ですね。

弊社で運用していたアカウントでは、スマートフォンでのコンバージョンを100としたときに、スマートフォンで見た後にPCで購入するというクロスデバイ スのコンバージョンがプラスで約10~20ほど増えるケースもありました。これがきっかけで、スマホ広告の効果の見直しが進みましたね。このあたりも Googleでは実際にデータとしてとれるようになってきています。

ポイント:「スマートフォンで広告を見て、最終的なコンバージョンはPCで行う」というケースが多くあるので、クロスデバイスの考え方は大事

■より良い広告を目指して、終わりのない改善が続く

──ディスプレイ広告配信後の流れを教えてください。

田村:PDCAでいえば、配信まではPlan(計画)とDo(実行)、配信後にCheck(点検・評価)・Action(改善)となります。ディスプレイ広告は、キャッチコピーや色、バナーのサイズなどに変化をつけて数種類を作成します。その中から効果の高いものを選択し、最終的にコンバージョンが高いものを残して、最適なクリエーティブに近づけていきます。早いと1週間や毎日(!)くらいのサイクルでPDCAを回していますね。とはいえ、最後に生き残ったディスプレイ広告を固定するかといったらそんなことはなく、常に新しいアイデアを出して、より良いものを目指しています。なので終わりがないんですよ(笑)。

松野:Check(点検・評価)は、クライアントから要望を頂くこともありますが、自主的に提案する機会の方がむしろ多いですね。「こうやったら、もっと効果が上がるんじゃないか」と日々考えて、ワクワクしながらやっています。効果検証は実験みたいな考え方がいいのかなと思っています。

──Check(点検・評価)の部分についてですが、どの辺りに気をつけて、効果の有無を検証しているのでしょうか。

松野:大きく三つあります。一つ目は仮説を立てること。今まで配信したセグメントに加えて、別のセグメントに配信したらどうなるかを考えてみます。また、例えばスマホだったら、通勤時間帯や昼休みはコンバージョンが高まるのではないか、という可能性を考えてみます。このような仮説を立てたら、実際のデータと照らし合わせて検証します。

二つ目は「どの指標をどういう軸で検証するか」をしっかり定義しておくことです。クリック数・CTR・コンバージョン数・CPAなど、いずれを見るのかをきっちりと決めて、期間検証(施策before/施策after)で比べるのか、同時配信でA/Bテストを行うのかなどを決定。決めた後はブレないように進めていくことが大事なので、クライアントとも十分合意を取りながら決定することを心掛けています。

そして、最後はマクロ視点とミクロ視点を交互に見ることが重要です。1日だけの検証で効果が微妙にしか出ていなかったら、1週間単位で検証してみる。全体的に効果が上がったら、セグメントやクリエーティブまで細分化して、どこに一番インパクトがあったのかを検証する。最後の振り返りが重要で、こういったノウハウを地道に積み上げていくことで成果が改善していきます。

ポイント:PDCAはマクロ視点とミクロ視点を交互に見ることが重要

田村:僕が心がけているのは、クライアントからのリクエストにただコミットするのではなく、その単価がクライアントの売上金額から算出されたものなのか、妥当性を明確にすることです。例えば、クライアントから1万円のCPAを求められたとして、もし妥当性がないと感じたら、妥当だと考えるCPAを算出して提示します。そこをしっかりとすり合わせることで、本質的なKPIが固まるのだと思います。

■全体最適化を行うことで、コンバージョンが1.7倍に上昇

──ディスプレイ広告によって効果を上げた具体的な事例を教えていただけますか。

松野:自動車関連のクライアントの話です。コンバージョンは中古車の査定申し込みでした。他のベンダーから弊社に移ってこられたんですが、当初は7種類くらいのディスプレイネットワークを使って広告を掲載していました。「とにかく新しいことをやりたい」という要望が強く、ディスプレイネットワークごとの予算配分や使い分けも不明確だったんです。

そこで、まずマクロな視点から7つのネットワークを俯瞰し、個別にチューニングをしました。トレーディングデスクの考え方を用いて、日次~週次で高速PDCAを回しつつ、各個別のネットワークで最大限効率化を実施。効果が低いものや配信ネットワークが重複するものを停止して、全体予算配分の最適化を行いました。

その後、ミクロな視点でそれぞれのディスプレイ広告のクリエーティブを深掘りしました。商品を目立たせるギミックを施したバナー開発などを行った結果、CTRやコンバージョンレートが改善。5カ月ほどで1.7倍に増えました。先ほどの話に出た、マクロ視点とミクロ視点を交互に見ることで、結果が出せたのだと思います。

ポイント:マクロ視点とミクロ視点を交互に見ながらPDCAを行い、コンバージョンが1.7倍に

田村:私の場合は不動産の事例があります。そのクライアントは別のベンダーから、ユーザーの商品閲覧履歴に応じて動的にバナーを生成する「ダイナミッククリエイティブ」を実施していたのですが、広告投下量が大きくなればなるほど、CPA効率が悪化していることが課題でした。

そこで、まず設定されている目標が妥当かどうかの確認と再設定を行い、目標獲得数到達に必要な予算の再試算を行いました。その後、ターゲティング精査を含めモニタリングがしづらかったアカウント設定を見直し、最後に上流のユーザー層に向けて配信拡張などを行いました。結果は、同予算ながら獲得数の倍増に成功しました。

■「ディスプレイ広告」の進化と未来

──最後に、ここから先、ディスプレイ広告はどのように進化していくと考えていますか。

田村:よく言われるのは、スマートフォンで情報収集をして、最終的なコンバージョンはPCで行うパターンの増加です。このパターンをしっかりと分析しないと、「スマートフォンはコンバージョンが悪いからやめてしまおう」なんて話になる。でも、それって違いますよね。

例えばGoogleの場合、Google IDによってクロスデバイスでトラッキングできるレポート機能があります。一定量の匿名データが収集されたときのコンバージョンから推定する機能のため、スマートフォンで情報収集していた人が、最終的にPCからコンバージョンを行っているというレポーティングが可能になります。今後、このような分析が、より精密になっていくと思います。

松野:ディスプレイ広告に限らないのですが、デジタルデータをより詳しく見れるようになると、スマートフォンとPCはもちろんのこと、例えば、デジタルとリアル店舗でのコンバージョンなども考えられますね。

Googleの広告プラットフォームの最新機能では、Androidスマホユーザーの位置情報と連携して、広告をクリックした人が店舗に来店しているかどうか、つまり“推定来店者数”が見られるようにもなってきました。また、既に顧客を会員化できている企業であれば、ポイントカード機能をもったアプリをダウンロードさせることにより、オンラインの広告経由でサイトやアプリに来訪した人が、店舗で商品を買ったかどうかまでも追えるようになるわけです。

つまり、今後はユーザー一人ひとりの「Webスクリーン上以外の行動」までデータとして取れていく世界になっていくので、そういう意味では、デジタル広告やひいてはマーケティングの概念自体がより広がって、大きくなっていくのではないでしょうか。