人に寄り添える「People Driven Marketing」のすすめNo.3
徹底的に逆算!目標達成への設計図となるPDMターゲット設定の3鉄則
2018/04/11
ピープル・ドリブン・マーケティング(PDM)の考え方をご紹介する本連載。今回のテーマは「Person」(ターゲット設定とプロファイリング)です。
「人」を基点にビジネス目標達成までのストーリーを紡いでいくPDMでは、ターゲットとなる顧客像を解像度高く捉えることが重要です。鍵となるのは「KGI・KPIから逆算する」「行動データから実数でターゲットのボリュームを探索する」という方法です。
※なお、PDMではもうひとつ、「DeepDive」という生活者の行動観察のフェーズがあります。市場の最新動向やトレンドを生活者の意識や行動という視点から詳細に分析するというものですが、今回は割愛します。
<目次>
▼~A子さんの物語・Person編~
▼ターゲット設定、3鉄則!
鉄則1.「誰」に「どのくらい」買ってもらえればKGIを達成できるか逆算する
鉄則2.複数ターゲットを設定する
鉄則3.「実行動データ」でターゲットを設定する
▼「年間売り上げ10%増」から逆算したターゲット層とは!?
~A子さんの物語:Person編~
大型スポーツ用品店「スポーツピープル」は、最近売り上げが落ち込んでいます。店長のサポート全般を任されている入社6年目のA子さんは、「1年後に10%の売り上げアップ」というKGIを掲げ、全社員に共有しました。
スポーツピープルの年間売上高は約3億円なので、その10%ということは、年間で3000万円、月間平均で250万円の売り上げ増が必要です。
「目標を達成するためには、やっぱり新規顧客を獲得して…いやいや、既存客のアップセルやクロスセルを中心戦略にすべき?」
A子さんは目標数値達成のために、「どの層」にアプローチすればよいのか悩み始めました。せっかく具体的な数値でKGIを設定しても、ターゲット設定がぼんやりしていては、目標達成できそうかどうかの試算すらできません。
「今まではざっくりと『20~40代のスポーツ・アウトドア好きの男性』をターゲットにしてきたけど、本当はもっといろんなお客さまがいるはず」
A子さんは過去のアンケートで得た意識データに基づき、顧客のセグメンテーションに取り組んでみました。しかし、出てくるのは似たようなセグメントが多く、そもそも本当にそんなセグメントが実在するのかすら確信が持てません。どうすれば「KGI達成のためのターゲット」を具体的に想定できるのでしょうか?
ターゲット設定、3鉄則!
統合ソリューション開発室の貝塚です。今回は、PDMの基本であるターゲット特定とターゲットインサイト分析についてお話します。
前回“Objective”では、「ビジネスゴール達成に向けたKGI・KPI」の考え方を紹介しましたが、今度は「そのKGI・KPI達成のためにターゲットとする顧客層」を特定する方法を探ります。
さっそくですが、PDMにおけるターゲット設定は主に以下の三カ条の「鉄則」から成ります。
鉄則1.「誰」に「どのくらい」買ってもらえればKGIを達成できるか逆算する
必ず「実人数」でターゲット市場規模を推計していき、ファネル設計段階で算出したコンバージョン率をベースに(前回記事参照)、KGI達成が十分できそうなターゲットを設定します。
鉄則2.複数ターゲットを設定する
人々の嗜好性やメディア接点が多様化する今日的なアプローチでは、ターゲットを複数設定し、それぞれのセグメントごとに異なる適切なコミュニケーションを設計していきます。
鉄則3.「実行動データ」でターゲットを設定する
購買データ、サイト閲覧データ、メディア接触データなどの「実行動データ」に基づいてターゲットを導出すれば、アプローチ可能かつ動かし方も個別最適化しやすいターゲットを抽出できます。
以下、具体的な方法を見ていきましょう。
鉄則1.「誰」に「どのくらい」買ってもらえればKGIを達成できるか逆算する
どれだけ生活者の購買行動が複雑化しアドテクノロジーが進化しても、企業のビジネス目的は「売り上げを上げること」。冒頭のA子さんも、「売り上げ10%増」を目標に掲げていました。
売り上げは「誰が(新規/既存客)」「どのくらい買うか(個数×単価×頻度)」で分解されますから、結局は自社の商品やサービスを買ってくれそうな“人”をどうやって探索・特定していくかが肝要です。
「誰が」、すなわちアプローチすべきターゲットが特定できれば、商品やサービスを売るためのアプローチ方法(届けるメディア、情報の内容やトンマナ、タイミング、場所など)も見えてきます。
KGI達成のためには、どのようなニーズを持った消費者をどの程度顧客化できればよいのかという視点から、「目的逆算のターゲティング」を進めていきます。
今回は「スポーツピープル」の年間売り上げ10%増を実現するためのターゲット設定をしてみましょう。探索時に必要なのは下記の視点です。
図2鉄則2.複数ターゲットを設定する
従来のマス広告キャンペーンでは、テレビCMを前提に“ワンターゲット・ワンメッセージ”を絞り込むケースが多くを占めました。PDMでは、多様化する生活者の嗜好性やメディア接触・情報入手行動に対応するため「メディア接触の違い」「商品検討方法の違い」「サイト閲覧傾向の違い」などで三つ程度のターゲット設定を推奨しています。
実際にデジタル広告配信セグメントとして運用していく際も、3~5セグメント程度なら煩雑さもなく、最適化がしやすいでしょう。
※People Driven DMPの導入ケースでは、初回に仮説として複数設定するターゲットは目標達成に向けた最適化PDCAサイクルの中で動的に変化し続けていきます。
図3
鉄則3.「実行動データ」でターゲットを設定する
買ってくれそうなターゲットを見極めるための“セグメンテーション軸”には、例えば以下の四つがあります。
図4よくあるやり方は、意識価値観などの「サイコグラフィック軸」で生活者をセグメンテーションしていくこと。しかし、この方法ではA子さんと同じく以下のような問題に直面しがちです。
- 「似たようなセグメントしか出ない」
- 「本当にそんなセグメントがあるのか疑わしい」
- 「全ての変数にポジティブ or ネガティブ or 無関心な反応をするセグメントが出てくる」
- 「セグメントを分けるだけ分けたが、その後の打ち手が変わらない」
- 「狙いたいセグメントだけにアプローチする手段がない」
今は生活者の具体的な「行動結果の数値」がKPIとなり、明確な成果が強く求められるケースが増えているので、PDMのターゲット探索手法の主軸は購買データ、ウェブ閲覧データ、視聴ログデータ、位置移動データといった「ビヘイビアー軸」(実行動データ)を推奨しています。
ちなみにPDMでは、そのまま広告配信セグメントにもつながる「People Driven DMP」と連携した実行動データに基づきセグメンテーションすることで、「アプローチ可能かつ動かし方も個別最適化しやすいターゲット」を抽出できます。
図5PDMでは、まず上記のような「実行動データ」を探ることで、有望ターゲットを抽出します。
次のフェーズで、抽出した有望ターゲットごとに「意識価値観データ」などを深掘りしていき、ターゲットを動かす効果的な“仕掛け”を開発していきます。つまり、こういう順番です。
- ターゲット設定→実行動データから導き出す
- ターゲットを動かす仕掛け→意識価値観データから導き出す
なお、ターゲット分析結果をそのままDMPでの広告配信に直結させる場合、20~50万UU以上は確保できる粒度でターゲット設定しないと、ビジネス的に意味のある規模のコンバージョン数が得られず、「机上の空論ターゲティング」になってしまうケースがあります。ターゲット設定にはできるだけDMPのオーディエンスデータと連携可能な大規模行動データを使用することをおすすめします。
「年間売り上げ10%増」から逆算したターゲット層とは!?
さて、ここからは、A子さんのケースで解説します。前提として、今回のA子さんのお店「スポーツピープル」については以下の条件を仮定します。
【スポーツピープル背景情報】
■年間売上高…3億円
■その内訳…
・リアル店舗:年間2億1000万円(月平均1750万円)
・ECショップ:年間9000万円(月平均750万円)
※7:3でリアル店舗の比率が大きいが、リアル店舗は少子化や専門店の台頭の影響で下降傾向。ECショップは右肩上がり中。
■顧客1人当たりの月平均購買金額…
・リアル店舗:約1万2000円
・ECショップ:約7000円KGIは年間売上高10%増、つまり3000万円増ですので、まずはリアル店舗とECショップの売上比率7:3で3000万円を割り戻してみましょう。単純計算で、以下の目標を達成可能なターゲット設定が必要です。
■リアル店舗(72%):年間2160万円増目標
1人当たり平均購買金額1万2000円なので、年間1800人(月間150人)の購買客数増が必要
■ECショップ(28%):年間840万円増目標
1人当たり平均購買金額7000円なので、年間1200人(月間100人)の購買客数増が必要A子さんは、まずスポーツピープルのリアル店舗のID-POS(購買データ)を活用して、各種商品の売れ行きと、「現在、誰がどのくらい買ってくれているのか」を分析しました。
結果、スポーツピープルの顧客実態として、以下のような「商品×購入者層」が抽出されました(※一部)。
スポーツピープル 既存顧客購買データ分析
【既存顧客A】学校用品×「お母さん」
少子化が進んでいるとはいえ、学校用品(体操着や上履き)は毎月手堅く売り上げを上げているお店の屋台骨カテゴリー。主な購入者は主婦を中心とするお母さん。
【既存顧客B】ダイエット/エクササイズ用品×「学校用品を買いに来たお母さん」
学校用品を購入しに来店したお母さんが、ダイエット/エクササイズ用品を併買しているという購買実態が明らかに。
【既存顧客C】マラソングッズ×「40~50代の男性会社員」
マラソンシューズやウエアの売れ行きが堅調。大きなスポーツイベントが放送されたり、県内でマラソン大会が開催された前後は特に伸びる。主な購入者は40~50代の男性会社員。
【既存顧客D】アウトドアグッズ×「20~30代のお父さん」
アウトドアグッズも売り上げが大きく伸長。主な購入者はお父さんだが、購入者をお店でよく観察してみると、家族みんなで楽しそうに買いに来てくれている。
※実際の購買データ分析では、具体的な人数・購買規模などを詳細に算出しますが、今回は省略しています。
A子さんは上記A~Dのターゲット層について検証するために、大量のオーディエンスデータを持つDMP(※)を利用して、お店の商圏内に住む人を対象にアンケートを実施しました。
※電通のPeople Driven DMPでは、8.4億UB(ユニークブラウザー)のオーディエンスデータとシンクする大規模リサーチパネルをマーケティングに活用することができます。
その結果、以下のようなファインディングスを得ました。既存顧客の購買分析からは出現しなかった新データも出現しています。
【既存顧客Cの追加情報】マラソンを「今すぐ始めたい」と考える40~50代の男性は約3000人。そのうち「マラソン用品の購入意向があり、かつスポーツピープルで買いたいと回答した人」は200人。
【既存顧客Dの追加情報】アウトドア商品の購入意向を持つお父さんは2000人。そのうち100人は「スポーツピープルで買いたい」と回答。
【新情報】「女性30~40代のマラソン用品の購入意向者」が500人。非常に有望な潜在顧客層。
以上の購買データ分析とアンケート調査結果から、目標達成に向けた設計図の元となるポテンシャルターゲット像と規模を実数で把握することができました。これを踏まえ、まずリアル店舗で以下のような目標を設定しました。
リアル店舗:平均購入金額1万2000円
【ターゲット①】小・中学校の子どもを持つ健康意識の高いお母さん
目標:年間150万円(既存顧客Aへのクロスセル)
学校用品の売り場近くに、ダイエットに成功した主婦の声付きPOPとエクササイズ用品を陳列。忙しいお母さんが子どもの学校用品を買いにきた際に、いつも頭の片隅にあった「運動しなきゃ」という潜在ニーズを刺激する売り場づくりで、年間150万円程度のクロスセルを狙う。
【ターゲット②】マラソン好きの30~50代の男女
目標:200人×1万2000円=年間240万円(新規顧客獲得)
ブランディングのため、地元マラソン大会に冠協賛。また、女性向けマラソンコーナー設置と女性接客員の増員で女性顧客を取り込み。年間200人程度の新規顧客増を見込む。
【ターゲット③】アウトドア志向のお父さん
目標:100人×1万2000円=年間120万円(新規顧客獲得)
キャンプやアウトドアでのバーベキューの楽しさを親子で体感できるプロモーションキャンペーンを実施。また、ハードルを下げるためにアウトドアグッズのお試しレンタルサービスを開始。年間100人程度の新規顧客増を見込む。
しかし、リアル店舗①~③のターゲット設定だけでは年間510万円増にとどまり、目標数値には全く到達しません。
- 目標:リアル店舗で年間2160万円増
- 現実:リアル店舗で①②③の顧客へのアプローチで年間510万円増
そこでA子さんは、伸長著しいECショップでの売り上げ増加施策に軸足を置くことを考えました。ECショップへのアクセス者データに、DMPのオーディエンスデータを掛け合わせて分析した結果、ECショップ内で以下のような全く新しいターゲット層が抽出できました。
- 「ヨガや健康食品に興味を持つ30代の女性会社員」の来訪率と購入率が非常に高い。
- 来訪率はそれほどでもないが、「スケートボードなどのXスポーツ系サイトやストリートファッション系サイトをよく閲覧している20代男性層」の購入率が非常に高い。
そこで、A子さんはDMPでこの新たな二つのターゲット層がオーディエンス(UU=ユニークユーザー)としてどの程度存在するかを確認してみました。その結果、それぞれ1800万UU、500万UU規模の配信数が確保できそうなことが分かりました(拡張配信含む)。
新たなターゲット④⑤の出現です。
ECショップ:平均購入金額7000円
【ターゲット④】健康食品・ヨガ好きの30代女性
目標:2500人×7000円=年間1750万円(新規顧客獲得)
サイト来訪率・購入率ともに高い。1800万UU。想定CTR、CVRから逆算した結果、年間約2500人の新規購入者を見込む。
【ターゲット⑤】Xスポーツやストリートファッションを嗜好する20代男性
目標:1200人×7000円=年間840万円(新規顧客獲得)
購入率が高い。500万UU。想定CTR、CVRから逆算した結果、年間約1200人の新規購入者を見込む。
DMPで分析した結果の試算ですが、合計2590万円となり、リアル店舗で足りなかった分を十分にカバーできそうです。
かなりECサイトの比率が高くなりますが、これら潜在顧客へのアプローチがうまくいくようであれば、スポーツピープルの事業の軸足を今後はもっとECに寄せていってもいいでしょう。
整理すると、今回見いだしたターゲット層は以下の五つです。
【リアル店舗】
①小・中学校の子どもを持つ健康意識の高めなお母さん:年150万円(既存顧客へのクロスセル)
②マラソン好き30~50代の男女:年間200人×1万2000円=年240万円(新規顧客獲得)
③アウトドア志向を持つお父さん:年間100人×1万2000円=年120万円(新規顧客獲得)
【ECサイト】
④健康食品・ヨガ好きの30代女性:年間2500人×7000円=年1750万円(新規顧客獲得)
⑤Xスポーツやストリートファッションを嗜好する20代男性:年間1200人×7000円=年840万円(新規顧客獲得)
→リアル店舗+ECサイト合計:年間3100万円
こうしてA子さんは、あやふやな状態を脱して、目標達成につながるリアル店舗・ECそれぞれのターゲット属性と規模を発見できました。鍵を握るのはECショップで、特に④健康食品・ヨガ好きの30代女性の購入行動を最大化することがポイントになりそうです。
さて、今回の実数ベースの目標設定は、従来の漠然としたターゲットではなく、より掘り下げたターゲット分析に基づいています。その分、それぞれに最適化したアプローチを行わなくては、目標達成は困難です。
五つのターゲットに実際の来店・購買行動を促すためには、それぞれの“トリガーポイント”をどう押してやるか、つまり「いつ」「どこで」「どんなメッセージを」「どのように」届けるかが重要です。
次回は、それぞれのトリガーポイントの探索方法について解説します。(続く)