人に寄り添える「People Driven Marketing」のすすめNo.2
KGI・KPIの「バラバラ事件」起きてませんか?
2018/03/20
ピープル・ドリブン・マーケティング(PDM)の考え方を紹介する本連載。今回のテーマはObjective(目標設定)です。
マーケティングにおいて各セクション間の連携は大事ですが、現実には部署ごとにバラバラの目標を立てて動いてしまうケースが多いと思います。このコラムでは、各セクションが「人基点」で目標設定を共有し、マーケティングの効果を最大化する、デジタル時代に必須のスタイルについてお話しします。キーワードは「領域侵犯」です。
<目次>
▼~A子さんの物語・Objective編~
▼「各部署ごと」で目標設定してませんか?
▼今やマーケティングの4Pはデジタルでつながっている
▼共通のKGI・KPI達成のために領域侵犯していこう!
~A子さんの物語・Objective編~
とある街の郊外に、大型スポーツ用品店「スポーツピープル」はあります。入社6年目の社員・A子さんは、今月から店長のサポート全般を担当することになりました。最近売り上げが落ちていると、店長からは聞いています。
「売り上げを伸ばすには、何から考えればいいかな」
A子さんは他の社員たちを観察してみました。
1.マス広告担当者のB先輩→地元で好かれるCMづくりに没頭しています。
2.チラシ担当のCさん→どれだけ反応のあるチラシをつくれるか日々苦労しています。
3.ウェブサイト担当のDくん→ECサイト「スポーツピープルオンライン」での売り上げを伸ばすため、日々サイトの改善や、ウェブ広告でのトライアンドエラーを繰り返しているようです。
4. 商品担当のE先輩→新商品として何を仕入れればよいのか、話題づくりと売り上げのどちらが大事なのか悩んでいるようです。
5.売り場担当のF部長→商品を売るだけでなく体験するための新たな取り組みを考えているようです。
でも、それぞれの担当者が積極的に連携する雰囲気はあまりなさそうです。
待って?売り上げを高めるためにやっているハズのみんなの仕事が、実は全員バラバラに動いている!A子さんは何かとてもまずいことに気付きました…。
「各部署ごと」で目標設定してませんか?
電通の石谷です。今回は、デジタル環境での事業・マーケティングやコミュニケーション戦略のコンサルティングや統合プランニングをお手伝いしている筆者が、PDM的観点からの目標設定についてお話しします。
さて、皆さんは、普段どのような仕事を担当されていますか?
ウェブ電通報の読者で、この記事タイトルに反応された方なら、おそらく企業の事業部門・マーケティング部門・宣伝部門で働かれている方や、広告会社やデジタル関連会社でさまざまな専門性をお持ちの方が多いのではないかと思います。
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「マス広告の担当者とデジタル広告の担当者が連携できていない」
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「事業部と宣伝部が連携できてない」
そんな声を、仕事の悩みとして筆者もよく聞きます。
同じ目標に向かっているはずなのに部署間やチーム間での連携がうまくいかず、A子さんの職場のような「バラバラ事件」が起きてしまうのはどうしてでしょうか?
部署ごとの分業が進み、コミュニケーション不足が起きていることもあるかと思います。しかし、そもそもの仕組み的にいえば「KGI(Key Goal Indicator)・KPI(Key Performance Indicator)の明確な設定と、部門間での共有」がなされていないことが原因であることも多いでしょう。なぜうまく共有がなされていないかといえば、「顧客視点」ではなく「各部署の視点」から目標設定をしてしまっているからです。
今やマーケティングの4Pはデジタルでつながっている
これまでのマーケティングでは、企業内での部署ごとの分業が比較的効率良く機能していたため、目標設定も部署ごとで行うだけで十分だった側面があると思います。
しかし、今ではマーケティングの4P(Product・Price・Place・Promotion)の活動が、デジタル環境の中で相互に密接につながってきています。下図をご覧ください。
これらの現象は独立して考えるものではなく、それぞれが相互に深く関わっており、同時に考えていかなければならない課題になってきています。
デジタル化で4Pがつながった今、環境変化を踏まえて「顧客視点から見た、全部署で共通のKGI・KPI」を設定していくことが大切です。同じ指標を全部署で共有できれば、サービス開発やチャネル設計、コミュニケーション領域など、マーケティングコミュニケーションの施策を統合的に考える際の重要な指針となり得ます。
共通のKGI・KPI設定に当たっては、アンケート調査などによる「意識ベース」の指標と、販売数や来店数、ウェブのアクセス数など実数で表される「行動ベース」の指標を、それぞれ「顧客の意識と行動」という視点から分析します。そして、売り上げ増やビジネスの成長のために重要な指標を選択していきます。
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意識ベースの指標:アンケートなどで取得できる自社・競合ブランドに関する興味や意向・想起など
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行動ベースの指標:実数として取得できる販売データ、ウェブサイトログデータ、SNSデータ、会員データなど
重要指標を選択したら、目標とする売り上げや利益の数値(KGI)から逆算して、中間指標としてのKPIの目標数値を決めていきます。この際、意識ベースの指標と行動ベースの指標を一体的に管理していく仕組みをつくることがポイントです。
次の図のようなイメージです。
個別の案件においてKGI・KPI設定するための意識指標・行動指標の分析方法や、重要指標の選択方法・目標スコアの設定方法についての詳細は今回は割愛しますが、気になった方はぜひ電通にご相談ください!
共通のKGI・KPI達成のために領域侵犯していこう!
これまでの広告会社の仕事は、「広告コミュニケ―ションというマーケティング手段を用いて顧客のパーセプションを変え、企業の目標とする売り上げの達成に貢献する」ことが中心でした。
それが現在では、「企業の事業の持続的な成長をゴールに、広告コミュニケーションだけはない、さまざまなマーケティング手段を統合的に組み合わせて解決していく」仕事へと変化しています。
電通の開発したPeople Driven Marketing(PDM)は、デジタル環境の中でのマーケティングコミュニケーション戦略を進化させるために、電通の数千の案件を通じて生み出された知見を集約した最先端の集合知です。
マーケティングの4Pが融合していく中、考えるべきポイントが増え、迷われることも多いと思いますが、そんなときにPDMのフレームは、皆さんのガイドとなり得ます。
これからのマーケティングコミュニケーションでは、個々の施策の強さ・ユニークさと共に、その相互の関係性を把握した上でどれだけシナジーを発揮できるかが求められています。そしてそこでは、部署や役割の境目を柔軟に捉え、共有の目標を達成するために共に取り組むことが重要です。
各部署、各人が役割を認識しながらも、KGI・KPIを共有することで、より大胆に領域侵犯も行う。そんな仕事を一緒に進めていきませんか?
~A子さんの物語・Objective編~
A子さんは、各担当者の持っている意識指標データと行動指標データを集めて、学生時代から得意としていた統計手法を使って分析を行いました。
・売り上げに本当に寄与している心理指標・行動指標は何か?
・ボトルネックになっている指標は何か?
・デジタル環境変化の中で、今後伸ばしていくべき指標は何か?
その結果、以下のようなKGIとKPIを設定しました。
【KGI】
1年後、年間売り上げを10%増やすこと
【KGI達成のためのKPI】
1.商圏のターゲットにまず「好感」を持ってもらい、実際の「来店数」を増やすこと。
2.スポーツピープルのウェブサイト上で、無料ウェブ会員サービス「myスポーツピープル」に登録した上で、半年以内に2回リピートするお客さんを増やすこと。
商品担当、広告担当、ウェブ担当、売り場担当がこれらのKGI・KPIを共有することで、仕事の目的がハッキリしました。
加えて、「来店数」を増やすために商品担当とウェブ担当が連携したり、ウェブの登録会員数を増やすために広告担当と売り場担当が連携したりと、共通のKGI・KPIスコアの達成に向けて各部署の「仕事の仕方」が変化し、新しい施策を考える議論も活発になってきたようです。
心なしか、お店の仕事仲間の雰囲気も明るく前向きになってきました。(続く)