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電通がオムニチャネルについて考える。No.6

オムニチャネルはこれからどうなる? Q3.メーカーはどう変わるのか。

2015/12/03

オムニチャネルにまつわる5つのお題に対し、電通社員が「今後どうなっていくのか?」をフリップで答える企画。第3回のテーマは「メーカー」です。
4名の回答者の自己紹介を含む、第1回はコチラ。


生活者の支持を得るためには何に注力すべきか

丸山:3つ目の問いは、メーカーです。実際にメーカーやリテール企業と仕事をされているお三方と違って、松永さんはデータ分析の視点から、少し俯瞰的に全体をご覧になっていると思いますが、いかがでしょうか?

A.1:「商品力とブランド力」

松永:私はこれが、5つの中でいちばん答えを出しにくい気がしているのですが、購買の場の制約がなくなると、メーカーがすべきことは「商品力」と「ブランド力」を高めることに尽きるのかなと。

直販や、オウンドメディアでの顧客の囲い込みに力を入れるメーカーもありますが、多様な販売チャネルが束ねられていく状況になると、購買のデータはますますリテールに蓄積され、リテールのコントロール力が増すと思うのです。となると、購買に近いところはリテールの支援に徹して、メーカーはコンテンツマーケティングのようなもう少し上流の施策に重きを置くのが得策なのかもしれません。そうだとしても、やはり今以上に商品力とブランド力を高めないと、競合商品と比較して選ばれるようにならないと思います。


A.2:「ジェルボール」

上原:これは、洗濯機です。洗濯機に、ボール状の洗剤を投げ入れている。粉末洗剤、液体洗剤ときて、第三の洗剤として登場した商品です。

この商品は、生活者の気持ちを捉えているなと思うんですよね。色もきれいで、ポンと投げ入れると家事がちょっと楽しくなるよねという、そんな気分を具体化した商品だなと。これは松永さんの、商品力やブランド体験が大事だという意見と同じだと思います。

僕はリテール支援の経験が主ですが、先進的なメーカーから提案を受けると、購買の場を非常によく研究しているなと感心することがあります。どういう商品に生活者が心を引かれるのか、ショッパーマーケティングをとても深くやられている。リテールの環境を先取りして商品を考えないと、支持される商品にならないので、そこを意識した開発が重要になってくると思います。


A.3:「夢」

神野:お二人の意見にはまったく同感なんですが、ちょっと違う視点から、「夢」としてみました。

先日、某飲料メーカーの工場を見学させていただく機会があり、そこでお聞ききした話が印象的でした。今まではマス向けの製品として、品質にブレがないように、定められたの味の幅の範囲内で商品開発をしていたと。自分がおいしいと感じても、酸味なり甘味なりがその範囲に収まらなければ廃棄せざるを得ない。でも、テクノロジーが進化しオムニチャネルの時代になり、One to Oneの展開が可能になると、もっと多様なニーズに応えられるのではないか。リテールとうまく組みながらになるが、一人一人の好みに合った製品をお届けできるようになるかもしれない。今後は自分たちが今まで投資してきたが形にならなかったR&Dをそうした形で生かしたい…と。

自分たちの技術力を、今まで以上に発揮できる時代が来るのではないか、と夢を持たれている姿に共感しました。メーカーには商品を熱く語られる方が少なくないですが、環境の変化によって今お話ししたようなことが可能になれば、生活者にとってもうれしいですよね。裏を返せば「夢」が商品力とブランド力を高めるエンジンにもなるのでは、と思います。

丸山:なるほど、オムニチャネルだからこそ生きる資産があると。

神野:そんな時代になってもロットや生産ライン問題は残るでしょうが、今まで通り、画一的なものを大量に安くつくることだけを追求していると、厳しいと思いますよね。オムニチャネルはリテール主導で語られることが多いですが、メーカーも製造業ならではの視点で顧客接点をどう生かすかを考えられていると思います。


A.4:「困る」

丸山:堀北さんはネガティブシリーズで攻めますね(笑)。

堀北:そうですか?(笑) 後ろ向きという訳ではなくて、ネガティブな側面から考えると解決すべき課題が見えてきやすいと思うので。ということで、オムニチャネル化に直面して「困っている」メーカーが多いのでは、と指摘してみました。

購買の主戦場で、生活者に直接相対しているリテールと比べれば、メーカーはやはり生活者からは少し距離のある立場だと思うんです。直接やりとりをする場を持とうとして直販に取り組む企業もありますが、やはりメーカーにとっては生活者やリテール、メディアといった外的環境が先行してどんどん変わっているという状況があります。

丸山:たしかに、リテールと比較すると変化を捉えづらい点はあるかもしれないですね。

堀北:もちろん、神野さんのお話にあったように、新たな方向性を見いだして進化するメーカーもありますが、長らく広告に携わってきた我々としてはそういうメーカーだけでなく現状で困っている企業も何らかの形で支援できるのではないかと。広告はずっと、メーカーから生活者へ何を伝えていくか、という部分に取り組んできたので、リテールとの関係の中でも役に立てることがたくさんあると思っています。

オムニチャネル化が完了したとき、真価が問われる

神野:僕がEコマース事業の運営に携わっていたときは、当然に、自分が事業責任を持っていた売り場の売り上げが重要でした。どこのメーカーの商品でも良い。一方でメーカーは、自社の商品ならどこで売れたってかまわない。そこは全く違う視点で生活者に向き合っているところですね。

ではこの二者の接点をどこで持つか…というと、商品がいちばん強い接点だとも考えられるので、それは松永さんの表現に表れているかもしれないですね。

上原:神野さんの「夢」というのは、商品に夢があるというより、夢を大事にする企業が残る、というイメージですか?

神野:そうですね。私自身はメーカーに所属したことがないので、あくまで外部の視点ではありますが、やはり「より良いものをつくろう」という意識がすごく高いと思います。特に研究開発の方は、職人気質というか。

これまではマス向けプロダクトしか生産してこなかったとしても、本当はすごく尖ったものをつくれるポテンシャルがあるめーかーにとっては、それを売る場も与えられるようになるわけです。どんなに高額でも欲しいモノが欲しい、というようなニッチなニーズを満たすことが可能な環境ができると、生活者のニーズに合った付加価値の高い商品開発を怠ってきた企業はより厳しく淘汰されてしまうかもしれないですね。

松永:短期的には、値引き合戦に耐えられる企業の売り上げが伸びるとしても、中長期的な競争環境を考えると、やはり商品力で勝負がつくと思います。逆にいうと、オムニチャネル化が過渡期にある今はリテールに主導権があっても、それが落ち着いて競争環境が改めて整ったとき、メーカーに主導権が戻ってくるのかもしれないですね。

堀北:同感です。実際、価格競争になっても誰も楽しくない。生活者も、安いのはありがたいけど、安い商品を買うこと自体が楽しいのかというとそれだけじゃないですよね。ものの物質的な価値だけでなく、買って使って楽しいという体験までをつくることが重要です。それをいちばん実現できるのはメーカーであり、その部分に注力しているメーカーこそが夢のあるメーカーだといえるのではないかと思います。


Q.4「オムニチャネル時代、メディアはどう変化する?」へつづく