loading...

今、日本に「Bチーム」の本が必要な理由。No.3

Bチームに見た
「愛」こそ全てのアイデアの源

2020/08/13

趣味を超えた趣味、副業を超えた副業、特殊過ぎる前職など、本業(=A面)と全く異なる「B面」を持った電通社員によって結成されたクリエイティブチーム、その名も電通Bチーム。結成6年目にして、このBチームに着目した出版社・編集者たちの手により、偶然にも(!)同時期に2冊の本が発売されました。

なかなかこんな機会もないだろうということで、今回は、出来上がったばかりの書籍を手に、翔泳社の書籍を企画した編集者・渡邊康治氏、コンセプト採集の連載を共につくってきたForbes JAPAN編集長藤吉雅春氏、そしてBチームをつくった男・倉成英俊氏が「なぜ今、Bチームが必要なのか?」を、(リモート会議で)熱く語り合いました。

2020年7月某日、Microsoft Teams上に集合し、鼎談を行った3人の男たち。左上からBチーム倉成氏、Forbes JAPAN藤吉氏、翔泳社渡邊氏。
2020年7月某日、Microsoft Teams上に集合し、鼎談を行った3人の男たち。
左からBチーム倉成氏、Forbes JAPAN藤吉氏、翔泳社・渡邊氏。

自分のアイデンティティーが見えてくる『仕事に「好き」を、混ぜていく。』

倉成:Bチームの本が2冊同時期に発売されましたが、双方の編集者に、互いの本を読んだ感想を聞いてみたいです。まず、Forbes JAPAN編集長の藤吉さんは、翔泳社の「仕事に『好き』を、混ぜていく。」を読んだ感想はどうでしたか?

藤吉:自分のB面の見つけ方みたいなことも書いてあるんですが、読んでいて「自分のアイデンティティーとは何か?」と問われているような感覚になりましたね。B面というのは、A面があってこそ成り立つものだと思ってしまうんですが、実は陰と陽のようにAとBのバランスをとりながら人間は成り立っているんだなと気づかされました。

普段はA面に多くの時間を費やしているタイプの人も、自分のB面を深く知ることで「私って何?」というアイデンティティーが明確になる。それによって、人生の目標がシャープになるし、逆にやらなくてもいいこととか、人生の余裕が見えてくる。「私ってなんだろう?」って思わざるを得ないくらいのところまで考えさせられる本だなと思いました。

発売されたばかりの翔泳社版・Bチーム本をがっつり読みこんできた藤吉氏。
発売されたばかりの翔泳社版・Bチーム本をがっつり読み込んできた藤吉氏。

渡邊:企画した以上のところまで読み込んでくださってありがとうございます。「私って何だろうって思わざるを得ない」って、もう哲学書の域ですね。読む人が読むと、そこまで深く読んでいただける本になったんだなというのは、驚きと共にうれしいです。

藤吉:それと、本の中に「Bチームを作ろう」という内容があるんですが、組織を動かす側の立場で読んでも、この本に書いてあることは染みるほど役に立ちますね。

例えば組織を改編するとき、管理職はついスタッフの表面的な成績で「1軍」「2軍」みたいな考え方をするのですが、それをやると回らなくなるときが必ず来てしまいます。でも、そこでその人の趣味とか、いわゆる「B面」も考慮しながら、バランスを持たせて組織をつくっていくと、実はうまくいくんじゃないかと思ったんです。

例えば今副業ってよく言いますけど、副業というと、「本業があってこそ」という見方をするんですが、Bチームの考え方を組織に当てはめたとき、これまでとは違う組織のつくり方、軸のつくり方があるのではないかとも感じました。

倉成:ああ、そうですね。Bチームはまさに、「A面とB面の組み合わせ」で新しい解を出そうとしている革命部隊なんです。A面はA面、B面はB面とどちらかだけで考えてしまいがちですが、あくまでも「A面とB面を組み合わせて新しいことをつくっていく」組織だということは、なかなか世の中に理解してもらいにくいところです。

藤吉:それで、B面を持った人たちで構成されたBチームは、それ自体がプロジェクトを起こすためのプロセスなんですよね。どういうことかというと、僕はよく「桃太郎」で例えるのですが、「鬼ケ島」という壮大な目標に向かって、「桃から生まれた」というアイデンティティーを持った桃太郎のきびだんごにつられて、イヌやサルやキジといった仲間が集まってくる。このストーリーラインと、Bチームは一緒だなと思っているんです。

倉成:それ、面白い考え方ですね(笑)。自分の才能を生かす場であるBチームが、さながらメンバーにとっての「きびだんご」ですね。そこに、それぞれアイデンティティーを持ったDJが集まり、建築家が集まり、インスタグラマーが集まり、チームができたというのは、確かにその通りかもしれません。さて、そこまで読み込まれている藤吉さんが、「仕事に『好き』を混ぜていく。」を読んで好きなパートはどこですか?

藤吉:113ページの「受注や相談に応える」というのが、非常に参考になりました。つまり、Bチーム流の仕事の「請け方」ですね。私の所属するリンクタイズという会社では、Forbes JAPANという雑誌と、そのウェブ版の他にも、企業のプロモーション支援などいろいろやっています。さまざまな仕事が舞い込むたびに社内がいつも混乱に陥っているのですが(笑)、BチームではB面を生かした仕事のパターンをいくつか用意してある。それをBチーム側から「こういうことできますよ」と提案しています。

本来はこの流れが当たり前のことかもしれませんが、「うちはなぜできていないんだろう?」と気づかされました。ここに書いてあるBチームのやり方、「まず会う」「適任者を組み合わせて最強チームを一瞬でつくる」など、このプロセスが非常に具体的に参考になりました。

倉成:この本では、渡邊さんに乗せられて、だいぶ僕の秘密だったり、チームの秘密だったりをばらしちゃいましたからね(笑)。

渡邊:いえいえ(笑)。

藤吉:まだありまして、チーム運営のコツのところに、特別な「名前をつける」とありますよね。これ、すごく重要なことだよなと思いました。実は僕らも去年、Forbes JAPANのウェブ編集者全員に「あだ名」を付けるということをしたんですよ。それであだ名を付けるって、その人の本質というか、アイデンティティーを見抜いてないとできないんですよね。しかもあだ名だから、面白くなきゃいけないんです(笑)。

渡邊:編集者全員って、何人ぐらいいたんですか?

藤吉:飲み会の席だったんですけど、5~6人かな。そしたら翌日、ウェブ編集長が「あだ名を付けるのって、重要だ」って真面目にメールを送ってきたんです。そういう、日々僕らが悩んでいることの解決策が、この本にはいくつもさらりと書いてあったんです(笑)。

Bチームのワークショップでは、参加者からBチームに対して「アイデアを発想するためにはどうしたらいいでしょう」という質問がよくありますよね。ワークショップに参加する皆さん、きっと「ものすごく考えなきゃいけない」ってプレッシャーに感じているのでしょうね。でも実は、ここに書いてある、「名前を付ける」が良い例ですが、一見当たり前のことに思えるようなチーム運営の仕方をやっていくと、意外とアイデアって生まれるんですよね。

書店に行くと、組織運営に関する書籍はたくさんありますが、この本のすごいところは、本当に「今日からできること」が書いてあること。しかもそれが重要なことばかりというのが、すばらしいなと思いました。一つ一つはすごく真っ当なことが書いてあるんだけど、「よくこうやって整理できたな」って、感心しました。

倉成:それも渡邊さんの熱意の賜物ですね(笑)。根気強く、何度も「もっとないですか!」「もっとないですか!」と、渡邊さんに促されるままに、書けてしまいました。この本に書いてあることは、僕を含めてBチームみんなでやってきたことなので、まず「うそ」がないんですよね。

本をつくるとなって最初に、渡邊さんが「悩める若者から、Bチームへの質問集」というアンケートをつくってくれたんですよ。「あなたのB面は何ですか?」「いつから始まったんですか?」「Bチームに入ってどう変わりましたか?」などの問いに、メンバー56人全員が回答したんです。

渡邊:このBチームの皆さんの「生の回答」が随所に入ることで、フレンドリーな印象を持つ本になったと思いました。

倉成:アンケートでいろんな面から切り込んでくれたから、56人のせりふにリアリティーがある。例えば、インスタグラマーとしても活動している美容担当リサーチャーの山田茜は、アンケートへの回答で、「好きなことの尺度」を聞かれて、

「なんでこんな無駄なことに時間を使っているんだ私は‼」と自分ではっと気づき、突っ込みたくなるようなこと。その一見「無駄なこと」も、B面に育つ可能性が非常に高いです。

と答えていて。「いつの間にか自分が時間をかけてしまっていることがB面かも」という言い方がいいなと(笑)。

一方で、ダイバーシティー担当リサーチャーの阿佐見綾香は、「本業とB面をどうやって混ぜるか」という質問に対して、

本業をまずは頑張る。

ただ自分の好きな仕事をしていればいいということではなく、周りから応援してもらうには条件があると思っています。それはベースになる本業をちゃんとやれていることです。

と回答していて。それは彼女自身の体験から出た回答でリアリティーがある。

この、渡邊さんの考えた「若者」の疑問に、56人がそれぞれ回答するという形にできたことが、「実用的でうそのない」内容にできた理由かと思いますね。

すぐに人生で使えるコンセプトが集まった見本帳『ニューコンセプト大全』

倉成:じゃあ次は渡邊さんに。そもそも渡邊さんは、藤吉さんたちが編集していたForbes JAPANの連載「NEW CONCEPT採集」をめちゃくちゃ読み込んで、Bチームに連絡をくださったんですよね。だから載っているBチームのコンセプトはどれもご存じだとは思いますが、こうして改めて一冊の書籍になったものを読んだ感想はいかがですか?

渡邊:思えば、「NEW CONCEPT採集」を出力した紙の束を持って、倉成さんに会いに行きましたね(笑)。連載の時から楽しみにしていたものだったので、このKADOKAWAさんの書籍版には二つの意味で楽しみがありました。一つは編集者としてあの連載がどういう一冊になるんだろうという作り手視点の楽しみ。もう一つは単純にあのコンセプトが集まったらどんな体験ができるんだろうという楽しみです。

一つ目の、「編集者としての視点」では、自分では持っていなかった軸を用意されていたのが面白かったですね。全部で50のコンセプトを、

  • 「『個人的』が生む」
  • 「『壁』を越える&壊す」
  • 「『逆』を行く」
  • 「『既存』を最高に生かす」

と4カテゴリーに分類されているのがよかったです。自分は今何がしたいのかなって取っ掛かりになるので、興味あるコンセプトにたどり着きやすいデザインになっているなと。

そしてもう一つ、書籍という形でコンセプトの「集合」に触れると、どんな体験があるのかという点です。読んでみて、僕はこの本は「コンセプトの見本帳だな」と感じました。自分が今考えている仕事の案件やアイデアを、Bチームの一つ一つのコンセプトにくぐらせると、どんな化学反応が起こるのか?頭の中でそれぞれのコンセプトでどんどん検証をしていくのが楽しいなと(笑)。一つのアイデアでくぐらせて、何か思いつき、また別のアイデアでもやってみようという形で、何度でも読める本になっていると思います。

Bチームのコンセプトを通すことで、自分の悩みや課題がどうアウトプットされるのかが面白いと力説する翔泳社渡邊氏。
Bチームのコンセプトを通すことで、自分の悩みや課題がどうアウトプットされるのかが面白いと力説する翔泳社・渡邊氏。

倉成:まさに、Forbes JAPANでの連載を始めるときに藤吉さんと目指したのはそこでしたね。実学・実業ですぐに応用できるコンセプトを出そうということと、連載だけで終わらせず、連載を起点に、読者が立体的に活性化するコンセプトにしようとルールを決めたんです。

生まれたコンセプトをトークセッションやワークショップとして企業に提供したり、読者が応用しくれて実際にモノが生まれたり。今、イノベーションを求めている企業は多いので、「アイデア発想の手伝いをしてほしい」といわれることが多いです。そういうときに、「Forbes JAPANに載せたコンセプトがこのぐらいあるんですが、どれでやります?」と言って、実際にそのコンセプトから新しい企画や商品が生まれています。

藤吉:これ、僕の中では画期的な連載だなって思っていたんです。ジャーナリズムの世界は、「発信して終わり」ということも少なくありません。でもBチームの連載は、「社会実装」するためのもので、ここに掲載したコンセプトをたたき台として「コト」を起こしていかなければならない。つまり、読者がただ読んで終わりじゃなくて、読者にコンセプトを“実体験”させるものなので、始めるときは「責任重大だな」と思いました。

Bチームのコンセプトにきちんと名前を付けて世の中に提供して、その設計図を基にコトを起こす人がいるわけですから、安易なことはできないですよね。でも始まってみたら予想以上に多くの人に実践してもらえて。おそらく、アイデア発想の場を求めるという意味で、広告業界とのコラボレーションだったから、これができたんだろうなという気がしています。

倉成:もともとForbes JAPANの愛読者だった渡邊さんから見て、『ニューコンセプト大全』のトップ3コンセプトは何ですか?

渡邊:「Prototype for One」「あたりまえメソッド」「4次元オープンイノベーション」が好きですね。「Prototype for One」は、ものすごく素直なコンセプトなのがいいです。一人のためにという、これほど熱量をかけられるものづくりのやり方はないなと思いました。

「あたりまえメソッド」は、ナンセンス的な面白さがすごく共感できました。僕は個人的な“B面”で俳句をやっているのですが、波多野爽波の

鳥の巣に鳥が入つてゆくところ

という俳句がすごく好きなんですね。「あたりまえメソッド」に通ずるものがある句だと思いませんか。「鳥の巣に鳥が入つてゆくところ」。当たり前がゆえにだれも言語化しなかったものですが、陳腐さはありませんよね。「あたりまえメソッド」は、その、誰も注目していなかったところにある王道感がいいなと思いました。

4次元オープンイノベーション」は、“過去とのコラボレーション”というのが、盲点だったなとハッとさせられました。ネーミングの面白さもありますよね。レガシー的なものを引き継ぐみたいな言葉だとそのままなのですが、「過去」とか「歴史」ではなく「4次元」という表現がとても引きがあるなと感じました。何よりこの手法からは、実は身の回りにはコンセプトを編み出すヒントがめちゃくちゃあるということを知りました。

倉成:なかなか、いいチョイスですね。「Prototype for One」はたくさんの企業に依頼されてワークショップを開催し、実はそこからすでに新商品が多数生まれています。「4次元オープンイノベーション」も結構ファンが多く、実践例が生まれてきています。「あたりまえメソッド」はこれからですね。何かできるといいなと思ってます。

渡邊:この本は、企画職の人が読むと特に面白いだろうなと思いますね。掲載されているコンセプトは、Bチームの皆さんによって、実際に社会とのつながりがあることがすでに証明されている手法なので、企画の仮想実験をするために抜群の一冊だと思います。

Bチームの根幹にあるのは、誰かを思う気持ち、つまり愛!

倉成:チームの書籍が、同時期に2冊発売されるって、なかなかこういうことはないなと思ったんですが、今、実際に「うちにもBチームをつくりたい」という企業が増えて、相談も多くなってきているんですよ。

特にこのコロナ禍で、皆さん家に籠る時間が多かったですよね。そこで新しく自分が好きなことを見つけたり、もともと好きだったことを突き詰めたりしている人が確実に増えています。そのB面を、さて本業に生かすぞ、という時期に来たのでしょうね。お二人は、何か「今この本たちが出る」ことについて思うことはありますか?

藤吉:良いコンセプト収集ができて、それをKADOKAWAさんから本として出すことができたので、日本中に広まればいいなと思っています。そうすると世の中は変わるんじゃないかと、本気で思っています。Bチームには従来のマーケティングには希薄な、「誰のためにものづくりをするのか」という「愛」の部分がありますよね。思いやりとか優しさって、一見ビジネスとは関係なさそうに見えますが、そういう気持ちが芽生えるようになると日本は変わるんじゃないでしょうか。そもそもB面って、愛なんですよ。これが広まって、優しい豊かさがある社会になったら面白いですよね。

Forbesの連載をカテゴリ分けした書籍として再構築したKADOKAWAの編集者、谷内さん(左下)もリモート観覧にいらっしゃいました。
Forbes JAPANの連載をカテゴリー分けした書籍として再構築したKADOKAWAの編集者、谷内さん(左下)もリモート観覧にいらっしゃいました。

渡邊:そうですね。Bチームの良いところは、自分の日々の行いがちょっとご機嫌になることだと思います(笑)。そういうものを僕も求めていたし、求められているのかなと。

倉成:僕は5年前に大病をしたのですが、死ぬ確率を目の当たりにしたときに「何のために仕事をしているんだっけ?」と感じたんです。お金や地位や名誉はあの世には持っていけない。でも、「世の中的にはメジャーではなかったけど、あのメンバーで仕事ができてよかったな」みたいな思い出は天国に持っていけるよなって思ったんです。

だからこそ、自分のポジションとか自社の稼ぎばかり考えて、人類の宝である「才能」を生かそうとしないことに憤りを感じることがありました。そこで自分のミッションは、できるだけみんなにバッターボックスに立ってもらうことだと。電通社内で、例えば本業で壁にぶち当たってるけど良いB面を持っているなと思う人がいたときにはBチームで鍛錬してもらったり、いろんなA面とB面の組み合わせで新しいコンセプトを世の中に提供したり。それが今のBチームになったんです。
 

2冊の本づくりを通じて、「Bチームとは何か」を改めて考えたという倉成氏。その結果もっともこだわったのは、著者は「Bチームメンバー全員」にすることだったという。
2冊の本づくりを通じて、「Bチームとは何か」を改めて考えたという倉成氏。その結果、最もこだわったのは、著者は「Bチームメンバー全員」にすることだったという。

倉成:「Bチームをつくりたいんですけど」っていろんな企業が来たり、まねしてみたけどダメでしたという声もありますが、成功するかどうかのコツは一つだけです。仲間のためにバッターボックスを譲ったり、チャンスをつくってあげることがお互いにできるかどうかってことです。電通Bチームは他人の才能をちゃんと認めて、自分が一歩下がってバッターボックスを用意することができる56人で成り立っています。

そういうことを、この方向性の違う2冊の本をほぼ同時につくることで、再確認できたかなと思っています。ありがとうございました!

藤吉渡邊:ありがとうございました!


ウェブ電通報連載「電通Bチームのオルタナティブアプローチ」
https://dentsu-ho.com/booklets/301