「Bチーム脳」で、人類は少し進化するかもしれない理由。
2020/07/17
本業を「A面」とするなら、社員それぞれの私的活動、前職、学生時代の専攻、趣味といったものを「B面」として、これを仕事に生かそうという電通Bチーム(以下、Bチーム)。世の中に今までと違う方法(=プランB)を提供しています。
そんなBチームが生み出した、あらゆる課題解決に応用できるユニークなコンセプトを紹介すべく、雑誌「Forbes JAPAN」で5年間にわたり「電通Bチームの NEW CONCEPT採集」が連載されてきました。そしてこの連載が、このたび新たな視点で再編集され、集大成として書籍化されました!
7月17日発売の『ニューコンセプト大全 仕事のアイデアが生まれる50の思考法』(KADOKAWA)です。
ところでこの本は、世の中のアイデア発想法の本とはちょっと様子が異なるようです。どんな本なのか気になる方のために、Forbes JAPAN編集長・藤吉雅春さんによる「あとがき」を、特別にウェブ電通報に掲載します。
※本コラムは書籍『ニューコンセプト大全 仕事のアイデアが生まれる50の思考法』あとがきを転載したものです。
「電通Bチームの NEW CONCEPT採集」。2015年から『Forbes JAPAN』で始まった一風変わったこの連載を担当してきた私は、実は筆者たちに黙っていたことがある。
毎回筆者たちと打ち合わせを行い、ブレストをしてアイデアを膨らまし、原稿が届くと最初の読者としてダメ出しをしたり、絶賛したりしながらイラストの絵柄を考えていたのだが、その後、こっそり私は何度もパクっていたのだ。泥棒のようなことをして自慢するなと言われそうだが、その理由を大真面目に述べたい。
この連載の作業はいつも楽しく、発見があり、視点を増やしてくれた。そうしていつの間にか別の企画会議や打ち合わせでも私は自然と「Bチーム脳」で話すようになっていた。Bチーム脳で企画を出せば面白がられ、講演でBチームのネタを出所も言わずに話すと聴衆が面白がる。受ければ受けるほど、脳も態度も完全にBチーム化していく。
さらに私は自分が書いた本が韓国語訳されて当地で評判をいただいたこともあり、何度も韓国に講演に行くようになると、そこでもBチーム脳で話していた。会場から挙手があり質問が出ても、Bチームのような回答をしている自分がいた。それがまた面白がられた。つまり、国境も民族も超えて世界に通用するのがBチーム脳であると確信した。
たまに「人のネタじゃないか」と、後ろめたさを感じたことも少しはあった。しかし、それよりもこの効用の理由を考えた。世の中にはアイデアの出し方や企画の練り方を書いた本はたくさんある。どの本にもいいことが書いてあり、私は付箋を貼ったりラインを引いたりするのだが、たいがい忘れて使ったためしがない。
たとえば、商業エンターテインメントの世界最高峰、ハリウッドの映画界でヒットを生むための法則を書いた研究書がある。そこにコンセプトは、「単純・簡潔・明快に説明せよ」とある。ストーリーをいかに濃縮するかがヒットコンセプトの肝だとも書いてある。しかし、こうしたすぐれた本をなぜ使いこなせないのだろうとも思う。
その謎の答えは、Bチームと一緒に出かけて行うワークショップで見出すことができた。会場には企業の新規事業部の人たちが多く集まり、私はこの本に登場するBチームの面々とともに壇上に立つ。こうしたワークショップで私は気持ちが高ぶることが何度もあった。たとえば、最初にこんな質問を受けたことがある。
「イノベーションの技法を会社でも取り入れているけれど、まずは課題を見つけるために上司に質問をする時間を設定しています。しかし、何を質問したらよいのかがわからないのです」。そんな難解なことは、なんと答えたらよいか言葉に詰まる。しかし、会場の人たちと「ミラクルワードカード」を始めると、そんな悩みを吹き飛ばすように、アイデアが次々と飛び出し、「実現したら、絶対に大受けする」と思う企画が誕生する。
ヒントは単純なことだった。「ご両親や奥さんや旦那さんやお子さんなど誰でもいいので、大切な人のことを想像しながら、こんなことをしてあげたいと思ってください」とBチームが話すと、「わかる、わかる」と笑えるエピソードが次々と出てきて、それをメソッドと掛け算していく。
発表を聞いていると、私は思わず、「天才じゃないですか」と口にすることがあった。そして確信した。人の可能性の扉を開くもの。それは「愛」なんだ、と。Bチームのメソッドが受けるのは、誰かを喜ばせたいという愛情が強いからだ。だから、どんな場所に行っても、状況が変わっても、誰にでも受けたのだ。
ちょっとした愛情と思いやりがあれば、誰にでも使えるメソッド。これが地球上に広まれば、人類はまた少し進化するかもしれない。そんな夢を膨らませてくれるのが「Bチーム脳」なのかもしれない。