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Good JAPAN InnovationNo.7

【香川】桐箱でつくるクリスマスツリー。

2015/12/15

「伝統工芸×デザイン」をテーマに優れた日本のものづくりと電通のアートディレクターがコラボレーションして作品を制作し、新たな価値を世界発信するプロジェクト「Good JAPAN Innovation」。第7回は香川県の桐箱でつくるクリスマスツリーです。

桐箱でつくるクリスマスツリー。点灯
収納家具としても機能

12月となる今回は、私、大野が担当させていただきました。この時期特有のわくわく感を見た人に感じていただきたく、クリスマスをテーマにしました。
日本の文化と西洋の文化をうまく組み合わせる方法を模索した結果、桐箱とツリー、というモチーフにたどり着きました。
普段は収納家具として機能し、クリスマスにはインテリアとしても機能するプロダクトになっています。

桐材と手仕事が生み出す不思議な魅力

今回桐箱を制作してくださったのは、道久桐箱店の道久常夫さんです。「こんぴらさん」と呼ばれ全国から参拝客が集まる「金刀比羅宮」(ことひらぐう)の膝元で、約90年続く桐箱店を営む、香川県の伝統工芸士にも認定されている職人さんです。

「お客さまからどんな依頼がくるのか、どんなものができあがるのか、いつも楽しみなんです。今回も出来上がりが楽しみです」と、やさしい表情で語ってくださいました。

約50年間、桐箱を作り続けている道久さん
約50年間、桐箱を作り続けている道久さん


そんな道久さんも、制作現場では顔つきが一変。真剣なまなざしで桐材と向き合います。お邪魔した仕事場には、心地よい緊張感が漂っていました。

 接着材で板同士を仮固定
 接着材で板同士を仮固定
錐(きり)で開けた穴に木釘を打ち込みます
錐(きり)で開けた穴に木釘を打ち込みます
ツゲという木材を煮込んで軟らかくした木釘
ツゲという木材を煮込んで軟らかくした木釘
鉋(かんな)で慎重にサイズを合わせていきます
鉋(かんな)で慎重にサイズを合わせていきます

桐箱は、古くから神社仏閣の宝物箱や、陶器・茶器をいれる箱、小物入れとして重宝されてきました。
桐は、とても軽く軟らかく、その分、気密性のある製品を作り出すことができるそうです。

初めてサンプル品を拝見した際、引き出しを閉めると、中の空気が抜けていくのが分かるほどぴったりと密閉された作りになっており、素材の美しさ、そして精密な職人技にとても感動しました。

他にも、湿気を吸放出し湿度を保つ能力、虫を寄せ付けない成分が含まれていることから、収納品として、とても適しているそうです。

いろいろな利点をはらんだ桐材。アイデアひとつで、現代のニーズにもつなげていけるのではないかと感じました。

不思議なことに、桐箱に収められているものは、どんなものでも高価なもの・大切なもの・温かなものに見えてきます。それが桐箱の謎であり、最大の魅力だと、道久さんの作品を手に取って感じました。

金刀比羅宮のお土産のお守り入れ
金刀比羅宮のお土産のお守り入れ
金刀比羅宮の掛け軸入れ。こちらも道久さんの作品
金刀比羅宮の掛け軸入れ。こちらも道久さんの作品

木材で木を再構築する

今回の制作には、3つの関門がありました。

1つめは、ツリーとチェスト、2つの機能を併存させることです。
引き出しが開く方向を複数つくるのはよいけれど、部屋に置きにくいのは困るし、箱を重ねるのはよいけれど、崩れたら危ない…。

そこで、段ごとに解体、回転、組み替えが可能になるよう、ダボとへこみを付け、トランスフォームできるつくりにしました。

サイズ順に組むと美しく、ランダムに組んでもでこぼことしてかわいらしく見え、インテリアとしても十分に機能し、楽しむことができるものになっています。

2つめは、「木」らしさを担保することです。
引き出しを引いた際、ツリーの末広がりな形状に近づくよう、厚紙で何度もサンプル品をつくり、形状やサイズを検証しました。

また、一本の木に見立てるために、木目の方向をあえて縦にしていただきました。
従来は強度や加工の関係でこのような目でつくることはないそうで、道久さんの頭を悩ませてしまいました…。

ミリ単位の設計になるため、指示書はとても細かくなりました…
ミリ単位の設計になるため、指示書はとても細かくなりました…
ミニチュアの試作品
ミニチュアの試作品

3つめは、ライトの設置・点灯方法です。
プロダクトとしての美しさを極力損ねないことを目標に、電通関西支社マーケティング・クリエーティブセンターの槙島量さんに協力を仰ぎました。

こちらも、人感センサーや磁力での点灯など、いろいろと検討した結果、箱の奥にスイッチを設置し、引き出しを引くことで点灯する手法にたどり着きました。

ライトは半田付けで制作
ライトは半田付けで制作
点灯は、設計が上手くいった合図
点灯は、設計が上手くいった合図

試行錯誤とたくさんの方のご協力のかいあって、なんとか形にすることができました。プロダクトの奥深さも体験することができました。

伝統工芸の存続を祈って

先代のお父さまが現役の時代は、制作依頼が途切れないほど需要があり、職人さんも数多くいらしたそうですが、現在、金刀比羅宮周辺では道久さんのお店1軒のみとなってしまったそうです。

桐箱の需要が減少の一途をたどっている現実を目の当たりにしました。
そんな中、道久桐箱店では本プロジェクト同様、若手デザイナーとのコラボレーションや、芸術祭での展示のお誘いなどがあったそうです。

従来の形にとらわれず、素材の良さを生かした新たな製品の開発や認知拡大が、伝統工芸の存続につながるのだと思い、このプロジェクトをやる意義を改めて感じることができました。

最後に、いろいろな制約や無理なお願いの中、最後までご協力くださった関係者の皆さま、本当にどうもありがとうございました。

桐箱でつくるクリスマスツリー。

 

メーキングムービー

企画協力:道久常夫
LED制作:槙島量(電通関西)
スチール:遠藤正太
メーキング撮影:山田裕基(電通関西)
撮影協力:アシタノシカク ASHITA_ROOM