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ドミニク・チェンさんと考えるビジュアルコミュニケーションの未来No.1

なぜ若者は写真アプリに夢中になるのか、その利用実態から見えてきたこと

2015/12/25

電通総研メディアイノベーション研究部は、メディアや情報通信環境の変化、そしてオーディエンス(視聴者)の動向を探ることをミッションとするシンクタンクです。

このたび、IT起業家で情報学研究者のドミニク・チェンさんをアドバイザーに招いて、10代後半~20代半ばの男女スマホユーザーの「ビジュアルコミュニケーション」をテーマにした調査プロジェクトを実施しました。

変化し続けるメディア環境の中で、スマホユーザーのコミュニケーションも変化し続けています。若年層が写真や動画アプリを通じたビジュアル中心のコミュニケーションへシフトする理由とは?
調査結果をひもとくディスカッションを4回シリーズでお送りします。

【動画】ビジュアルコミュニケーション・7つのポイント


【調査概要】
電通総研メディアイノベーション研究部
「ビジュアルコミュニケーションに関するグループインタビュー調査」
■調査対象者
首都圏在住の男女18~25歳(大学生ないし社会人)
N=17(5人×2グループ+7人×1グループ)
■調査方法
グループ単位のインタビュー調査
■調査日時
2015年9月6日(日)

ドミニク・チェンさん(中央)と、左から電通総研メディアイノベーション研究部の美和晃、北原利行、天野彬、設樂麻里子

ドミニク・チェンさん(中央)と、左から電通総研メディアイノベーション研究部の美和晃、北原利行、天野彬、設樂麻里子

コミュニケーションのトレンドは文字からビジュアルへ

天野:近年、写真や動画を扱うスマホアプリが充実し、多くのスマホユーザーの間で写真や動画を見たり撮ったり送ったり…というビジュアルを活用した情報行動が定着しています。

私たちはこうしたコミュニケーションの在り方を、文字のコミュニケーションであるリテラルコミュニケーションに対して、「ビジュアルコミュニケーション」と呼び、未来のコミュニケーション環境に向けた示唆を与える中長期的なトレンドと捉え、調査や考察を重ねてきました。

設樂:はじめに、ユーザーと情報テクノロジーが相互に関連し合いながらビジュアルコミュニケーションを活性化させている構造を図示してみました(図1)。

図1:ビジュアルコミュニケーション活性化の構造

スマホの普及と、カメラ機能ないしアプリケーションの充実強化という情報テクノロジー側の流れがあり、もう一方で文字ではなくビジュアルでコミュニケーションするようになってきたというユーザー側の変化と、それと連動するかたちでのSNSの比重の高まりがある。それらが絡み合いながら、共進化してビジュアルコミュニケーションが活性化されています。

調査の結果、写真や動画に関連するアプリの使う種類の数、ないしは使用頻度で比較すると女性の方が男性よりアクティブで、年齢が若いほどその傾向が強くなるという結果になりました。ビジュアルコミュニケーションというトレンドのメーンの担い手は、やはり若年女性です。トレンドにも敏感で、情報行動もスマホを中心に活発です。

ドミニク:リテラルコミュニケーションとビジュアルコミュニケーションの比較で男女差が出るのは面白いですよね。弊社でもネットリサーチツールを使って、2年ほど前に10万人ぐらいをスクリーニングしてスマホを使った写真撮影の利用について調べてみたところ、圧倒的に女性の方が多く、かつ、週3日以上の頻度で写真をスマホで撮るという結果が出ていました。今回の結果を見ても、同じ傾向が続いている印象を受けますね。

ドミニク・チェンさん

Instagram、Twitter、Vine、Facebook、YouTube、Snapchat、MixChannel…ビジュアルコミュニケーションアプリの使い分け方を探る

北原:ビジュアルコミュニケーションアプリがどう使い分けられているのか、ユーザーインタビューの結果を簡単にまとめると、「シェア」「連絡」「娯楽」「保存」など…一口にビジュアルコミュニケーションといってもニーズに合わせた幅広い使い方が存在しました。

それを器用に組み合わせることでビジュアルのコミュニケーションを複雑に構成している実態が見えてきます。

図2:用途別にビジュアルコミュニケーションアプリを組み合わせて楽しむ
※利用の傾向としてご理解ください

設樂:個別のアプリにフォーカスすると、まずInstagramは、今回のユーザーインタビュー調査で最もよく使われていたアプリといえます。ポジティブな特性は、端的に「おしゃれ」であるということ。そして「スクエア型」が好きという意見も。「スタイルのある投稿がある」とか「世界観が統一されている人への憧れがある」というコメントもありました。

あとInstagramはクローズドに楽しめる環境もあるので、気軽に投稿できる。それだけ投稿頻度は高くなるし、自分で振り返って過去のアルバムを見るような感覚で見返すことも多いのだとか。写真がメーンで視覚的にすっと入ってくるので、面倒じゃない。

美和:それに加えて、雑誌のようにトレンドの参考にしたり、レシピ情報やレストラン情報をハッシュタグから収集することも多い。一回ハッシュタグで調べた後に食べログにいくとかグーグルで調べることもあるらしいんですが、第一情報はInstagramの友達からの情報が多いと。

設樂:その一方で自慢的な写真が多いところで敬遠するユーザーも。Instagramは「いい感じの写真を投稿する」という、ユーザー間で自然発生的にできた暗黙のルールが存在し、負の要素やダサさがご法度なので、そのオシャレすぎる空気に「インスタ疲れ」する人もいます。

カップルが明らかに一緒にいるのに、向こうに男性の手だけ載せて、いることを「漂わせ」る「漂わせ投稿」というのもあります。

天野:高度なアピール、あるいは顕示的な空間になっているんですね。都市からSNSへ、見せびらかしの場が変わってきているというトレンドを映し出しているのかも。

設樂:Instagramの他によく使用しているアプリは、Twitter、Vine、Facebookなど。以前から使っていたTwitterやFacebookでも文字要素が減り、写真や動画のシェアの割合が高まっています。

ディスカッションの様子(天野)

天野:スマホの向きを縦にして見るか、横にして見るか、縦型視聴/横型視聴というメディア受容のあり方も最近注目されていますね。

Instagramだとスクエアな写真がかっこいい、Vineみたいな短く見られるものは縦型視聴がいいとか、でもYouTubeでゆっくり好きなアーティストのライブを見るときは横がいいといった声も聞かれました。

動画の見方がSNSやキュレーションサービスからの導線の中で消費されるようなものになっているので、普段通り縦のままで見ることが増えているとも考えられます。

設樂:Snapchatは、データが残らず加工も必要なくて気軽に投稿ができるアプリです。アメリカを中心に流行していることから、海外に友達がいる人は使う機会があるようです。一方で日本ではまだまだ認知されておらず、周囲に使っている人が少ないから、使い方やメリットが分からないといった意見が聞かれました。

ドミニク:SnapchatはFacebookなどソーシャルメディア連携ができず、友達を追加するにはメールアドレスかID検索で行う必要がある。ただ最近ではスマホユーザーがあまりメアドを使わなくなっているなどの問題もありますね。どうユーザーを広げていくかという点で、そこはPicseeも打破したい部分ではあります。

美和:大学1、2年生の子がSnapchatやミクチャ(MixChannel)は「私たちより下の世代が使う」と言っていました。また、ミクチャによく投稿されているカップル動画などには抵抗があると。やはりここにも世代差がある程度観察できそうで、10代高校生ぐらいの人たちは、動画の編集や送信に抵抗がないということもあり、動画で自己表現をすることも一般的になっているようです。

ディスカッションの様子(美和、北原)

設樂:調査から見えてきた使い分けから、例えば「機能」と「気分」みたいな切り方もできるかなと思いました。

情報のシェアの範囲が一般に向けて広く行われるか、知人・友人などに限定して狭く行われるかというOpen/Closedという軸と、使うときの目的としてのキブン(Emotion)かキノウ(Function)かという軸を考えると、図3のような4象限が得られると思います。

またもう一つの特徴として、Openなものはアプリ利用の時間のうち閲覧が中心となり、Closedなものは発信が中心になるという差異が見られるようです。

こういう分け方で見ていくと、今回の調査でフォーカスが当たっていたアプリの多くがオープンかつキブンな象限にあり、感性重視のビジュアルコミュニケーションユーザーはそれらを好むということが見えてきます。

Open/Closed、キブン/キノウの4象限
※Instagramなどは、個人の情報シェア範囲の設定次第で縦軸の値が変動します

北原:その他、スマホのデータ容量をどうキープするかということで、「保存」のためのアプリもよく使われていることが見えてきました。Google フォトなど、ちゃんと活用できている子は、スマホと同期させた自動アップロードの機能だったり、タグ付けの機能だったり、アニメーションコラージュをしてくれる機能などの便利さを分かっている。

天野:写真の整理や保存は、ビジュアルコミュニケーション時代だからこそ顕在化してくるペインで、まだまだ現在進行形で解決策が模索されている段階ですね。