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ワカモンのすべてNo.53

ナカムラケンタ×筧奈々海:後編
「採用における『若者の気持ちに寄り添った表現の仕方』とは?」

2016/01/20

前回に引き続き、生きるように働く求人サイト「日本仕事百貨」や、さまざまな生き方・働き方に出合う場「しごとバー」を展開する、株式会社シゴトヒトのナカムラケンタさんと、電通ワカモン研究部員である筧奈々海さんが対談。若者の生き方・働き方の価値観に対して、私たちにできることを考えてみました。

(左より)筧氏、ナカムラ氏
 

リアルの役割が明確になっている時代

筧:ナカムラさんは「日本仕事百貨」のほかに、さまざまな業界の方がバーテンダーになる「しごとバー」も企画していますよね。そもそもどうしてバーを始めようと思ったのですか?

ナカムラ:建築学科を卒業後に不動産関係の仕事をしていたとき、僕はほぼ毎日バーに入り浸っていました。それで、どうしてこんなにも通うのか考えると、バーテンダーやお客さんの人柄にひかれていた。そこで心地よい場所は人がつくるものだと気づいたんです。それがきっかけで、「日本仕事百貨」を立ち上げたんですけど。

僕らの仕事の根底にはいろいろな生き方・働き方を伝えたいという思いがあるのですが、そういう意味でバーはいろんな人と話して生き方・働き方を学んだり、じっくり考えたりするには最適な形態です。

筧:ウェブで情報発信するだけでなく、リアルで対話ができる場をつくろうと思ったのですね。

ナカムラ:やっぱりテレビや本やウェブで体験するものと、実際に人と会って体験するものとでは、得られる情報量がまったく違います。対話をすることで生まれる言葉だったり、相手から発せられるエネルギーみたいなものは、「日本仕事百貨」でさえも伝えきれない部分だと思うんです。

筧:最近はフィジカルな体験ができる場を大切にする若者も増えています。SNSなどで情報があふれている時代だからこそ、リアルの価値は確実に高まりつつあると思います。実際、参加された方も大きな影響を受けるんじゃないですか?

ナカムラ:楽しんでくれるのはもちろん、想像以上のできごとになることが多いようで、自分の今後の生き方・働き方に影響を及ぼしたと言ってくれる人もいます。例えば、第1回のお客さんの中に仕事を辞めようか悩んでいる方がいたんですけど、その人は「しごとバー」での体験をきっかけに独立して、ちゃんと事業として成立させています。その後、「しごとバー」のバーテンダーもやってもらいました(笑)。

筧:語る側になるのは、とても大きな変化ですね。

ナカムラ:参加する人は職種や生き方もさまざまなので、良い意味でハプニングが起きやすいんです。そういう意味で、リアルの役割は明確になっていると思いますね。インターネットの世界は、どんどん興味に収束していく側面があるじゃないですか。

筧:検索ワードで情報をどんどん絞っていきますよね。

ナカムラ:検索ワード自体を知らないと、それ以外の世界は存在し得ないのと同じですからね。こんな人がいるんだ、こんな生き方・働き方があるんだという驚きと出合いが生まれる場所が「しごとバー」であり、そのハプニングは「日本仕事百貨」でも目指していることです。

 

相手の気持ちに寄り添った表現をしてほしい

筧:先日「TOKYO WORK DESIGN WEEK」に参加して感じたことは、仕事選び=コミュニティー選びだったり、仲間づくり=仕事づくりになっているということ。ワカモンの調査でも、会社を選ぶ際の重視点として、「仕事の内容」に次いで「社風や、職場の雰囲気」が僅差であげられています。結局はどの人とどんな環境で一緒に働けるかが仕事の決め手と考える若者が多かったんです。

ナカムラ:「日本仕事百貨」でも、どんな人と働くのかを重要視しています。例えば全国に支社があってどこに配属されるか分からないような求人募集は、基本的にはお断りしているんです。

筧:就職を決めた学生になぜその会社なのかと話を聞くと、「そこで働く人にひかれた」という答えがとても多いです。それを言われると、もう何も言えないですからね(笑)。

ナカムラ:そうですよね。だから人ってすごく大切だし、人を知るのは機械的にはできないことだと思っています。SPIって実は精度が高いらしいんですけど、その結果で相性が悪いと判断されても、人としての納得感はないですよね。

筧:アメリカではDNA検査で向いている職種が判別できるマッチングサービスもあるらしいです。それこそ納得感がないですよね(笑)。

ナカムラ:大切なのは、自分がいちばん納得できる選択をすること。自分で責任を持って選んだことなら、うまくいけば幸せだし、失敗しても次につながります。人間は弱い生き物なので、誰かや何かが選んだことで失敗すると、そのせいにしてしまうと思うんです。それでは何の成長も得られないし、失敗を次に生かせないですよね。親や世間やDNAに決められたことではなく、自分で考えて決める。それが、自分らしい生き方・働き方を実現する近道だと思います。

筧:そうやって、自分でじっくり考えるきっかけを与えているのが「日本仕事百貨」ですよね。多くの求人サイトはそれができていない?

ナカムラ:見ていてもったいないなぁと思うことがよくあります。会社の良いところだけを書いても、そこだけにひかれて入ってきた人はいずれ辞めますからね。読者が何を知りたいのか、何を不安に感じているのか、そうやって相手の気持ちになって考えれば、表現方法も変わるのではないかと思います。

筧:とある女性誌の編集者に聞いた話で、今の若者は仕事を選ぶときに、仕事内容はもちろんですが、そこで働く人たちの生き方やライフスタイルに共感して集まるのだと。そういった部分まで採用活動で表現できている企業は少ないと思います。「日本仕事百貨」は仕事内容や働く人の思いを伝えながら、その人たちの生き方も見せているので、そこが20代の若者に支持されている理由なのかもしれません。

ナカムラ:例えば「良い建築とは何か」を考えたとき、平面的に見て良い建築とするのは違う。かっこいい角度から写真を撮って良い建築とするのも違う。建築の良さとは、中を歩いて景色が移り変わるところも体感することで初めて見えてくる。

求人も同じで、真正面の良さや部分的な良さを切り抜くのではなく、仕事内容や人、ライフスタイルや空間など全部をひっくるめて感じるものを表現すべきではないでしょうか。
もちろん文章で表現するのは難しいし、数年働いて体験しないとそのすべては分からないのだけど、編集していちばん大切なところだけを残すというやり方なら文章にもできます。

確かにものすごく手間のかかる作業だし、大企業になればなるほど内容を平準化しないといけないジレンマはあるでしょう。でも、そこまで相手の気持ちに立ってやり抜くと、それだけ伝わるものがあると思うんです。

筧:そうですね、企業は若者を評価する意識になりがちですが、もっと同じ目線に立って表現ができたら、もっといい関係が生まれそうですよね。私たち電通ワカモンもナカムラさんを見習って、若者の気持ちに寄り添った表現を考えていきたいと思います。本日はありがとうございました。


「電通若者研究部ワカモン」ロゴ

【ワカモンプロフィール】
電通若者研究部(通称:ワカモン)は、高校生・大学生を中心にした若者のリアルな実態・マインドと 向き合い、彼らの“今”から、半歩先の未来を明るく活性化するヒントを探るプランニングチームです。彼らのインサイトからこれからの未来を予見し、若者と 社会がよりよい関係を築けるような新ビジネスを実現しています。現在プロジェクトメンバーは、東京本社・関西支社・中部支社に計18人所属しています。ワカモンFacebookページでも情報発信中。