Experience Driven ShowcaseNo.49
クリエーティブな街を、どのようにつくるか:黒﨑輝男(後編)
2016/01/28
「Experience Driven Showcase」連載は2015年4月にスタートしてから9カ月、さまざまな仕事の事例をフィーチャーしてきました。2016年はさらに連載内で、「会いたい人に、会いに行く!」という企画を始めます。出会いは日々あっても、自分の仕事を通して会える人は意外と限られています。この企画は、「とにかく会いたいから、まずは話しに行こう!」「話して触発を受けて、次には一緒に仕事しよう!」の精神で、様々な対談をおと届けしていきます。1回目は、電通イベント&スペース・デザイン局の宮口真氏が、流石創造集団の黒﨑輝男氏に会いに行きました。
取材・編集構成:金原亜紀 電通イベント&スペース・デザイン局
「影響力」をつくることが大切
宮口:これからの東京や、地方も含めた日本の街を考えたときに、未来はこうなってほしいなということはありますか。
黒﨑:ポートランドを例にとると、究極的に資本主義社会が成熟してきた段階で、ある種パブリック精神というか、ヒッピードリームみたいなものがあって、人が喜ぶことをしたいとか、ある種の損得抜きの哲学的ビジネスプランからスタートしていたりする。それが受けて大きなプラットフォームになった段階でやっと、ガンと勝負する。そういう「影響力をつくる」ことが大切だと思う。
電通の南木隆助くんがこの前彼の仲間と一緒にクラウドファンディングで和菓子の本をつくっていて、それをうちに届けてくれました。
南木くんが昔から好きな和菓子屋さんの本で、その印刷代をクラウドファンディングにしたんです。
彼はスクーリング・パッドという僕がやっている学校に生徒で来ていた人だけど、そういうやり方も、個人でもできる影響力の表し方の一つです。
パブリックスペースにつくる、新しい「自然」
宮口:パブリックスペースに最近興味を持っているのですが、よく言われるエディブルなもので、公園で植物が食べられるとか、いろんなことが海外でやられているじゃないですか。黒崎さんが海外で一番面白かった公園とか、パブリックスペースはどこですか。
黒﨑:そうそう、公園の中に、池のところに張り出しているレストランがあって、そこの周りでつくっている野菜やハーブで料理をつくっている。今は、それ、普通です。LAにも、ポートランドでもあるよね。僕もいま、石川県小松市に古民家を買って、1500坪ぐらいの土地も買って農園をつくって、そこで伝統野菜とかを教わっています。
宮口:そうですか!すごい!黒崎さんは本当に、いろいろ新しいことを真っ先にやりますね。
黒﨑:東京でもやろうとしていて、屋上ガーデンとかファームとか。そこらじゅうにハーブガーデンやエネルギーのソーラーパワーがあったり、地熱を使うとかいろいろやって、自転車置き場を来年ぐらいに借りて、エネルギー使用自体を変えていこうとしています。
宮口:自 転車を公共の乗り物にするというのが増えていますよね。港区が実証実験をやっていたりする。デザインがかっこいい自転車だったら、借りて走ったりしたい な。かっこいいというのはデザインだけじゃなくて、電気自転車でも動力が強くなっていくとか、デザイナーがつくった何か面白い機能の自転車とか。
「創造都市」の本質とは何か
黒﨑:土地をどう活用するかという、使用価値で不動産の価値が決まる。所有の価値じゃなくなっている。それと情報だとかコンテンツのプランニングとか、コンセプトがますます重要になってきている。
宮口:変わったほうがいいんですよね、価値観は。時代によって。
黒﨑:お金というのも情報だから。貨幣価値自体が情報。
宮口:お金がなくても豊かに生活できるような時代なのかもしれないですね。
黒﨑:情報と建築と空間、アート、デザイン、全部が一体となってクリエーティブなものができてくる。そこを引っ張っていけるような理論誌を、これからつくりますよ。
宮口:いやあ、刺激されるな。
黒﨑:創造都市論じゃないけど、都市ってどうあるべきか。全体を見る、それだけですよ。本来の公園って、どういうものがあったらいいのかと考えると、たとえば植物学者がいて、鎮守の森をつくろうよとか、そこに酒蔵を持ってきたらいいんじゃないかとか。そういう発想が今はあまりない。そうじゃなくて、どこの企業がお店を渋谷に出したがっているから、それを持ってこようとか、そういう話しかないわけ。大手の安定した企業を誘致してそこにお店が出れば、商業施設としては成功するかのように見えているけれど、それは次の時代をつくるものではないじゃないですか。
宮口:全部同じになっちゃいますものね、そうしたら。考える手間をかけることを惜しんではいけないですね。
黒﨑:クリエーティブであるということ、自分自身が本来的にこうあるべきだという夢がないと。コンセプトとか夢とかがあった上で、コンテンツのプランニングがあって、マネジメントがある。だけど、そこが全部抜けて、マネジメントとお金のこと、ビジネスだけで今、日本の社会が動いていると思うんです。
特に不動産開発が保守的になっている。でも、実際に面白いことが動いているのは、ベニスビーチにしろ、ポートランドにしろ、そういうこととは関係なしに若者たちの夢をもとに、こういうのがあったら面白いじゃない、おいしいじゃないとかで引っ張っているのを、あとでお金が追いかけてくる。僕のとこに来ている若い人たちもみんな個人でやっている飲食業で、与信や決算書を3期にわたって見せなさいとか、そういうことを言ったら全部外れちゃうような人たちなの。
だから僕がそこの間をつないで、若い人を守りながら伸ばしていくという機能が必要になってくるんじゃないかなと思うんです。そうじゃないと、今の社会ルールだと、大企業しか伸びない。大企業だけだとコンプライアンスだとかで当たり前になって、クリエーティブじゃなくなってしまう。そうすると最終的にはお客もつまらないと思うわけ。結局また元の木阿弥になってしまうので、そこをひっくり返すような動きをしないといけないですね。
宮口:黒崎さんはこれからもずっと、そういうことをやり続けていかれるんですね。
黒﨑:まあ、生きている限りはね(笑)。最近出版した「CRAFT BAKERIES」という本も、手づくり、アルチザンのパン屋さんで、こだわってつくっているのが今人気なので、それだけを集めている。どこにもスポンサーがついていないから、「どこどこ店の色」というのがないわけです。自分たちが思っている通りのものを自由につくっちゃう。
国連大学の中庭で、パン屋さんだけ50軒以上集まると、パン好きの女の子がものすごい勢いで行列をつくる。すごい熱気でたくさんの人が来て、わーっとパンが売れる。そういう若者たちのイベントを、電通もやっていったら結構面白いと思うよ(笑)。草の根的なイベントをやるノウハウを、そういう若い人と一緒に学んでいったらいいんじゃないですか。
<了>