動画マーケティング最前線No.2
YouTubeから考える“プレミアムコンテンツ”とは?|動画マーケティング最前線(後編)
2016/01/29
動画マーケティングのエキスパートである、GoogleのYouTube プロダクトマーケティングマネージャー中村全信氏、インフォバーンでDIGIDAY[日本版]のプロデューサーを務める谷古宇浩司氏、電通のコンサルティング・ディレクター小西圭介氏の3人の鼎談。前編に続いて、動画コンテンツの視聴環境の変化やそれがマーケティングに与えた影響を語り合います。
※このインタビューの模様は、デジタルマーケティング戦略情報メディア「DIGIDAY[日本版]」でもお読みいただけます。
効果的な動画広告の活用方法とは
小西:これから動画広告を出稿しようと考えている企業は、効果的な方法を常に模索していると思います。従来のテレビCMなど動画と、動画共有サイトで話題になったり拡散する動画の性質も異なっており、「最初の5秒が勝負」と言われるように、従来と映像言語も変えていかなければならない。
また動画コンテンツと動画広告の位置づけや、それぞれのマーケティング目的も異なっている。そしてターゲティングもデモグラフィックではなく、コンテンツへの興味ベースの発想を持つ必要がある。中村さんはどこがポイントになるとお考えですか?
中村:広告の配信先を検討する際に、その広告を配信する先のコンテンツも吟味することが大事です。日本では性別・年齢といったデモグラフィックのみでターゲティングすることが多いと思うのですが、米国などでは人気コンテンツがパッケージされたコンテンツをターゲティング(出稿)するというケースが多いです。これは性別や年齢にかかわらず、動画コンテンツを目的を持って視聴し、熱狂的に楽しんでいるアクティブな生活者がいることが背景にあります。
こういった人気コンテンツには一般的な動画の視聴者に比べてコンテンツだけではなく広告にもアクティブに反応し、広告想起やブランド認知などの態度変容のスコアが高いというデータもあることから、高い広告効果を見込むことができます。また、広告効果をさらに高めるためには、生活者の見たいコンテンツと企業メッセージの関連性を高めることも有効です。
谷古宇:従来型のメディア、例えば新聞や雑誌、テレビ、ラジオなどでは年齢や性別、趣味・嗜好といったデモグラフィックデータで広告の配信先をターゲティングするしかありませんでした。配信された広告がターゲットに受容されたのかどうかを把握するのは非常に難しく、その効果を数値で計測することはさらにハードルが高かったわけですが、「スマホ+デジタルメディア」という新時代のチャネルにおいては、戦略設計の段階から数値ベースで議論ができるようになりました。
中村:そうですね。広告効果測定の観点でもうひとつデジタル広告の有効な活用方法が、テストマーケティング的な運用です。例えば投資的な観点から考えると、テレビの広告枠を購入するのは相当なコストがかかります。なのでその前段階でYouTubeのTrueViewインストリーム広告でテレビCMのテストマーケティングを行い、「ブランド効果測定」という広告効果測定ツールで効果の高かった素材をテレビCMとしてに出せばリスク回避もできて効率的です。
小西: YouTubeでテストマーケティングを行えば、その反応に基づいて、例えばコンテンツへの思わぬ潜在ターゲットが見つかるなど、ターゲティング自体を変えていく場合もありますね。ただし、そのためには、従来の広告制作やメディア枠をベースとした出稿プロセスの発想自体を変えていく必要があるわけですが。
目的を持って視聴されるYouTube
谷古宇:チュートリアル(ノウハウ)型、視聴者参加型など、生活者が積極的な意欲を持って接する種類のコンテンツが動画共有サイトには多い印象があります。実際、目的志向でYouTubeの動画を検索する生活者は増えているのでしょうか。
中村:YouTubeで検索をするユーザーはとても多くて、「YouTubeは世界で2番目に規模の大きな検索エンジン」という事実があります。これは米国のデータなのですが、母親の81%がハウツー動画、つまり育児や洗濯などの方法を調べる際にYouTubeを利用しているそうです。具体的なやり方、ノウハウを知りたい思ったときにはテキストで読むよりも動画で見た方が分かりやすいということだと思います。知りたいことがあって、そこに実際に見ている人が多数いるのであれば、マーケターとしては生かさない手はないですよね。
小西:タイムラインに流れてくる動画などと比べると、検索で見られることの多いYouTubeは目的視聴性が高いことで、実際の視聴時間やエンゲージメントが高いというデータもありますね。スマホが普及したことで、検索面でも目に見えた変化などが出てきているのではないでしょうか?
中村:Google全体で見ると、モバイルからの検索がデスクトップの検索を超えている国が世界に10カ国あるのですが、日本もそのうちのひとつです。検索ツールとしてYouTubeを利用するユーザーがいるということは、知りたいというニーズが存在するということです。あらかじめよく検索されているキーワードや視聴されている動画の種類を分析した上で、生活者が知りたいと思ったときに他社のものではなく自社コンテンツにたどり着いてもらえるようなアプローチを考えるのも有効なのではないでしょうか。
小西:これまでのデジタルの広告というのは比較的、購買促進などのいわゆる獲得系の手段として使われていましたが、ここ1、2年くらいはブランディング目的へシフトしていて、その中でも動画が実際に大きな役割を担うようになってきました。今まではテレビがブランディングの中心にありましたが、YouTubeなどのオンラインの動画メディアが従来のメディアとの関係の中でどう機能していくかについては、マーケターはすごく考えていて、いま試行錯誤しているのかな、と思います。
コンテンツの真の価値は、ユーザーに派生したコミュニケーション
小西:動画の場合だと、再生回数などの「数字」が分かりやすい指標として求められがちですが、話題になった動画でも実際には短期間に消費されて忘れられるものが多い。ブランディングの視点から考えると、視聴者の記憶に残るもの(ストック)をつくれなければ成功とは言えないと思います。例えばYouTubeでは視聴者参加型の動画や、YouTuberのようなクリエーターを介して拡散した動画が数多くヒットしていますが、視聴数だけでなく「ファンとの関係を築く」という意味では、非常に有効な方法ですよね。
中村:視聴者参加型のコンテンツはエンゲージメントを深めていく上でとても有効です。「2015 年下半期に話題になった YouTube の動画広告」でも紹介しましたが、江崎グリコの「シェアハピ ダンスコンテスト」という企画で、三代目J Soul Brothersの踊っている動画のみならず、お手本用のデモ動画の視聴回数もかなり伸びていました。
また、YouTuberについてはファンとのエンゲージメントの深さに驚かされます。昨年11月にYouTube FanFestというイベントを開催したときも、ファンの皆さんが物凄く熱狂していて、涙を流している方もいたほどです。そういったライブ会場の中での熱狂もエンゲージメントの証しだと思います。こうしたこともあり、動画へのユーザーのレスポンスが多い動画こそが「プレミアムコンテンツ」だと思いますし、Googleでは視聴時間が長かったり、繰り返し見られていたり、数多くシェアされたり、高い評価やコメントが付けられたりといったユーザーのアクションが重要な指標だと考えています。
谷古宇:視聴者にとっては動画の内容もさることながら、評価やコメントでどういう人がどう感じているコンテンツなのか、という「文脈」の方が重要である場合も多いと思います。というのも、生活者が接するチャネルの種類と数はいまや数えきれず、そんなチャネルを通じて彼らが接する情報の量は膨大です。
それぞれの情報は、配信者側からすれば、意味付けをしてリリースするわけですが、受け手は配信者のメッセージを正確に受け取るわけではありません。複雑な流通機構を経由する過程で情報に付与されている意味は変質します。受け手は、例えばまとめサイトやニュースアプリなどのキュレーターが設定した意味、つまり「文脈」に沿って、ある情報に接するかもしれません。実は、生活者が接する情報の本質は、流通過程で生じた「文脈」なのかもしれません。
中村:はい。人気のあるYouTuberは「自分のファンがどのようなコメントをしているか」を意識されていますし、そこにレスポンスもします。さらに、動画がソーシャルメディアで共有されるときに、そのまま共有されるのではなく、例えば「こんな方法、知らなかった!」「感動した!私もこういう人でありたい」などの、「どのような一言とともに動画が共有されるか」というところまで意識して動画を制作している方もいらっしゃいます。これは企業が動画コンテンツを制作する上でぜひ参考にしていただきたいポイントです。
小西:そう、映像を制作するときに従来の一方的に放送するメディアではコンテンツのクオリティにばかり目が行きがちでしたが、ユーザーが中心の動画共有メディアにおけるコンテンツには「会話のネタ」としての役割もあるので、そのコンテンツがユーザー同士の会話のきっかけになることも重要な価値ですよね。
メディアのつくったプロフェッショナルなコンテンツよりも、自分のコンテンツ、自分の好きな人のコンテンツが一番価値が高かったりする。ブランディングの観点からも、イメージ形成からユーザーとのエンゲージメント形成のためのコンテンツ制作・共有の発想転換が必要になってくる。
中村:多額の予算をかけて制作した動画コンテンツでなくとも、個人のクリエーターがファンを獲得しているというのは、YouTubeの強みといえるかもしれません。
例えば、原宿ファッションで人気のYouTuberのくまみきさんのケースでは、彼女がDIYで何かを作った動画を見て、数時間後にはファンが「くまみきさんの動画を参考にして自分も作ってみました」という動画をアップしたり、Twitterで投稿したりするファンが出てきています。そうなることで、「クリエーターがやったことがさらに再プロデュースされて広がっていく」ということになる。これが仮にブランドとのタイアップコンテンツであれば、ブランドメッセージがファンの力によって好意的に広がっていくということで、喜ばしいことですよね。そういった熱狂的なファンを持つYouTuberが日本でも非常に増えてきています。
また、さきほども申し上げた通り、彼らのチャンネルはファンのエンゲージメントレベルが高く、かつコンテンツの前に挿入される動画広告にも好意的に反応するケースが多いというデータがあり、YouTubeにおける広告在庫の中でも広告想起やブランド認知度の獲得においては高い効果を見込めるチャンネルとなっています。今後もYouTubeとしてこういったデータやインサイトを提供しながら、みなさまと一緒にマーケティングにおける動画活用の成功事例を作っていきたいと思っています。