動画マーケティング最前線No.1
スマホがもたらした動画コンテンツの「変化」|動画マーケティング最前線(前編)
2016/01/28
スマートフォンの普及によって、動画コンテンツの視聴環境は多様化し、生活者とブランドの接点としてさらに重要な役割を果たすようになってきた。その変化は動画マーケティングにどのような影響を及ぼしているのだろうか?GoogleのYouTube プロダクトマーケティングマネージャー中村全信氏、インフォバーンでDIGIDAY[日本版]のプロデューサーを務める谷古宇浩司氏、電通のコンサルティング・ディレクター小西圭介氏が、動画マーケティングの現状を語り合いました。
※このインタビューの模様は、デジタルマーケティング戦略情報メディア「DIGIDAY[日本版]」でもお読みいただけます。
「コンシューマー目線のコンテンツ」が求められる時代に
谷古宇:スマートフォンが普及する前と後では、ウェブ動画の視聴環境も大きく変化していると思います。中村さんはその変化をどのように捉えていらっしゃいますか?
中村:モバイルからのYouTube視聴は目に見えて増加しており、日本では現在全体の約65%を占めています。この伸びの背景には、通勤や通学時、そして寝る直前など、これまで動画を見ることができなかった状況でもスマートフォンがあれば視聴可能になった、という環境の変化が影響しているのだと思います。今後もモバイル化はますます進んでいくでしょうね。
小西:スマートフォンがテレビに代わる“ファーストスクリーン”となった今、視聴者が手に入れたのは「自由」だと思うのです。
谷古宇:「自由」ですか?
小西:はい。スマートフォン普及以前は、情報収集をする時間というとテレビのゴールデンタイムがメーンでしたが、今はスマートフォンによって、通勤・通学時間といったスキマ時間も情報収集に充てられるようになりました。つまり自分が欲するときが「いつでもゴールデンタイム」化したわけです。
生活者の一連の行動を時間軸で把握する「顧客時間」から考えると、そこには大きなチャンスがあります。数秒、数分という断片的な時間こそ、生活者とのつながりをつくる新たなチャンスなのではないでしょうか。
特に15~19歳のユーザーは、布団に入ってからスマートフォンを使う割合が多いというデータもありますし、若い世代をいかにキャッチしていくか、ということが重要になってくるように思います。
中村:Googleでも「Micro-Moments」 という概念を提唱しています。「何かをしたい」という意図が生じたとき、すぐに目の前にあるデバイスを使って調べる・買うといった行動を起こす瞬間のことを指していて、生活者が何かを決断したりブランドに対する好みを形成したりする大切な瞬間でもあると考えています。
小西:スマートフォンの動画視聴内容を見ていても、テレビコンテンツ自体の需要は依然高いように思いますが、ブランドのファンをキャッチするデバイスという観点では、物理的にアクセス回数が多いスマートフォンの方が適しています。そう考えると、スマートフォンで動画を視聴する人々に向けた独自のメディアプランニングが必要になってくるのは当然の流れですよね。
2015年は“動画マーケティング元年”と言われていますが、動画視聴や企業の広告活用が盛んになっただけでなく、「フォーマットが多様化した」年でもありました。Facebookのニュースフィード動画の自動再生化をはじめ、他のメディアの動画プラットフォームの展開によって、マーケターとしては選択肢が増えたわけです。そんな状況の中では、テレビCMを作ったらYouTubeでも流しておく、というだけでは視聴者に見てもらえません。
中村:YouTubeの視聴目的も、今までは「暇なときに見る」というイメージがあったかと思いますが、最近は特に「目的を持って視聴する」というシーンが増えてきているというのも大きな変化だと思います。スマートフォンを使った検索や購買が日常化してきた今、生活者は動画に限らず「何かを知りたい、見たい」という具体的な目的や意図を持ってコンテンツに接するようになってきています。
例えば学校でクラスメートとおしゃべりしていて話題になった動画をその場で見たり、寝る前にソーシャルメディアで話題になった動画や気になっていたテレビ番組をチェックしたり、スマホの普及によって視聴のされ方も求められるコンテンツも変わってきているのが現状ですね。
谷古宇:米国のネスレ事例ですが、同社は自社商品の宣伝ではなくクッキングのハウツー動画を積極的に制作しているのですが、そのコンテンツ作りの根底にあるのは「お客さんは体験を求めている」という確かな洞察だと思います。同社は体験を可視化できるコンテンツを提供していく中で、Eコマースサイトへの誘導を効果的に行っています。
中村:ユニリーバは世界中で「All Things Hair」というYouTubeチャンネルを開設して、YouTubeで活躍しているクリエーターなどに多数のコンテンツを制作してもらっています。このチャンネルを作った背景として、同社がある期間で調べたデータによると、YouTubeでユーザーが美容やファッションといったジャンルの動画コンテンツを視聴する際に、ブランド発のコンテンツを見る割合はわずか3%程度しかなくて、残りの97%はYouTube上のクリエーターたち、いわゆるYouTuberの動画を見ているという発見があったそうです。その上で、Googleでよく検索されているヘアケア関連のキーワードを分析し、そのキーワードに沿った動画コンテンツを制作して、多くの視聴者を獲得しています。
このような取り組みこそが、ウェブの動画コンテンツを制作する上での大きなヒントです。どんなにしっかりと時間とお金をかけて制作しても実際に見られないのであれば、企業としてはYouTuberのような生活者目線でコンテンツを制作している方々と手を組んでコンテンツを作るのも有効な手段の一つです。
谷古宇:ちなみに米国のリサーチ会社L2によると、美容系の動画コンテンツの約45%が化粧のチュートリアルなのだそうです。国内でもチュートリアル系の動画は人気が高い傾向にあるのでしょうか?
中村:はい。例えば国内ではYouTuberの佐々木あさひさんのメーク動画などが人気ですが、美容関連の動画の視聴時間が前年に比べて約4倍ほどにもなっています。YouTubeでは「好きなことで、生きていく」というマーケティングキャンペーンを展開していますが、これによって「YouTubeで検索すればメークの方法もわかるんだ」と生活者に認知してもらえたという、ひとつの成果だと思います。
コンテンツとして価値のある動画を広告に
谷古宇:インフォバーンでは、企業のオウンドメディア戦略をお手伝いすることも多いのですが、最近では「コンテンツをテキストではなく動画で作りたい」というニーズが非常に増えてきました。そんな企業が最も知りたいのは、「YouTubeでどうすれば効果的な動画広告を打てるか」となるわけですが、そのあたりは何かアドバイスを頂けますか?
中村:これまでは、限られた場所と限られた期間内で広告を流すという前提のもと、「広告としての動画を作る」という出発点がメーンだったように思いますが、オープンで多種多様なコンテンツが溢れるウェブの世界では「コンテンツが長期間にわたって存在し続け、いつでも誰でもアクセスできるという前提を理解して動画を作る」ことと、その上で必要に応じて場や期間を定めた広告としてその動画をプロモーションするという考え方が必要です。
例えば、最新作のテレビCMをプロモーションせずにYouTube内の自社チャンネルにアップしておいても、そのテレビCM自体に面白さや新しさなどの進んで見たくなるような要素がなければ、何度も見られたり、高く評価されたり、シェアされたりするのは難しい。そこで大切になるのは「ターゲットとなる生活者の趣味や興味関心、生活上の課題などを理解し、それに対してブランドがどんな刺激を与えるのか、またはサポートができるのか」という文脈をきちんと提示し、動画そのものがコンテンツとして視聴価値のあるものにすることです。
そして、見た後に実際に行動を起こしてもらうこともさらに重要です。テレビCMをウェブでも展開するつまりは多くの生活者に見てもらうというリーチ補完目的ももちろん重要なのですが、その先にどんな認知・態度変容を期待するのか、ということを見据えるのがマーケティングの真の目的であって、最も重要だと思います。
谷古宇:「視聴者が興味を持つようなストーリーなど、文脈に商品を乗せていく」というのは、我々も意識している部分です。さらにそこにどういう動画を作っていくのか、あるいはどういう広告を乗せていくのか、ということも併せて考えていくべきですよね。
なので、YouTubeというプラットフォームの中で動画コンテンツが単体であったとしたら、もし作品として面白くても、おそらくマーケティングとしてはあまり意味のないものなのかもしれません。「この動画はどんな位置づけでどんな目的のもとで置かれたものなのか」ということまで考えて作られた動画こそが今求められているコンテンツなのでしょうね。
※後編につづく。
※インタビューの全編は、デジタルマーケティング戦略情報メディア「DIGIDAY[日本版]」でもお読みいただけます。