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Good JAPAN InnovationNo.9

【奄美大島】大島紬を着たフィギュア女王。

2016/02/25

「伝統工芸×デザイン」をテーマに優れた日本のものづくりと電通のアートディレクターがコラボレーションして作品を制作し、新たな価値を世界発信するプロジェクト「Good JAPAN Innovation」。第9回は着物の女王と呼ばれ世界三大織物にも数えられる鹿児島県・奄美大島の大島紬(つむぎ)と、2月20日に四大陸選手権で見事初優勝を果たしたばかりで全日本フィギュア2連覇中、世界選手権代表でもある宮原知子選手の“女王”コラボレーションです。

大島紬を着たフィギュア女王

うがみんしょーら(こんにちは)! 今月は市野護が担当させていただきます。今回の伝統工芸は奄美大島に伝わる大島紬。着物を着る人の間では永遠の憧れの品ですが、その生産反数は隆盛を極めた昭和50年代と比べて10分の1以下に減っているそうです。ほぼ自分が生まれた時代から今日までの時間の変化と考えると、その減少の速さを実感します。自分が子どものときと比べて、そんなに着物を着てる人って減ったかな…? 世界でも類を見ない美しい絹織物が、このまま減っていってしまうのはもったいない。その魅力を伝えることで少しでも力になれればと思い企画しました。

今回使用した龍郷(たつごう)柄の反物。奄美の自然、ソテツやハブがモチーフとなっている
今回使用した龍郷(たつごう)柄の反物。奄美の自然、ソテツやハブがモチーフとなっている
 

細部に宿る奄美の魂

大島紬の名の通り、その生産地は鹿児島県・奄美大島。南海日日新聞社の前里純隆さんのご協力のもと、紬に関わる多くの方々をご紹介いただき制作の現場に伺いました。

実際に大島紬が作られていく現場を見て何より強く印象に残ったのは、その気の遠くなるような細部に至る工程の膨大さ。まだ糸の状態で、図案に合わせて染めない部分を綿でしばることでマスキングする作業。テーチ木(車輪梅)染めと泥染めを80回以上も繰り返し、化学染料では出せない深みのある黒褐色を生み出す作業。そうして染め分けた絹糸を図案の通りに並べ、タテ糸とヨコ糸の位置をぴったりと合わせることで模様を浮かび上がらせる織り作業。予習はしていたものの、どの工程にも想像をはるかに超える手間がかけられていました。

絹糸の染め残す部分をマスキングする締機(しめばた)
絹糸の染め残す部分をマスキングする締機(しめばた)
泥染めとテーチ木染めを80回以上繰り返す
泥染めとテーチ木染めを80回以上繰り返す

また、「夢おりの郷」社長で大島紬の図案師でもあられる南祐和さんに見せていただいた設計図にも大きな感銘を受けました。糸を先に染め、柄が対称に続いていかなければならないという条件の中、いかに美しい模様を生み出すか。手書きの状態からコンピューターを使ってドット絵の状態の設計図にし、これをもとに一本一本の糸の色分けが決められます。

プリントしてしまえば、ぱっと見は同じ柄の生地ができてしまうかもしれないのに、あえて図案を糸の状態に一度分解してから、美しく精緻な柄を再構築するという手法。アートディレクターの仕事をしていて感じる、合成すれば簡単なのに一発撮りをした写真のような、または誰にも気づかれないような細かい部分まで緻密にレイアウトを詰めたグラフィックのような、細部に宿る魅力と共通したものを感じました。大島紬は、それ自体が、その全面が細部なのです。

図案と設計図。1本のタテ糸と1本のヨコ糸が重なってこの1マスとなる
図案と設計図。1本のタテ糸と1本のヨコ糸が重なってこの1マスとなる

 

染め上がった絹糸
染め上がった絹糸
染め残した部分に色を入れるための設計図
染め残した部分に色を入れるための設計図
 

 

ぴったり位置を合わせながら織ることで模様が浮かび上がる
ぴったり位置を合わせながら織ることで模様が浮かび上がる

着物の女王と、フィギュアスケートの女王。

この大島紬の魅力を伝えるためのモチーフとして浮かんだのが、ちょうどこの時期、シーズンのクライマックスを迎えるフィギュアスケートの衣装でした。奄美大島固有の泥で染められた大島紬は思った以上に薄く柔らかい上、絹が泥の成分を含むことで目が詰まっていて暖かく、しわにもなりにくいのが特徴です。寒いリンク上で薄着になり、動きも多いフィギュアの衣装には意外に向いているかもしれません。

着物の女王である大島紬を世界に向けて発信するに当たっては、できることならば全日本女王に着用してもらいたい…。個人的に大ファンでもある宮原選手に無理を承知でお願いしたところ、多忙なシーズン中にもかかわらず引き受けていただけることに! 超豪華な夢のコラボレーションが実現することになりました。

昨年末の全日本選手権で2連覇を達成 / Getty Images
昨年末の全日本選手権で2連覇を達成 / Getty Images
練習の虫として有名な宮原選手
練習の虫として有名な宮原選手

奄美の龍郷柄、いざリンクに。

大島紬の衣装がぴったり! よかった…
大島紬の衣装がぴったり! よかった…
細かい動きの注文にも正確なスケート技術で応えてくれた宮原選手
細かい動きの注文にも正確なスケート技術で応えてくれた宮原選手

撮影当日、協力いただいた関西大学のアイスアリーナには、早朝から黙々と練習に励む宮原選手の姿がありました。コーチですらそのストイックな練習ぶりを見て涙が出るほど(!)だという宮原選手。

もともとは決して天才肌ではなかったそうですが、コツコツと練習を重ねて世界選手権のメダリストにまでなった宮原選手に、緻密な工程を幾度も経て完成する大島紬の衣装がすごく似合っていたのは偶然ではない気がします。宮原選手の美しいスパイラルポジションと相まって、白いリンクの上で大島紬の黒褐色がとても美しく映えていました。

関西大学のリンクをお借りしての撮影
関西大学のリンクをお借りしての撮影
龍郷柄にぴったりな髪飾りも制作
龍郷柄にぴったりな髪飾りも制作

今回は企画が進むにつれて自分でも思い入れが強くなり、スケールも当初の想定よりどんどん大きくなってしまったのですが、宮原選手、前里さんや南さんをはじめ、数多くの方々の多大なるご協力のおかげで素晴らしい形にすることができました。大島紬と宮原選手のさらなる世界への飛躍を願いつつ…本当に、ありがっさまりょーた!!

「大島紬の衣装、どうでしたか…?」
「大島紬の衣装、どうでしたか…?」
「思ったより軽くて着心地も良かったです!」
「思ったより軽くて着心地も良かったです!」
今回全面的に協力してくださった南海日日新聞社の前里さん(左)と「夢おりの郷」の南さん(右)
今回全面的に協力してくださった南海日日新聞社の前里さん(左)と「夢おりの郷」の南さん(右)
 
【奄美大島】大島紬を着たフィギュア女王

 

メーキングムービー

 

写真:島田洋平 衣装:浅野正雄(GENESIS)
髪飾り:メブキコウ ヘアメイク:黒木ユミ
ムービー+撮影協力:衣川剛史・安藤朋子・泉谷智規(高映企画) 題字協力:南祐和(夢おりの郷) 音楽:松元陸・界眞子
企画協力:前里純隆(南海日日新聞社)/鹿児島県奄美市役所 商工観光部 紬観光課/本場奄美大島紬販売協同組合/夢おりの郷/大島紬村/関西大学 広報課/杉田康人(ブームスポーツ)/石原和樹・石川平(電通関西支社)