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企画者は3度たくらむNo.13

いい仕事をしよう!の次へ行こう

2016/03/03

2015年2月、日本経済新聞出版社から『企画者は3度たくらむ』が発売されました。そして、およそ1年後の今年1月、韓国の大手出版社Tornade Publishingから翻訳が発刊されました。このコラムの前編に当たる「基本以外、大切なことなんてない」もぜひ合わせてお読みください。

いまの時代を「踏み台」にできるように

私たちは常に社会を良くするために仕事をしています。その場その場で与えられた案件や課題に対して、最善と思われるアウトプットを生み出すべく考えることは、企画者として何よりも大切なことです。

しかし、最近私が考えることは、自分のチーム、もしくは、自分が向き合っているクライアントに対してのみいい仕事をするのではなく、誰もがある一定以上の仕事を生み出せるようにする考え方を、体系化して共有する必要性についてです。

コンサルティング業界でいえば、ボストンコンサルティングやマッキンゼーが生み出したフレームワークは、その企業内だけでなく、競合他社を含めた多くのビジネスパーソンが知り得る知恵になっています。

ここで注目したいのは、これらのフレームワークを用いても、答えが出るものではないという点です。しかしながら、どこから手を付けていいかも分からない有象無象の情報を正しく分類し、何から手を付ければいいかを考える上では、非常に役に立ちます。基礎と応用という言葉で分けるならば、フレームワークは基礎であり、その先の答えを出す段階が応用に当たります。

自分が行える仕事の数には、限りがあります。だからこそ、自分が得てきた秘伝ともいえる企画力を「誰もがまねできる基礎」として残しておくことが重要であると思うのです。そうすれば、後輩に当たる世代は、確実に私たちの世代を踏み台にして先に行けるはずですし、そこに今の時代を生きる世代の責任があるとすら感じています。

「いい仕事をしよう!の次へ行こう」

これが最近の私の合言葉です。先に述べた秘伝は、誰の中にもあるはずです。その扱いづらく体系化するのが難しい「塊」にカタチを与える勇気と根気があれば、先行きが暗いと言われがちな未来を、ちょっと明るくすることができるはずです。それは誰にでもできます。特別な能力や資格は必要ありませんし、今すぐにでも取り掛かれます。私が書籍を執筆したり、論文を投稿する理由は、この一点に尽きるのです。

新しい仕事と同じだけ大切なこと

20代の若手社員と仕事をしていると、業務の悩みを聞くことが多くあります。そして、彼らが必死でもがいている内容が、自分が経験してきたものと近いことに気が付きます。

そんな時、先輩としての自分は、どう対応するでしょうか?

多くの場合「私にもそんな時があったよ」というせりふとともに、自身の体験を交えて話をするでしょう。こうしたコミュニケーションも大きな心の支えになると思います。しかし、この対応は対処療法にすぎず、不十分かもしれないと思っています。

時代は確実に繰り返します。自分が過去に「私にもそんな時があったよ」と諭されたように、後輩に「私にもそんな時があったよ」と諭す。先輩、自分、後輩という3世代にわたる同じような悩みに直面した時に感じるべきは「未来においても、同じ悩みが繰り返されるであろう」と予測することではないでしょうか。これこそが、真の課題解決だと思うのです。

会社勤めをしていると、売り上げを伸ばすことが求められます。自分が属している企業という組織を支え、給与を受け取る立場としては、当然のことです。しかしながら「何をもってして、会社や社会に貢献するか」という視点を持てば、自分が培ってきた経験を体系化し、自分が出会わないかもしれない後輩世代にまで知恵として残すことも、立派な貢献になり得ると考えます。

もちろん、いまある仕事に全力を傾けることは第一です。その大前提の上で、私は新しい仕事を作ることと同等に、いままで自分が行ってきた仕事の体系化を行いたいと思っています。それは俗に言う、リーダーシップやマネジメント、人材教育といったたぐいのものではなく「本当に社会や人の役に立つことってなんだろう?」と考えた結果です。

新しい試みに向かっていくことは、それだけでワクワクします。実施にまで漕ぎつけた際には満足感もあり、金銭的な利益だけでなく、評価や名声を得られる可能性もあるでしょう。その一方で、過去の事例を振り返り体系化する作業は、実に淡々としており、目立つこともなく、大きな利益を生み出すことがないようにも感じられます。

しかしながら、誰もがある一定以上の企画を生み出すことができるようにすることが、企業および業界、ひいては国の強みになるならば、そのプロセスこそが重要なはずです。

一人一人に与えられた時間には限りがあります。その時間を、どのような比率で、何をするか。その一部に、自分の体験の体系化を入れるべきと考える人が一人でも多くなれば、組織はもっと強くなるだけでなく、自分が働いている意味をより深く感じられるようになると思います。

まだ本書や電通報で連載していたコラムをお読みでない方がいらっしゃったら、この機会にお読みいただければうれしく思います。翌日から企画力が劇的に向上することは期待できませんが、一生モノの企画力を身につける一助になると信じています。