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個人と社会をなめらかにつなぐ、新しいコンテンツのつくり方、届け方。(後編)

Dentsu Design Talk №73

  • 鈴木 健
  • 田川 欣哉
  • 佐渡島 庸平

2016/03/05

個人と社会をなめらかにつなぐ、新しいコンテンツのつくり方、届け方。(後編)

鈴木健さんは日米を拠点としたニュースアプリ「SmartNews(スマートニュース)」の共同創設者。その著書『なめらかな社会とその敵』は、インターネット誕生後の複雑化する情報社会における人間や社会の生態学的進化の可能性を示し、「SmartNews」の急速な拡大、成功と共に注目を集めてきた。鈴木さんとtakramの田川欣哉さん、コルクの佐渡島庸平さんは、プログラミングとアート、コンテンツと新しい流通、ビジネス開発プロセスなど、大きなテーマでの関心が重なり、これまで対話を続けてきたという。後編では3人それぞれの「コンテンツの定義、つくり方」をめぐるトークをお届けする。

(左から)田川氏、鈴木氏、佐渡島氏

 

身体性、操作性が
コンテンツの重要なファクターになる

佐渡島:一口に「コンテンツ」といっても、僕たち3人のイメージするものは全然違うかもしれません。お2人は、どんなコンテンツが重要で、これからコンテンツはどう変わっていくと思いますか?

鈴木:コンテンツは中身という意味なので、箱であるコンテナの形式が定まって、初めてコンテンツと呼べるわけです。今はコンテンツとコンテナの境界線があいまいで、よく分からないんですよね。

多分、何かをクリエートする人たちは、作品そのものをつくっているわけではなくて、作品を通じて、それを見たり聞いたりしている人の中に、ある感覚を引き起こそうと意図しているはずです。僕が本を書くときもそう。そこでどんな新しい感覚を生み出していけるかが現代のチャレンジです。

社会が「こういう見方でものを見なさい」と決めつけた感覚を開放したい。そのために「コンテンツ・コンテナ」を超えたコンテンツやプラットフォームのテクノロジー、デザインの方法が模索されているのです。

田川:僕が扱っているのは人工物。つまり、道具と環境です。特に道具については、人間の身体性と近いところに妙味があるので、今の話はとても気になります。

SmartNewsがはやった理由のひとつは、横スライドのタブ型インターフェースがスマートフォンの操作性と相性が良かったことだと思います。縦スクロールと横スクロールの2つに操作系を集約したことで、単純なフリック動作の反復からいろいろな情報が出てくる。そこに気持ちよさが生まれた。あのフリックの感覚は新聞や本をめくる感覚とも似た部分がありますよね。ああいう反復動作は人を落ち着かせ、思考をフロー化するそうです。

ニュースメディアが持つ機能性と指先の身体性。その二つが絶妙に混ざり合うところに、本当に考えなければいけない領域がある。その領域でものを実装するには、テクノロジーが分かっていないといけません。そういう今の時代の象徴として、SmartNewsはあるのかなと思います。

鈴木:鋭い指摘ですね。フリックの気持ち良さにはかなりこだわりました。

田川:3年前にあのフリックの反応速度を実現するのは、相当難しかったでしょう?

鈴木:いわゆる「めくる」操作はアップルも標準で用意しているんです。でも、それだと気持ち良くならないから、独自に実装して、角度も1度単位で調整しました。ギリギリのチューニングです。

田川:僕が今興味を持っているのは、2020年にどんなメディアが来るかということです。テクノロジードリブンで入ってくる以外ないと思いますが、そこでコンテンツはどう再定義されるのかな? 身体性とコンテンツの接地点をどうデザインするかという話に落ちざるを得ないと思います。

鈴木:バーチャルリアリティーが来るといわれていますよね。そうなると、視覚と聴覚が中心になるわけだけど、やっぱり触覚は欲しいよね?

田川:そこでいう触覚って、ビジュアルハプティクスの世界ですよね。自分の身体がどう運動しているかという自意識に、視覚が連動することで、あたかも触っているかのように脳が誤解をする。

オキュラスリフトのような話ももちろんありますが、今60フレームで動いているiPhoneの描画性能が、1万フレームで動くようになったら、同じスマートフォンでも、全く違うメディアになっている可能性があります。もう既に1000フレームぐらいまで可能になってきたと聞いています。

佐渡島:先週、アメリカでマイクロソフトの「ホロレンズ」(視界に3Dの仮想オブジェクトを重ねて表示できるホログラムコンピューター)を体験してきました。これまでと全く違う楽しさや没入感を体験しながら、一方で「このコンテンツを誰がどうやってつくるのか?」と疑問が浮かんだばかりです。

ニュースアプリも、つくり手は今まで「どうやっていいニュースを集めるか」を考えてきたと思います。それが「操作性が気持ち良くて毎日触りたくなることが一番重要だよね」という考え方に変わるのは画期的だと、お2人の話を聞いて思いました。

 

それぞれが考える
いい「コンテンツ」の定義とは?

佐渡島:お2人はものをつくる上で、何が「いいコンテンツ」だと考えていますか。

田川:プロジェクトの中では、勝利のタイミングが2回あるんです。まず1回目は事業者(クライアント)の社内的な決裁が通って事業化が決まるタイミング。2回目は、その事業が市場で勝つ瞬間です。1回目で勝つことにフォーカスし過ぎて2回目で負ける場合もありますし、2回目で勝てそうなアイデアでも1回目をクリアしないと実現しません。その2つをバランスを常に気にかけて判断しています。

個人的には1回目の勝ちに費やす時間をできるだけスピーディーに抜けていくことが大事だと思っています。1回目の社内的な勝利に重きを置かないで済むような決済の仕組みを事前につくることなどが、この展開の早い市場ではとても重要です。そして、2回目の勝ちに継続的にフォーカスできる環境づくりに時間を使っています。

鈴木:スマートニュースの社内でも、良質な情報とは何かをよく議論します。だいたい次の5つになると思います。

①サバイブ(生存)するための情報。天気・災害・戦争についての正確な情報。
②世界の見え方を変える情報。調査報道やオピニオン、分析記事など。
③仕事のための情報。経済やファイナンス、ライフハックなどに関する情報。
④生活のための情報。ライフスタイル、ローカルニュース、交通情報など。
⑤楽しむための情報。エンタメ、スポーツ、カルチャー、グルメなど。

あえて、どの情報の価値が高い、低いと僕は言いたくないんです。それぞれが重要であり、人生を豊かにします。僕個人としては、良質な情報というのは、その人の人生を変える情報だと思っています。

佐渡島:先日、会社の公認会計士と話し合っていて「いい作家に見えるようにすることが大事」と言われたんです。じゃあ「いい作家」って何なのか。単純に考えれば、売れるのがいい作家です。しかしマンガの世界では、単行本が売れるタイプの作家と、雑誌に連載されることで雑誌が売れるタイプの作家がいます。雑誌から単行本にメディアが変わるだけで「価値ある作家」の基準は簡単に覆ります。うちの会社にとって「いい」とは何だろうと考えていたので、質問させてもらいました。

最後に、未来に向けての話を聞かせてもらってもいいですか?

鈴木:2016年からは、新機能を次々と出し、プロダクトをどんどん変えていきます。日本やアメリカだけでなく、世界のありとあらゆるところでコンテンツが読めるようにする。そして世界中のほとんどの人がスマホを持つ時代になったときに、SmartNewsが最高のニュースアプリとして信頼されるようになっていたい。その先に目指すのは、民主主義のプラットフォームをつくること。メディアだけでは世の中は変わらないので、その先も見据えて取り組んでいきたいです。

田川:takramの組織の中にダイバーシティーをしっかりに組み込んでいきたいと思っています。人材のダイバーシティーが、アイデアやコンセプトを生むということはよくいわれる話ですが、それがきちんと事業化のプロセスの中で機能していくということを目指したい。それが今の僕の大きなテーマです。

今日はデザインエンジニアリングの話をしましたが、最近takramでは純粋なビジネスプランニングやブランディングの仕事も増えています。そういった新しい部分を会社として発信していくことも、次の一歩になると考えています。

<了>

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企画プロデュース:電通イベント&スペース・デザイン局 金原亜紀