百田尚樹氏「面白さには、どの世代も惹きつける力が必ずある」第1回
2013/11/18
映画化は無理だと思っていたら・・・
小説家としての僕のデビュー作『永遠の0』が映画化され、12月に全国公開になります(製作=「永遠の0」製作委員会、配給=東宝)。原作者の僕が言うのもなんですが、実によくできた映画です。僕は10代の終わりから20代前半にかけて毎日のように映画を見たほど、大の映画ファンなのですが、今回の映画は「10年に1本あるかどうか」と思うほど、大絶賛の映画です。
試写会は2度見ましたが、2回目のとき、試写が終わった後、女性トイレがえらく混んでいるのに気付きました。一緒に試写を見た女性記者に聞くと、みんな、泣いた後の化粧直しが大変だったと言っていました。
実は映画化の話はこれまでも何度かありました。いろんな方が何度もシナリオを持ってきてくれたのですが、どれも納得がいかなくて、お断りしていました。文庫本では600ページにもなる長編で、これを2時間ちょっとの映画にするのは無理じゃないかと思っていました。万が一、どうしても映画にするのなら、自分でシナリオを書くしかないかと思っていたくらいです。
僕は30年、放送作家をしてきましたが、脚本では話の展開を理解してもらうために、「段取り」といわれる場面をどうしても入れないといけない。そういうくだりは、見ていて、たいてい面白くないものです。でも今回の映画は、その段取りを感じさせるシーンがまったくない。どのシーンも引き込まれる。緩急をつけながら、しかも「緩」の場面にも、引き込む力がある。特に最後の40分くらいの流れは、本当にうまいと思いました。原作とはまた別の、素晴らしい映像世界をつくり上げてくれました。
若い世代へ語り継いでいく役割
原作が350万部も売れたのは自分でも驚いています。7年前に出版されたときは、賞をとっているわけでもないし、新聞・雑誌の書評に載るわけでもない。まったく注目されませんでした。それが、いつの間にかじわじわ売れるようになって、気が付いたら350万部です。
やはり、口コミの力だと思います。最初は、読者は9割以上が60代以上の男性でした。それが、50代、40代、30代と年代が下に広がってきて、戦争物にもかかわらず、20代前半や10代後半の人たちまで読んでくれるようになったのです。書店の方に聞くと、今は、女性がとても多くなったそうです。
読者の反響として驚いたのは、たくさんの若い人がフェイスブックやツイッター、ミクシィなどに感想を書き込んでくれたことです。それはうれしいことでもあったのですが、中でも多かったのが、戦争のことを何も知らなかったというコメントです。
真珠湾攻撃や第二次世界大戦のこと、そして東京大空襲や敗戦のことも。その事実があったことは知っていても、詳しいことは何も分かっていなかったと。「おじいちゃん、おばあちゃんは、こんな戦争体験をしてきたのか」「もっと話を聞いておくんだった」と率直に語っているわけです。
戦争の話は学校では詳しく教えてくれないし、結局、社会人になってから、そういうことに興味がある人しか知る機会がない。日本人があの戦争をどのように戦ったかなんて、ほとんどの若者は知らないわけです。そういう若者に、『永遠の0』が読まれたことは、驚きでもあり、また喜ばしいことでした。
僕は、親父(おやじ)から戦争の話は聞いていました。でも、親父たちの世代は孫世代にはほとんど語っていないのが実情ではないでしょうか。実はそれが、そもそも『永遠の0』を書こうとした動機でもあったのです。書こうとしたときには、親父は末期がんで余命半年といわれていたし、その少し前には伯父(おじ)の一人がやはりがんで亡くなっていました。このままでは、戦争に行った親父世代の歴史が消えていく。小さい頃に戦争の話を聞いていた世代として、やはり伝えていく必要があるのではないかと思ったのです。
『永遠の0』は、戦争に行った世代の孫に当たる若者が、戦闘機のパイロットだった祖父がどのように戦い、そして死んでいったのか、それを共に戦った人たちを訪ねて少しずつ知っていくという物語です。戦時中のシーンも出てきますが、時制はあくまで現代に置いています。その方が、今の若い人たちに、自分と同じ世代の若者が戦中をどう生きたのかを伝えやすいと思ったからです。(談)
<第2回へ続く>