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アクティブラーニング こんなのどうだろうNo.12

まずは大人がアクティブになってみよう。
アクティブラーニングこんなのどうだろうサミット

2016/03/31

電通総研「アクティブラーニング こんなのどうだろう研究所」初のイベント、「こんなのどうだろうサミット」が3月5日、電通ホールで開催されました。

小中学校の教職員、教育関連企業、そして学生の皆さまなど、さまざまなジャンルの方に日本各地からお越しいただいた本イベント。その模様を連載特別編としてお送りします。

アクティブラーニングこんなのどうだろうサミット 時間割

 

アクティブにできるところは、アクティブに

今回のサミットでは、正解のない教育を目指していくための鍵は「大人がアクティブ」であることと捉え、講師と受講者がはっきりと別れてしまうような一方的なセミナー方式ではなく、先生と生徒がアクティブになれるような授業形式で行いました。休み時間には、ICT関連企業による展示ブースで、教育における最新のICT事例紹介を行いました。

                                     電通総研アクティブラーニングこんなのどうだろう研究所・倉成英俊所長

さらにアクティブにできるところはアクティブにしようと、キリーロバ・ナージャ研究員のコラム「5カ国の小学校の座席システム。実は、全部違った。」にならい、各授業に合った座席の配置を各先生に考えていただきました。

例えば、倉成英俊所長は、普通のセミナーではないことを最初に強く印象付けたいということで、あえて所長が真ん中に立ち、その周りを座席が囲むという配置に。ナージャの授業は、イギリスのラウンドテーブル(円卓)方式。サミット全体に「こんなのどうだろう」を入れていくことで、通常のセミナー形式にとらわれないイベントを目指しました。

 

思考プロセスと決定プロセスでアクティブラーニングを体験

最初に「こんなのどうだろう」ということで、アクティブラーニングの模擬授業を2コマ行いました。

1コマ目は、「広告小学校」の共同研究者である大熊雅士先生による、自分のキャッチコピーをつくる授業。「広告小学校」の教材「考え方の考え方」を使って、「拡散」と「収束」そして「コンセプトづくり」などのステップに沿いながら、自分のキャッチコピーを開発していきました。コピーをどのように考えるのかという授業を通じて、子どもたちにただ考えろというのではなく、「考える」ということをどのように教えればよいのかを体験してもらいました。

2コマ目は、今回の新作授業。ナージャ研究員の「修学旅行の行き先を決める」というワークショップです。このワークショップ、ただ行き先を決めて終わりという授業ではもちろんありません。各グループの机に置かれている決定プロセスのカードを順番に引いていき、そのカードの内容に従って、最終的に修学旅行の行き先を決めていきます。

カードは全部で12種類。カードには「ちゃぶ台返し」「応援演説」などの言葉が書かれています。例えば、「ちゃぶ台返し」のカードを引いた人は、これまでに出ていた案をひっくり返すような発言をしなければなりません。「応援演説」の人は、これまでに出ていた案の中から好きな案の応援演説をしなければなりません。このようにカードを引いていくことによって、通常の決定プロセスでは考えられないような、ハチャメチャなプロセスを強いられることになります。

ナージャ 授業風景
「大人になっていくと、おのずと思考プロセスは決まっていきます。だからカードで無理やりプロセスが決まっていくのは、確かにやりづらい。でも、全部体験してみないと見えてこないはずなんです。このワークショップを通して、自分のプロセスを再発見してもらいたいと思いました」(ナージャ)

 

あなたの認知特性は、視覚優位?言語優位?聴覚優位?

当研究所では授業をデザインしていく際に、いろいろな方々のアドバイスを頂きながら、こんなのどうだろうという授業を考えています。その中で「認知特性」の話が大変興味深かったため、小児科医の本田真美先生をお呼びして、サミットで授業を行っていただきました。
皆さん「初対面の方を覚えるとき」、どのように覚えていますか?
A 顔や雰囲気で覚える
B 名刺の文字で覚える
C 名前の響きから覚える
認知特性というのは、外界からの情報を、頭の中で理解・記憶したり、表現したりする方法のことで、同じことを見ても、聞いても、自分と同じ方法で相手が理解するわけではないそうです。人には生まれ持っての、思考や理解、表現にやりやすい方法があるのです。認知特性には大きく3つのタイプがあります。
初対面の人を顔や雰囲気で覚える方は、絵柄や映像で物事を考える「視覚優位タイプ」。名刺に書かれている文字で覚える方は、言葉や文字で理解する「言語優位タイプ」。名前の響きや音が頭に残っている方は、音や音声で理解するのが得意な「聴覚優位タイプ」。
今回の授業で、認知特性のタイプ別チームに分かれて問題を解くことで、どのような差が出てくるか、実証実験を行いました。学校の授業やテストは「言語優位」「聴覚優位」の認知特性を持っている子どもほど有利だそうです。でも、クラスの中には「視覚優位」の子どもたちもいるはずだと本田先生は言います。
本田先生授業風景

「アクティブラーニングが騒がれていますが、自分とは違う特性を持った子どもたちがこのクラスにいるかもしれないと、教員が理解をすることがとても大切です。私は教育者ではないのですが、ぜひ子どもの特性を考えて、授業の組み立てをしていただければと思っています」(本田先生)

「集中力」「話し合う」。こんなテーマでもアクティブラーニングできます

スポーツ心理学の観点からアクティブラーニングを考える布施努先生の授業もアクティブでした。サミットの日に初めて出会った30人のグループ。最初に「どれだけ早く生年月日順に整列できるか」をやります。並び終わった後、みんなで集まりどうすればもっと早くできるようになるか話し合います。話し合いの結果、リーダーを決めて指示することでより早く整列できるという仮説を立てました。

次に「どれだけ早く名前の50音順で整列できるか」をやりました。このように、目標や仮説を立てるために話し合うということが、スポーツ心理学においてはアクティブラーニングにつながるそうです。

布施先生授業風景

「スポーツ心理学では、集中力は、集中する先を具体的に設定できる能力です。集中する先を明確にすることで、選手たちは、次やるべき選択肢をいくつも挙げた上で、正しい選択肢を選ぶことができます。それをチーム全員で共有する必要があるため、話し合うことがとても大事になるのです」(布施先生)

答えがない?それともすべてが答え?

今回のサミットでは「こんなのどうだろう」ということで、アクティブラーニングの模擬授業、いろいろな認知特性の子どもたちがいることへの理解、スポーツ心理学から見たコミュニケーション能力など、盛りだくさんの内容となりました。最後に、今回の1日を振り返って、大熊先生よりコメントを頂きました。

大熊先生授業風景

「今回のサミットのキャッチコピーは、『答えがない?それともすべてが答え?』でした。

これまでの教育は、ややもすると教師が正解を用意する、もしくは期待する姿があり、それを子どもたちに試行錯誤させながら探し出させる学習が多かったように思います。私自身が教員として、そのような教え方をしていました。

手法がどうであれ、そのようなことを繰り返したのでは、社会に出て新しいことに挑戦しようとする意欲にはつながらないのではないか。変化の激しい社会の中で、たくましく生きていくためには、子どもたちが答えのない問題に果敢に挑戦し、それを乗り越える経験を積み上げることが大切であると、私は考えています。このような学びこそが、社会で活用できる汎用的な能力を育成するアクティブラーニングになる、と。

今回のサミットの4つの授業を振り返ると、いくつかのエッセンスがあったように思いました。
胸騒ぎを課題化させる:自分の体の中に湧き上がる感情を正直に受け止め、課題として認識すること。
課題を自分ゴト化し、解決する:課題を他人に責任転嫁することなく、今自分ができることから解決に向かうこと。
これらの学習を成立させるためのOS(学習過程)の転換:これまでの学習過程にとらわれることなく、子どもと共に問題を解決しようとする試み。

それぞれの授業の中に、このような「こんなのどうだろう」エッセンスが点在していると思いました。秋に開催予定の第2回サミットで、皆さんそれぞれの「こんなのどうだろう」に出会えるのを楽しみにしています。」

大変好評を頂いている本連載ですが、どうしてもメディアの特性上、一方的にお伝えしている感があり、ぜひご意見、お問い合わせなど、メール(dii@dentsu.co.jp)でご連絡いただけると幸いです。また最新情報などは、Facebookページ(https://www.facebook.com/dentsu.active.learning/)でお伝えしていきますので、今後ともよろしくお願いいたします。