loading...

アクティブラーニング こんなのどうだろうNo.11

NPO向け「伝えるコツ」は、
学校に応用可能か!?

2016/03/22

電通総研「アクティブラーニング こんなのどうだろう研究所」は、学校教育におけるアクティブラーニングの本格的導入を控え、2015年10月に設立されました。同研究所は、自ら課題発見・解決し、実社会で活用できる汎用的な能力の育成を目指すアクティブラーニングに使えるノウハウを提供し、「ラーニングのアクティブ化」のサポートに取り組んでいきます。

この連載は、同研究所のキリーロバ・ナージャのコラムと研究所メンバーでもある大熊雅士先生とメンバーらによる対談でお送りしています。

第2回の対談テーマは「伝えるコツ」です。「伝えるコツ」は電通が行っている社会貢献活動で、日本全国のNPO法人の方々に向け、コミュニケーション力の強化をワークショップ形式により支援するプログラムです。

大熊先生と電通2CRP局・石田茂富局長、そして同研究所長の倉成英俊がファシリテーターとなり、「伝えるコツ」の中でアクティブラーニングに使えそうなエッセンスについて語り合いました。

左から、電通・倉成氏、ブレイブ室長・大熊氏、電通・石田氏
左から、電通・倉成氏、ブレイブ室長・大熊氏、電通・石田氏

「伝えるコツ」は、NPOへの社会貢献

倉成:まずあらためて「伝えるコツ」とは何か、教えていただけますか。

石田:電通の社会貢献活動(CSR)です。外部の方に「NPOには困っていることがいろいろあるので、電通の専門スキルで手助けしてあげてほしい」と言われたのがきっかけで、12年前にスタートしました。

まずは基礎が大切であると考え、自分たちが何者なのか、どんなことをしていて、どんな協力を求めたいのか。こうしたことを、きちんと伝えられるようにする、ということから始めました。

倉成:テキストを拝見するとこれは、全部、電通で広告をつくっているときにやっていることですね。

石田:そう、われわれが仕事でやってきたことを、まだコミュニケーション経験の浅いNPOの方たちにお伝えするわけです。この方たちは、社会の新しい担い手になっていくのですから、電通の本業スキルを伝えることで、社会貢献になるという考えですね。お金の援助などをするよりも、本業に近いところでノウハウの援助をする方が、CSR活動としてはより良いと考えています。

最初は本をつくって配るというやり方を考えていましたが、NPOの方々の要望が強く、ワークショップ形式で進めることになりました。

電通の現場で広告をつくっている人が講師になって、全国の都道府県で120回近くワークショップを開催、約4800人のNPOの方々に「伝えるコツ」を伝えてきました。

倉成:「伝えるコツ」の冊子は、何回か改訂をしてるんですか?

伝えるコツ教材

石田:カタカナが多過ぎるなど、細かい問題点を直していきました。始まったときは、インターネットやソーシャルメディアがなかったので、最近の改訂ではウェブ中心のコミュニケーションのとり方などについても触れています。とはいっても「伝えるコツ」の本質は変わっていません。

倉成:受講者からのいい反応などは何かあったんですか?

石田:「手法に入る前に、まずは自分たちの整理が大切であることが分かりました」「本当に目からウロコです」といった言葉を頂いています。また、受講した方が知り合いの方に「とにかく絶対にこのワークショップは受けた方がいい」と推薦してくれたりしています。

以前に、受講前と後を比較するワークショップを開いたことがあります。団体の広報誌が、受講前のものと比較して、見事に別モノになっていました。人間性が前に出てとても魅力的なものになったので、私たちも驚きました。

この「コツ」は、教育の現場に全くなかった

倉成:大熊先生、この冊子をご覧になって、いかがですか?

大熊:「伝えるコツ」を見たときに、衝撃を受けたんです。こんなこと今まで習っていなかったし、教えることもできていなかった。小学校で教員をやって、指導主事をやって、その後教育委員会で働いたわけですが、その経験の中で「伝えるコツ」は何一つ意識してきませんでした。

教育委員会から学校に「ホームページをつくってください」とお願いするにしても、ホームページの制作ソフトウエアは配布しましたが、ホームページをどうやってつくって、どう伝えればいいのか、そういう指示はゼロでした。さっきNPOの方々が「目からウロコ」と言っていたというお話がありましたけど、まさにそうでした。

大熊先生

「ワンフレーズ化」までの巧妙なプロセス

倉成:先日、僕も実際に熊本でのワークショップに参加したのですが、冊子を配るんじゃなくて、対面のワークショップにこだわっていることがよく分かりました。どんな流れか、ぜひ説明していただけませんか?

伝えるコツ教材

石田:基本は小冊子の「PART1 考え方編」で、ここをみっちりとやります。最初は「伝えるコツ01 自分を見つめることから、はじめてみよう。」です。他人に何を伝えるかではなく、最初に自分が何者であるのか、整理してもらいます。

その次は「伝えるコツ02 相手から自分がどう見えているか、考えてみよう。」です。自分では分かっているつもりでも相手が分かっていないかもしれませんから、「どんな団体として見られているのか」を意識し、どう見られたいのかを考えます。

「伝えるコツ03 何をしたいのか、団体の目的を明確にしよう。」では「これまで達成できたこと」「これまで達成できなかったこと」「これから先やるべきこと」を書き出してもらいます。

そうすると団体の課題が見えてきますので「伝えるコツ04 団体の課題が何なのかを、はっきりさせよう。」で、解決したい課題の整理を行います。

さらに「伝えるコツ05 『誰に』『何を』伝えたいのか整理しよう。」ではターゲットを具体的にイメージしてもらいます。伝える相手がはっきりすれば、メッセージの伝え方、語り口調も生き生きとしてくるはずです。

そして最後に「ワンフレーズ化」をするわけです。「PART1」の最後「伝えるコツ06 自分たちの活動を『ひとこと』にしてみよう。」では、活動の内容を伝えるスローガンをつくります。実は今までの作業はここにたどり着くまでの準備運動だったんです。

石田氏

大熊:とても良くできていますよね。「伝えるコツ06」は、普通これを最初に持っていくと思うんですよ。ところが、「01」から「06」までを順番にやっていくと、参加者が主体的に解決策をつくれる道筋になっているんです。

こういうふうにつくればいいよ、などと最初に結論を押しつけるのではなくて、自分のことが分かっていない、自分のことが相手に伝わっていないということをまずは実感させます。受講者は「解決したい気持ち」になって、その後に課題を明らかにされて、そこに乗っかって教わっていく流れなんですよ。

今、教育界で話題になっているアクティブラーニングって「元気にやる」とか「活動的にやる」ということではないんです。あるプロセスを通ると、参加者が主体的に解決を求めるようになり、そして具体的に解決ができる、そういった教え方のプロセスこそ「アクティブラーニング」だと思いますね。「伝えるコツ」はまさにそうなっています。

伝える相手が分かれば、「トーン&マナー」が決まる

大熊・石田・倉成三氏の対談

倉成:「伝えるコツ」の「PART2」からは実践編になっていますね。

石田:「PART2 実践編」ではどうやったら伝わるか、そのやり方が書いてあります。例えば「情報の量を減らす」「プライオリティーをつけよう」「表現のトーン&マナーを考えよう」などのやり方です。そして「PART3発展編」でメディアやSNSで自分たちの情報を伝えるにはどうしたらいいのか。ニュースリリースの書き方などを具体的にお伝えしています。最後の「PART4 協力編」では、支援者を増やす方法について触れています。

大熊:僕はこの実践編をもっと早く読んでおけばよかったと思ってます。妻にイベントをやるから原稿をつくってくれと言われたことがあり、教育委員会の原稿のような書き方をしたら「こんな原稿じゃ、誰も来ない」と却下されたんです。

確かに読み直してみると上から目線の教育委員会にいたときのような文章になっていて、反省して書き方を変えたんですね。小学校の学級だよりを書くときの文体にしてみたら、とても良くなったと言われたんです。文章にも「トーン&マナー」、つまりは伝える時の口調のようなものがあって、それを考えることもできていなかったんです。

アクティブラーニングとは、
自分の中にある解答を掘り出すこと

倉成: アクティブラーニングの導入で、答えがない問いが増えるのはいいことだと思います。何を言うかも自由だし、やり方も自由。「伝えるコツ」の「PART1 考え方編」がまさにそんなプロセスですよね。

倉成氏

石田:ゴールのイメージがきちんとあれば、そこに至る正解はいくつもある。「伝えるコツ」で伝えていることもまさにそれですね。

倉成:それに加えて、表現のトーン&マナー、つまりどう伝えるか?の部分にも、決まった答えはないということを、子どものころから教えてもいいのではないでしょうか。作文はこう書かねばならぬ、というのが何となくある。でも本当のところパターンは無限。タメ口だっていいし、逆にすごく硬い文章で書いても、長い1文で書き終えてもいいはず。そこを知れば、もっと表現することに興味を持てるんじゃないでしょうか。

大熊:頭のいい子どもは、先生が心に描いている正解をどう見つけるのかがうまかった。僕もそうでした。ところがアクティブラーニングでは、先生が持っている正解とかは関係ない。求めることは先生の側ではなく、自分の心の中にあります。

僕は「胸騒ぎがする」という言い方をするんですが、自分を見つめて問題を発見するプロセスを踏んでいくと、何か自分の中に解決しなければならない「胸騒ぎ」が課題となって浮かび上がってくるのです。そのプロセスが「伝えるコツ」にあるということが今日は確認できました。

倉成:今日は、広告業界のスキルで教育の現場に応用可能なことについての話でしたが、逆に、教育業界のスキルでビジネスに応用可能なことがたくさんあることを、大熊先生とのお付き合いの中で僕は学びました。「いかにみんなが発言したくなる空気をつくるか」とか「後出し指示は学級崩壊を生む」とか「リスクをある程度保たせて自信をつけさせる方法」などなど。話すと一晩かかるくらい。

ビジネスと教育、双方向での創発がより起こると、世の中絶対もっともっと面白くなると思いますよ。これから、そんなことをたくさん始めようとしてるんです。一緒にどんどんやりましょう。今日はありがとうございました。