IoT環境最適化へNo.2
速度から最適化へ― IoTの“主役” 通信環境の地殻変動 (後編)
2016/04/04
(前編より続く)
IoT環境における個別最適化へ
通信におけるIoT環境最適化とはどういうことでしょうか。IoTにはさまざまなデバイスと用途があるのですが、ちょっとだけ先の未来に起こるであろうことで説明します。
コネクテッドカーが話題になっています。車とクラウドが直結する、または、車と車、車と人、自転車等が直接つながり合う車です。自動車が走行する速度と移動する方向を含めた位置情報が取得でき、同様に人や自転車の移動速度・位置情報もつかめると、交差点での衝突事故は自動ブレーキや衝突防止アラートなどで未然に防げます。この時必要となる通信環境ですが、通信の進化訴求でよく使われる数百Mbpsといった高速通信は必要ありません。むしろ一度に送ることができる容量は少なくてよいのですが、即時で必ずつながることが重要になります。つまり、車と人の接触事故を自動で防止するサービスを実現するために必要な通信環境は、“超低遅延”“必ずつながる”“少量通信でよい”というものになります。
あるいは、今後IoTデバイスがどんどん増えていくと、通信頻度が低いものの方が多くなるかもしれません。異常時の警報を送ったり、月1回など定期的に必要な時だけ通信するようなものです。また例えば、ガスメーターの検針データ送信や、家畜に付けるトラッキングデバイスなど、電源のない場所に設置したいものなどもあるでしょう。これらは常に通信する必要はありません。このようなニーズに対応する、いざという時にきちんと通信ができる、単三アルカリ電池1本で数年通信が可能となるIoTデバイスが、通信の進化とともに実現できることが明らかになりました。頻度が低く、データ量も少ないIoTデバイスが増えていくとなると、通信環境として必要となるものは“広域”“低消費電力”“少量通信”となります。通信頻度や通信容量が少ないことから、1つの基地局でカバーできるデバイス数も増えることが想定されます。このような考え方は「LPWA」(Low Power Wide Area)と呼ばれ、ニーズの高さ、ビジネス面でのベネフィットもあることから5Gの前にLTEで実現する動きが見えてきています。
昨今、日本でも監視カメラが増えています。大半はネットワーク対応型であり、4K対応など高画質なものも増えてきました。監視カメラはクラウドと直結することで、新たなベネフィットを提供します。例えば、顔認証で最適なOOHを提供するようなことも可能になります。以前映画であったような、改札を通った瞬間に目の前にホログラム広告を出すようなことが技術的に可能です。しかしそのためには、高画質な映像をクラウドへリアルタイムにアップロードするために、アップリンク帯域が太くならなくてはいけません。もちろん小分けにする、静止画で送信する、というような方法もあるでしょうが、将来的には有線と無線双方を状況に応じて使い分け、さまざまな映像をリアルタイムでクラウドへ送り、クラウド上の解析結果を即時で個人やメディアに返すような時代になるでしょう。その時には、“高速”“広い帯域”の“アップリンク”が必要になります。
映像系ですと成長が確実視されているVR(仮想現実)の場合、通信視点では課題がありそうです。リアルタイムVR配信などをするためには高速・広帯域のアップリンクが必要になります。これは監視カメラと同じですが、VRの場合、「映像酔い」を避けるために一般の動画よりもフレームレートの高いものが求められること、視界が360度になることなどから容量が数倍になることもあります。そしてストリーム配信をすると当然ダウンリンクにも高速・広帯域が求められます。“少量通信”“低頻度”でもビジネスになることが見えてきた今、大容量通信が主体のVRサービスは、通信視点からするとあまりおいしくない市場という見方もあるでしょう。もちろん、現在のようなデータ通信の従量制が続く場合、利用した分だけ収益が増えるので利用促進は行われると思いますが、将来的には利用者の負荷軽減の検討が必要となる領域かもしれません。
これらのように、ハンドセット時代からIoT時代に変化することで、要求される「通信スペック」の基準が多様化します。5Gでは10Gbpsを超える高速化の進化も具体的に進んでいますが、LTE以降の進化では多様化というもう一つの進化ベクトルの魅力が高まります。つまり、高速・大容量の進化が中心だったハンドセット時代から、アプリケーション(用途)ごとに最適な通信環境を提供するIoT時代への変化が顕在化したのが、まさに今回のMWCでした。
“土管”とクラウドの結合に大きなビジネスチャンス
CESではデバイスに注目が集まり、その普及で新たにつくり出される利用シーンでのビジネスチャンスに期待が寄せられていました。しかしMWCでは、環境構築側に大きなビジネスチャンスがあることに多くの企業が注目し、取り組みを始めていました。特にこれまでは“土管”といわれていた通信ネットワークと、AI機能やサービスプラットフォームを提供するクラウドの結合は、IoT時代の大きな成長カテゴリーとなるでしょう。通信事業者は、頭打ちだった回線契約が急増することが見込まれます。さらにネットワークレイヤーだけでなくアプリケーションレイヤーまでビジネスを拡大するチャンスでもあり、目の前に大きな伸びしろが見えています。もちろんこのアプリケーションレイヤーは、クラウド系企業など多くのプレーヤーが狙っている市場です。
広告やマーケティング業界にも大きなチャンスがあります。消費者においては、まだIoTが生活に入り込むイメージが構築されていません。デバイスやサービスの訴求だけでは振り向いてもらえない可能性があることもまたIoTの課題です。生活に定着するIoTの魅力を伝える、IoTを活用した新しいコミュニケーションを発明する、それが次世代の広告ビジネスになるかもしれません。
通信の進化で、生活のイノベーションが起こる時代が再びやって来ます。そこにはあらゆる企業にチャンスがあります。このリポートを読んでくださった皆さまも、デバイスやアプリなどの手元だけでなく、通信の進化といったこれまでと少し違った視点で未来を考えてみてはいかがでしょうか。市場を拓く面白いアイデアや新しいビジネスにつながる“通信の面白さ”に、一人でも多くの方に気づいていただければと願っています。