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IoT環境最適化へNo.1

速度から最適化へ― IoTの“主役” 通信環境の地殻変動 (前編)

2016/04/03

IT利用実態を把握する「電通モバイルプロジェクト」とスマートフォン領域を専門にプランニングを行なう「電通スマプラ」、この2つの社内横断ユニットのリーダーを務めている吉田です。2011年から毎年、CESとMWCという世界的なITの祭典を、主にモバイル領域の視点から視察することによって、この6年間で世界が大きく変わるのを肌で感じてきました。

特に今回のMWC2016は、通信進化のベクトルが大きく変わろうとしていることが明らかになり、これまでで最も面白く、印象深いものになりました。その変化の原動力となっているのは、IoTへの対応です。全てがコネクトする時代に向けて、今まさに通信環境の地殻変動が起きつつある。そんな実感を強く持ったことを、今回お話ししようと思います。

ちなみに、CESはご存知の通り世界最大の家電見本市で、近年はITの祭典としても知られています。一方、MWCはMobile World Congressの略で、通信規格を決める業界団体・GSMAが主催する世界最大のモバイルイベントです。数年前まで参加者は通信や政府関係者などモバイル業界の関係者に限られていましたが、スマートデバイスの普及とIoT化によって急速に注目度が高まり、今年の来場者は過去最高の10万人超となっています。

(関連記事:MWC2016開催 スローガンは『Mobile is Everything』[2016.03.11])

 

CES2016で見えた問題点。センサーとAIの進化にデバイスは対応、では通信環境は?

吉田健太郎

昨年のCESでは、モノが単独でネットにつながる「スマート化」から、さまざまなモノが直接つながり合う「IoT」への明確なシフトが起こり、コネクテッド時代の幕が開けました。さらに今年のCES2016ではそのトレンドが加速し、特にVR(仮想現実)、ロボティクス、ドローンなどのカテゴリーの熱量が高く、話題を集めました。

これらの新たなデバイスを俯瞰すると、そこに重要な共通点が見えてきました。リアルをデジタル化する役割を担うセンサーと、同じくリアルを認識・判断するAIの進化が、デバイスの進化を牽引していることです。センサーは、脈拍や加速度などの動態センサーからリアルの物体をスキャンするものまで多様化し、それぞれ精度の向上と小型化が進んでいます。AIは、デバイスの機能面での差別化はもちろん、それ以上にユーザーごとのカスタマイズやタイムリーな情報提供など、分かりやすい特徴をつくるものとして積極的な活用が目立ちます。

しかし、そもそも進化し続けるデバイスを活用するための通信環境などのインフラが、まだ十分に整っていないことに気付きました。センサーやAIがデバイスにつながるだけでは“点”にすぎず、カテゴリーに昇華すると“塊”になるものの、このままでは全てをコネクテッド化することはできません。多くの人に普及するためには環境構築が不足している、そんな課題感を強く残したままCESを後にしました。

急速にビジネス化した5Gへの取り組み

MWC

そして訪れたMWC2016。そこで、昨年数える程度だった5G関連の展示が一気に増えているのを目の当たりにしました。昨年の時点で、今後数年で数百億台になるであろうIoTデバイスの収容のためには、キャパシティーが拡大する5Gが必要だという議論は出ていましたが、今年は急速にビジネス面に踏み込んだ取り組み、提案が目立っていました。特に、今まで4G(LTE)への投資に及び腰だった欧州の通信事業者がこぞって5Gへの取り組みやIoTソリューションをアピールしており、再成長へ確信を持っていることが読み取れました。

MWC
IoT時代に向けた5G&Edgeクラウドを展示していたボーダフォン
MWC
5Gで実現される超低遅延をアピールしていたドイツテレコム

先進国においては、モバイルのハンドセット(携帯電話やスマートフォン等の人が手に持つモバイルデバイス)の人口普及率は100%を超えているところがほとんどで、ARPU(通信事業者の1契約当たりの売り上げ)の伸びしろの限界が見えています。つまり、メーンの事業領域であるハンドセット市場における収益成長はほぼ上限まで来ているということになります。となると、事業判断としては必然的に追加投資は控えめにし、現状の設備、サービスで行けるところまで行くとなるはずです。しかし、多くの通信事業者が次世代規格や、ハンドセット以外のIoTデバイス向けのソリューションへ積極的に取り組み始めたことは、この領域が明らかに新しい収益を生むという彼らの確信を示しています。世界はIoT環境を構築するために動き出していました。

MWC2016で見えたのは、ハンドセットと一体で速度を中心に進化してきた通信から、各IoTデバイス、サービス(アプリケーション)に個別最適化した進化に変わらざる得ない状況に入ったということです。そこに向けて欧州の通信事業者含め、多くの通信関連企業が取り組みを始めたことが、通信業界に携わるものとして非常に興味深く、わくわくする気持ちをかきたてられました。

MWC

では、このサービスごとに通信仕様を最適化する、つまり通信がIoT環境へ最適化していくということはどういうことなのでしょうか?
後編では具体例を通じ解説します。