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【続】ろーかる・ぐるぐるNo.80

その計画ではイノベーションを起こせません

2016/04/14


おかげさまで拙著『コンセプトのつくり方』の重版が決定しました!!心より御礼申し上げます。

 

ほぼ30年ぶりで、高校時代お世話になったS先生にお目にかかりました。「働き盛りのとき、喝」をテーマに、80歳を超えてなお、かくしゃくと深くしっかりしたお声で、お話しくださいました。

先生は現役時代(…と言っても78歳まで教壇にお立ちになったそうですが!)夜明け前に目を覚まし、ネクタイを締めてからその日使うプリントを1枚1枚手書きで準備なさったそうです。個性あふれる書体に影響を受ける生徒も多く、参加者の1人は長年大切に保存した当時の配布物をその会に持って来ていました。どちらかといえば口の悪いS先生のことを、驚くほど多くの教え子が慕い続けているのは、心の込もったご準備の数々を感じ取っていたからに違いありません。
久々に背筋の伸びる、素晴らしい時間でした。

ところで「画期的な新商品」をつくろうとするとき、皆さんはどのような作業計画(フロー)を描きますか? 実は多くのプロジェクトが、このタイミングで、もうイノベーションを期待できない状態に陥ってしまっています。何事も最初の準備が肝心です。

たとえば画期的な「スイーツ商品」をつくろうとするとき。「とりあえず調査をしよう」となるのが一般的でしょう。予算を掛け、数値データを集めたりインタビューをして「生活者の声」に耳を傾けるのです。

それを分析していると、たとえば「理想のスイーツ」と現行商品のイメージギャップが明らかになったりします。データに基いて、いわゆる「課題」の設定をします。
こうやって導かれた課題を解決するために設定されるのが「コンセプト」であり、そのコンセプトに従って「具体策」をつくっていくという流れです。
いかがでしょう? 実際にこう言う進め方でプロジェクトを計画していませんか?

このロジカルなアプローチの最大の長所は管理のしやすさにあります。常に調査に裏打ちされた「正しい」判断ができるので、たとえば上司との合意形成も容易です。一方、大きな難点は「新しい視点」が生まれにくいことにあります。ヘンリー・フォードの「もし顧客に彼らの望むものを聞いたら、彼らは『もっと速い馬が欲しい』と答えていただろう」という言葉を引くまでもなく、調査が示すのは、いつも決まって「過去」です。「いま」から「未来」を予見するためには、数値データのような客観的な情報だけでなく、「いま」ココにあって感じる身体的な感覚までをも活用しなければなりません。しかし、多くの人が「調査・分析→課題抽出→コンセプト策定→具体策の開発」というアプローチ以外の方法論を持っていないからでしょう。「これだとイノベーションは起こせないな」と薄々分かっていながら、きょうも同じやり方が繰り返されています。

ぐるぐる思考 四つのモード

もし今までにない商品をつくりたいなら、最初のステップは数値データもうわさ話も、正しいかどうか価値判断することなく「とりあえず、ふむふむ」と身体に取り込むことです(感じるモード)。その上で、どうしたらホンネで欲しいものになるか、つくりながら考えます(散らかすモード)。そうすると「なんかいいぞ!」「これならイケるかも」が見つかります。その時に、その「なんかいい」の正体を言葉(コンセプト)で捕まえるのが発見!モード。そこから具体策をつくるのが磨くモードです。

ちょっと前にはやった言葉で言えば「エスノグラフィー」が感じるモード、「ラピッドプロトタイピング」が散らかすモードに当てはまります。それらは身体的な感覚を思考に活用する重要な手段なのですが、その後にきちんとコンセプトで整理する段取りを踏まないと、開発の現場は暗闇の中で無限の試行錯誤を続ける羽目になってしまいます。
「画期的な新商品」を開発するために、ぜひ、ぐるぐる思考で開発プロセスを準備してみてください。

さて、4月といえば新学期。今年も明治学院大学での講義がスタートしました。どんな出会いがあるか楽しみで仕方がありません。でも学生さんの気持ちを動かすためにはS先生のような入念な準備が必要かと思うと…う~ん、気が遠くなるのでありました!

どうぞ、召し上がれ!