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【続】ろーかる・ぐるぐるNo.79

尾崎牛、食べました?

2016/03/31

ニシンの切り込み

春告魚といえばニシン。獲れたてのお刺身を食べたくて、先週末は札幌&小樽へ。ところがとある寿司屋の大将いわく「もう終わっちゃいましたよ」。かつては3月が盛りだったこの魚も、温暖化の影響なのでしょうか、漁期が2月になっちゃったそうです。代わりにお土産として切り込み(麹漬け)と糠漬けを入手したのですが、わが家の庭の草花(咲く順番もタイミングも滅茶苦茶でした)にせよ、魚にせよ、今年の春はどうもチグハグです。

おかげさまでアマゾンの【商品開発】カテゴリーで1位にもなりました拙著『コンセプトのつくり方』は、このコラム同様食べものの話だらけです。ビジネスの議論になると、ついつい脳みそで正しいかどうか判断したくなっちゃうものですが、食べもののことなら「うまそう!」とか「まずそう!」とか、比較的素直に身体的な感覚を持つことができるからです。

この本には、世界を席巻している「尾崎牛」も登場します。今回はそのお話を詳しくするつもりだったのですが、先日取材を受けた朝日新聞出版のニュース・情報サイト「dot.」に「和牛ステーキが1000ドル!? 「尾崎牛」がニューヨークで支持される理由」が掲載されてしまったので(これもチグハグ、すいません!)、今回はちょっと角度を変えて「尾崎牛の強さ」を考えてみようと思います。

イノベーションの3要素

電通はイノベーションをつくり出す要素を3つに絞っています。それは「その手があったか」と言われるアイデア、「そこまでやるか」と言われる技術、「そんなことまで」という企業家精神です。ここでいうアイデアとは、この連載の「コンセプト」と同じものだと考えて差し支えないでしょう。

さて、今日考えてみたいのは尾崎牛を育てる尾崎宗春さんの企業家精神についてです。

SNSで日常を拝見していると、ある時はすき焼きで、ある時は焼き肉で、ある時はハンバーガーで、まさに毎日、尾崎さんは尾崎牛を召し上がっています。実際、ぼくが初めてお目にかかった時も尾崎牛のしゃぶしゃぶでした。他にも和牛農家の知り合いはいますが「これだけ自分の育てたお肉を食べている畜産家はいないですよ。ワハハハ」という尾崎さんの言葉には思わずうなずいてしまいます。

なぜ、そうしているのか? その理由はシンプルです。「ぼくは自分の食べたい牛肉をつくっているの。次に家族、社員、そして友人。最後に消費者の方々。自分が感動していないのに、人を感動させる事はできないでしょ? ワハハハ」。毎日自分が食べたくなる肉質を追求した結果、胃もたれしない脂質であっさりしてるけど旨味バツグンな和牛が出来あがったそうです。

尾崎牛と尾崎さん

こう書くと何でもないような気がしますが、尾崎さんは30年前、和牛畜産を始めた時から「霜降り全盛」の世の中を顧みず、ひたすら自分の信じる道を進んで来ました。それが出来た背景には師匠・黒木法晴さんから受け継いだ「世界の和牛」というビジョンもあったでしょう(このビジョンについてはドットの記事に紹介されています)。独自の肉づくりに共感する仲間の存在もあったでしょう(実際、海外での流通網は尾崎さんとその仲間が独自に開発したものです)。しかしその中核は不屈の企業家精神だったはずです。

今回の取材で「和牛熱心家」という言葉を知りましたが、尾崎さんはまさにそれです。「ぼくはひとりでやるのがツラくないタイプだから。ワハハハ」と笑っていらっしゃいますが、「この手があったか!」を実現するためには孤独に耐える厳しい覚悟が欠かせません。正直、以前は「クールジャパンの波に乗っかって、運よく成功したんだろう」くらいに思っていたのですが、知れば知るほど、そんな生やさしいものではありませんでした。

尾崎牛の十字フレーム
 

『コンセプトのつくり方』の中では尾崎牛をこのように整理しています。そんなことより食べてみたいって方は、通販でも取り寄せられますよ(笑)。

どうぞ、召し上がれ!