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Experience Driven ShowcaseNo.66

マンガを広告で生かす!:かっぴー(後編)

2016/05/24

「会いたい人に、会いに行く!」第7弾は、「なつやすみ」のかっぴーさんに、電通イベント&スペース・デザイン局の西牟田悠さんが会いました。「フェイスブックポリス」など、たまたま書いたウェブマンガが次々と話題を生み、大注目されているかっぴーさん。ついに面白法人カヤックから独立し、漫画家として会社「なつやすみ」を立ち上げました。西牟田さんは、自らの空間開発やイベントの企画でも協働したいと思い、今回語り合うことになりました。

取材構成:金原亜紀 電通イベント&スペース・デザイン局
(左より)かっぴー氏、西牟田氏

 

マスとソーシャルは、分けて考える

西牟田:ある種マスとソーシャルを行き来する形がスタイルだけど、マスはマスで分けて考えていますか。

かっぴー:目的が全然違うから、やっぱり分けていますね。今後はとにかく映像化したいんですよ、何かしら。アニメでも、ドラマでも、映画でもいいけど。メジャーなものに対して無視しちゃいけないと思っていて、最近メジャーなマンガばっか買って読んでいる。じゃあメジャーって何かというと、映像化は欠かせないんですよね。

ウェブ有名人の「あるある」ですけど、全然有名じゃないんですよ。特に、僕のことなんか、世の中の人は誰も知らない。だから、チヤホヤして来ない人達となるべく会うようにしていて、例えば美容院のお兄さんに「マンガ、何を読んでいますか?」と聞くんです。ウェブマンガで、これは知っているかなと思う上位10位を言っても、唯一知っていたのが「ワンパンマン」だったり。それが普通なんです。「かっぴー」なんて知るわけない(笑)。アニメ化されたり、ドラマ化されて、やっとギリ知っている人がいるぐらいだと思う。

西牟田:アウトプットとしてマンガを描くというところに落ちなくても、僕はかっぴーの物事のとらえ方の視点に面白さを感じているので、そこにプラス広告的なものとかをうまく使って、何か一緒に仕事をやれるといいなと思っています。

 

人から頼まれることが、向いている仕事

かっぴー:最近は、ちょっとだけマンガからはみ出た仕事がぽろぽろ増え始めました。ネーミング開発の仕事や、マンガじゃなくデザインとして絵を描いてほしいという話が来たり。臨機応変にやろうと思ってます。

学生時代に東北新社の中島信也さんに、「僕は普通の人間なのでぶっ飛んだものがつくれない、とがってないから向いている仕事がわからない」と相談して、「人から頼まれることが向いている仕事だよ」と言われた。飲み会の幹事をよく頼まれる人はそういうことに向いているし、飲み会で会計を集める係はそういうのが向いている、ふだん何を求められているかというのが向いている仕事だよとおっしゃっていたのが心に残っていて。

どれだけ人に知ってもらえるメジャーなものをつくるか。ネットで一番有名なマンガは、「ジャンプ」で一番無名なマンガより負けていると思っている。だから、たくさん見てもらえる方法は引き続きチャレンジしていきたいです。広告マンガを描いてくださいというオーダーは絶えずあるので、それは結構世の中にハマったのかなとは思っています。

西牟田:僕がやっているイベントやスペース開発領域でも、展示会の説明のグラフィックって、普通にやると実は誰も見ないものになってしまうおそれがあって。

情報を、どう分かりやすく、伝わりやすくするか、そこがデザインだと思うんですけど、そこに漫画家の知見とかを入れていくと、結構面白いなとか思っています。

絵と展開で、お話をつくっていくように、「これを説明してください」という話を、どう伝わりやすくまとめていくか。そんな風に、漫画家に情報のデザインの構成を考えてもらうのもありかな、なんて思ったりもしています。

説明が読み物プラス、イラストも含めた魅力的なコンテンツになる。ライトコンテンツみたいなものを手法として使っていくと、空間開発も結構いろんな広がりが出たりするなと。

かっぴー:そうですね、本当に。

西牟田:グラフとかも普通にエクセルっぽいのよりは、インフォグラフィックス的なの含めて、ちょっとマンガっぽくなるとか。空間って、表現がマジになりがちじゃない?

かっぴー:マジになりがちですよね。

西牟田:ちょっと違った角度で情報をとらえる視点が入ると、すごく引きつけられるものになる可能性があると思う。あと、僕らはリアルの体験価値について言うときに、ソーシャル含め世の中に拡散する手前の、深い実体験をつくっていくんだと言っているけど、リアルだからこそライトになれる部分とかもあったりする。

気軽に買えなかったり、試す機会自体がないものを、リアルの場で気軽にタッチ&トライできるみたいな捉え方をする、ライトコンテンツとしてのリアルなあり方も結構あるかなと思っています。

 

受け手の心の状態を、どうデザインするか

かっぴー:そういう意味だと、最初に言ったように、心の状態をどうデザインするかの話ですよね、見ている人の。ライト、軽い気持ちのほうが広告とか情報を受け入れやすいんじゃないかということ。僕が描いている広告マンガって、納品物はあくまで「企画」だと思っています。

僕が描かずに作画を立てるとか、僕が絵コンテを考えてCMにしましょうとか、「企画」は料理の仕方によって全然違うものを提供できる可能性がある。どうしたって、あの絵が合わないというクライアントもいると思うから。だったら絵を変えればいいし、「今回は動画が欲しいんだよね」と言われたら動画にすればいいし、応用は利かせますよ。

西牟田:ちゃんと戦略を持って、いろいろ考えながらやっているんだね。

かっぴー:東急エージェンシーに入った頃は、いつか広告プランナーとして独立しようと思っていた。でも、プランナーとして独立するのはめちゃくちゃハードル高いなと思い知った。僕が「漫画家」って名乗り始めたのは最近だけど、照れと謙遜といろんな感情がまじって、最初は漫画家って言いづらかった。でも、「漫画家」ってちゃんと言わないとだめだなと思ったのは、納品物が想像できない肩書って仕事を出しにくいんだなと気づいたから。

プランナーって何してくれるの?どこから金払えばいいの?、ちょっと話聞いただけでも金取るの?みたいな感じがあるでしょ、何か正体がよくわからないというか。「漫画家」と名乗ったら、じゃあマンガという形で企画を納品してくれるんだな、と分かりやすいですよね。「いや、CMも実はできるんですよ」とか、「作画つければ、原作者としてもできるんですよ」とか、可能性を残したいがために肩書を変に凝るんだったら、もう「漫画家」と言い切ったほうがいいかなと。

西牟田:立ち位置をはっきり決めたほうが、頼みやすいよね。

かっぴー:一回ちゃんと名乗らなきゃだめだなと思って。

西牟田:今後「なつやすみ」として挑戦したいことを教えてください。今更ですが、会社名は、なぜ「なつやすみ」なんですか。

かっぴー:東急エージェンシーのときも、カヤックのときも、本当はこうしたほうがいいと思うんだけど、クライアントが直せと言うから直さなきゃとか、これ提案したいけど多分通らないとか、「仕事だから」と過剰に意識しているうちに、何にもつくれなくなっていたんです。だから、もう仕事をしないというのをコンセプトに、あくまで本当に楽しんで物をつくるだけに集中したいというので、「なつやすみ」という名前にしました。
だから、「仕事だからしようがねえな」ってちょっとでも思ったら、なつやすみじゃないから、やめようと思っています。

西牟田:最初に聞いたときに、「めっちゃいい名前だな」って思いました! 社訓は何でしたっけ?

かっぴー:社訓は、「忙しく、遊ぶ。」です(笑)。

西牟田:すばらしいです! 今までも飲みに行ったり会話はしてたけど、こんなに深く話をしたのは初めてだったね。広告の場合は、受け手の心の状態が違うという話は、本当にそうだと思ったし、そういうものにうまくハマるマンガって確かになかった。すごく可能性を感じました。
ありがとうございました。

<了>