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AI革命の「大分岐」で広告業界が動く~人を動かす次世代エージェントNo.2

もう始まっている!AI革命の「大分岐」とは?

2016/06/20

前回はクリステンセン氏の「イノベーションのジレンマ」をもとに、広告業界にチャンスがあることを述べましたが、第2回は「マクロ(経済と産業)⇒ミクロ(サービスイメージ)」で構成される本連載のうち、一番大きな枠組みである「マクロ経済」の観点からAIを捉えます。一体、「大分岐」とは何でしょうか?

産業革命とテクノロジー~汎用目的技術(GPT)としてのAI

駒沢大学の井上智洋氏によると産業革命は汎用目的技術(GPT = General Purpose Technology)によって引き起こされるとしている。GPTとは「あらゆる産業に影響を及ぼし、また補完的な発明を連鎖的に生じさせる技術」で、第1次産業革命(1770~1830年)のGPTは蒸気機関、第2次産業革命(1865~1900年)は内燃機関と電気モータがGPTである。ケネス・ポメランツ氏によると、1800年前後でGPTを採用して工業中心に転換した欧米及び日本と、採用しなかったそれ以外の国で「大分岐」(※5)が起こった【図1】。

【図1】産業革命(第1~2次産業革命)による「大分岐」 (出典:グレゴリー・クラーク氏の図に筆者加筆)
【図1】産業革命(第1~2次産業革命)による「大分岐」(出典:グレゴリー・クラーク氏の図に筆者加筆)

製造業はGPTによって効率化が進み生産性が向上した(第1~2次産業革命)が、頭脳労働を含むサービス業は、生産性の向上が限定的だった。それが1990年代からのコンピュータの発達によって徐々にサービス業が効率化しはじめていて(例:銀行の窓口係がATMに変化)、AIがそれを加速する(例:銀行のオペレータが自然言語の対話システムになる)とみられている。つまり、AIがなぜ重要かというと蒸気機関や電気モータは人間の「肉体労働」を肩代わりするものだったが、AIは人間の「頭脳労働」を肩代わりするものだからである。「定型化されたサービス業」が最もAIによって効率化されやすく、米国ではすでにパラリーガル(弁護士補助業務)のAIによる代替が進んでいることはよく知られている。なお、1900年代後半からのITによる業務効率化を「第3次産業革命」、現在から未来にかけて予想されるAIによる産業へのインパクトを「第4次産業革命」と呼ぶことがある。例えば、ドイツ政府は2011年頃より「Industry4.0」を掲げて、AIとIoT技術を活用した仕組みであるCPS(Cyber-Physical System、第6回で解説予定)を軸にしたスマート工場での製造業の実現を目指しており、本年1月の世界経済フォーラムの年次総会(ダボス会議)ではCPSが実現する第4次産業革命【図2】への対応がテーマとなった(なお、筆者は第1~2次が新エネルギーの革命であったことから、第3~4次が「真の」産業革命となるためには、やはり新エネルギーとテクノロジーがセットになる必要があるのではないか、と考えています)。

【図2】産業革命と技術(GPT) (出典:「世界経済フォーラム」のクラウス・シュワブ氏の図を参考に筆者作成)

【図2】産業革命と技術(GPT)(出典:「世界経済フォーラム」のクラウス・シュワブ氏の図を参考に筆者作成)

第2の大分岐~すでに始まっている大きな分かれ道

人間を介さずに機械による自動化と学習のみによって生産性が向上する経済を、井上氏は「AK型生産経済」と呼んでいる。その生産関数が「Y=AK」で示されるからで、Yは生産量(GDP)、Aは技術水準、Kは資本(機械への投資など)を表している。現在の日本など「大分岐」以降の先進国の経済成長モデルの生産関数は「コブ=ダグラス型」と呼ばれていて「Y=AKαL(1-α)」(Lは人間による労働)で表される。数式をここで深く理解する必要はないが、ポイントとしてはAIが推し進めるAK型生産関数にはコブ=ダグラス型にあった「L(労働)がない」こと、つまり「経済成長が労働不在で成立してしまう」ことである。コブ=ダグラス型生産経済では、経済成長率は技術進歩率(g)とほぼ等しくなり、実際に欧米と日本は平均すると毎年1~2%程度の経済成長率を維持してきた。しかし驚くことにAK型生産経済では、その2%という「成長率の数字自体」が指数関数的に成長する可能性が指摘されている。つまり、毎年平均2%ずつの成長をしてきたのが「AI革命」による機械の自律的な学習と生産活動の自動化によって1年目は2%、2年目は4%、3年目は8%の成長率となるような想像もつかない世界が、理論上では出現する可能性があるのだ【図3】(ただし次回詳述しますが、技術進歩に応じた需要がないと経済成長は実現しないため「需要自体を創りだす役割を広告業界が担うべきではないか」というのが本論の主張です)。

図3】AI革命(第4次産業革命)による「第2の大分岐」(出典:井上智洋氏の図に筆者加筆)
【図3】AI革命(第4次産業革命)による「第2の大分岐」(出典:井上智洋氏の図に筆者加筆)

井上氏は、かつての産業革命の事例から「GPTとしてのAIをいち早く導入した国々(組織)が経済面で世界を圧倒して他の国々(組織)は置いていかれる」として、この現象を「第2の大分岐」と呼んでいる(ただし、2030年くらいまではコブ=ダグラス型とAK型生産経済が混合状態になるといいます)。現実的に、AI領域に巨額の投資を行っているGoogle、Facebook、Apple、Amazon等の限られたプレイヤーたちのグローバル規模での急成長をみると、すでに「第2の大分岐」が起こりつつあることは実感できるのではないだろうか。Singularity Universityのサリム・イスマイル氏はこのような企業をExponential Organizations(指数関数的組織)(※6)と呼んでいる。現在の広告業界が成熟したサービス業だとすると、AIの影響を最も受けやすいことになり、いち早くAIのテクノロジーを導入するか否かが今後の成長の大きな別れ道(大分岐)になるだろう。

※5:ケネス・ポメランツ(川北稔訳)『大分岐―中国、ヨーロッパ、そして近代世界経済の形成』(名古屋大学出版会,2015)
※6: Salim Ismail, Exponential Organizations (Diversion Books,2014)