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アクティブラーニング こんなのどうだろうNo.19

正解がないテスト
クリエーティブテストのヒミツ(後編)

2016/06/28

前編に続き、今回のテーマは「CR(クリエ­ーティブ)テスト」です。電通が社員教育のために30年以上行ってきたこのテストは、電通社内でのクリエーター発掘にも貢献してきました。CRテストならではの「ちょっと変わった問題」は多くの受験者の記憶に深く残されています。CRテストとアクティブラーニングの関係を探りながら「答えのない質問」の大切さを探ります。

大熊雅士先生と長年CRテストに携わってきた電通・伊藤美也子氏、加藤遊氏がCRテストとアクティブラーニングについて語り合います。ファシリテーターは「アクティブラーニングこんなのどうだろう研究所」研究員のキリーロバ・ナージャ氏が行いました。

左からブレイブ室長・大熊氏、電通・キリーロバ氏、伊藤氏、加藤氏
 
 

日本だと0点、カナダだと100点

ナージャ:海外の学校には、正解がない問題があったりするんですよ。例えば、カナダで時計をつくる授業があったんです。どういう時計をつくるのかは自分で決めるんですね。簡単なものでも、すごく複雑なものでもいい。先生は、どれだけ難しいものにチャレンジしたのかという難易度と、それが実際どのくらい予定通りにつくれたのかという完成度の両方を評価します。

難しいモノをつくろうとして、つくれなかったらダメだし、簡単なモノだったら、いくら完成度が高くても高得点はもらえない。

大切なのは、自分の実力とアイデアのバランスを保ちながらいいモノをつくること。でも、どういう時計をつくるのかは、何も決まっていないので、これも正解がないんですね。

大熊:難しい技に挑戦して、どのくらいできたかを見る。フィギュアスケートの採点と同じですね。

ナージャ:フランスの学校で私がいた外国人クラスだと、ただ課題に王道に答えるだけでは、なかなか満点は取れませんでした。生徒は、「先生が期待している正解を探す」んじゃなくて、どうすれば先生は驚くか、こうきたかと思うかを探るんです。作文の課題なのに絵を描いてきたり。

伊藤:「先生驚愕点」みたいなものがある。面白いですね。

ナージャ:どうしたら「他人と違うアイデア」が出るのかを真剣に考えるようになります。

私もカナダであったエッセーのコンクールに、英語がまだあんまりできないときに応募したことがあります。これは正攻法でいったら英語ネーティブの人たちに勝てないと思ったので、詩を書いて応募してみたんです。そうしたら信じられないことに優勝しました。

これ、多分日本でやったら0点だったと思います。だって「エッセー」とあるのに「詩」を出すのは日本的には反則でしょう。カナダでは100点、日本では0点。評価者の「変化球」に対する評価の考え方に違いがありますね。

大熊:どうして日本ではそれができないのか。それをやると先生が不安になっちゃうからだと思います。

ナージャ:私はエッセーの応募に出した詩を評価してもらって「そういうことでいいんだ」って思えて、とても自信になりました。

加藤:答えの幅がいろいろあるということを肯定できるというのは大きいですね。こういう問題は、まずは先生が幅を広げてみられることが大事ですね。

大熊:うーん。そうですね。未来を創造する力を付けるためには、先生方が、自分の物差しを超えた子どもの発想に対して「その手があったか!」って認めることができるかどうかにかかっていると思います。それができないと教育改革にはならないのです。

ナージャ:学校を出た後に、人生には決まった正解がないですよね。その中で人は自分で見付けたベストを尽くして生きていくわけですから、そういう経験を子どものころから増やしていくのが大切だと思います。

評価は、広告のプロが時間をかけて行う

大熊:解答は電通の社内でどうやって評価をしているのですか。そこはぜひとも聞きたいなあ。

伊藤:百何十人分の解答を全部読むって、大変な作業なんですよ。実際に評価をしているのは現役のコピーライターやクリエーティブディレクターです。

大熊:どういう解答をしたら、評価が高くなるのでしょうか。

伊藤:やはり、採点者が「あっ、これはやられたな」と素直に思うものの評価は高くなりますね。「その手があったか」「こうきたか」とうなるようなものですね。あとは「今の若者はこういう考えなのか」と発見があったりするものもいいと思います。

いいものはみんながいいと思うのですぐに決まります。評価が分かれるものについては議論しますね。それで「この解答者はいい」って力説する人が出てきたら「じゃあ、あなたの局で育ててみる?」となったり(笑)。

アイデア100連発は、後半の解答が面白い

ナージャ:私も若い人の解答を見る機会があったのですが、採点するときには、アイデアの出る幅の広さみたいなものを大切にしているようです。発想が広くて、いろんな答えが出てくる人は伸びるという判断ですね。学校ではそういうことを評価するシステムはあるのですか。

大熊:僕の知っている範囲では、学校の先生は自分の物差しを持っていて、それにどれだけ近づくことができるのかで生徒を評価しています。

加藤:まずは、先生が変わらないとですね。

大熊:いやー、そうなんだけど、どうしよう。

加藤:生徒がとんでもないことを言っても、きちんと受け止めて評価してあげないと。いろんな尺度の解答を生徒が出してきたときのために、先生の許容量を増やしていかないとなりませんね。

伊藤:新入社員に「アイデア100連発」というトレーニングをやります。例えば「ゼムクリップの使い方をできるだけたくさん考えてください」という問題。最初は3分間でできるだけたくさん考えてもらう。次に5分でやり、一番多く考えた人に発表してもらう。こういうことをやると、最初は内容の質とか考えているのが、考える幅の広さ勝負になってくるんです。

ナージャ:100案とか考えると、最初に理性で考えたものより、後半の80個目くらいで、もう何でもいいって書いたのが面白かったりしますね。

大熊:ちょっと待ってください。これは大変なことですよ。今の学校では、「輪ゴム」のような問題でも、一番いいのを一つだけ考えさせようとしているんです。一つ考えられたらもう一つ考えようというのが精いっぱいです。

ですから「100個考えて後半に面白いのが出てくる」という文化がないのです。「考える幅の広さ」をどうやって教師が身に付けるかが大きな問題だと思いました。

アクティブラーニングを考えるときには、ブレーンストーミングのように、「数多く考えさせる」「多様な価値観を認めていく」ってことが本当に必要なんですね。そのためには、これまでの学校の文化を変えなくてはならないかもしれません。

ナージャ:私たちにとってCRテストの最大の魅力は、テストの解答としていろんな答えを出して、その価値観を認めてもらえるところなんです。

伊藤:学校教育の大部分は知識を増やし論理的な思考を育てる、つまり左脳を鍛えることですけど、右脳の力も大切ですね。ドーンと思考がジャンプするときにいいクリエーティブができるといわれていて、そういう部分も育てていかれればいいですね。

ナージャ:アクティブラーニング研究所では、「変な宿題」というものを大学や企業で試しています。内容的にはほとんどCRテストと同じですが「こんなに変なことを考えてもよかったんだ」といった反応を頂きます。大人でも子どもでも同じように、ワクワクさせるものがCRテストにはあるんですね。

大熊:CRテストの、人をワクワクさせる考え方のノウハウが広まれば、学校教育に新しい風を吹かせることができるかもしれません。

ナージャ:子どもにも先生にも早く気付いてほしいですね。「こんな変なこと考えてもいいんだ」って喜び。まずは学校の先生に、この楽しさと可能性を知ってもらうことから始められたらいいですね。