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現地直送!カンヌPR部門をレポートしてみたNo.1

電通のプランナーがカンヌ2016PR受賞作を紹介します

2016/06/24

こんにちは、第2CRプランニング局・PRプランニングセンター兼務の見市沖といいます。テレビCMの企画を軸に、PR視点での統合プランニングをしています。
広告が効きにくいケースが増えてきた今「どう伝えるか?」より「どう人を動かすか?」が課題になってきています。そのために、メディアや友人など影響力のある第三者の発話をどう誘発し、どのように新たな合意形成をつくっていくか? というPR視点でのソリューションの重要性はだんだんと増しているように感じます。
というわけで、ただいまカンヌライオンズの真っ最中ですが、この連載ではPR部門の様子を少し掘り下げてレポートできればと思います。前編では今年の受賞作を、僕なりの切り口に分けてご紹介。そして後編ではなんと、今年のPR部門審査員、博報堂ケトルの橋田和明さんへのインタビューをお届けします! 現地からのできたてほやほやレポート、お楽しみください。

カンヌライオンズ2016

シーズナル

バレンタインデー、クリスマス、母の日、などシーズナルな記念日ってありますよね。その記念日に対する社会の共通感覚を、うまく利用したキャンペーンが目立っていました。PRの王道です。

Pocket Money Equal Future(ゴールド受賞)
こちらは、オーストラリアの銀行が、国際女性デーを起点に公開した実験ムービーです。男の子と女の子をペアにして、家や車の掃除など簡単なお手伝いをしてもらった上でご褒美として、お小遣いを渡します。ただし、社会の賃金格差を象徴するかのように、女の子には男の子よりも少ない金額を渡すのです。そのとき出てきた子どもたちのリアクションをおさえたこのムービーは大きな議論を起こし、キャンペーンハッシュタグの#equalfutureはトレンド入りをしました。お金を扱う企業としての社会への提言が功を奏し、ブランドに大きく寄与したようです。

#OptOutside(シルバー受賞)
クライアントは、アメリカのアウトドア用品店REI。アメリカ最大のお買い物の日、ブラックフライデーに、なんと全店休業するというキャンペーンです。「アウトドア用品店としては、いい商品を買っていただくことはもちろん大切だが、それ以上に、多くの人にアウトドアを体験してほしい。社員にもアウトドアに行かせたい」という、企業としての強いメッセージが込められたアクションでした。

このアクションによるSNSインプレッションは12億。ハッシュタグ#OptOutsideは140万人が参加しました。ブラックフライデーに休業した分の売り上げを、このキャンペーンで補完できたのかは明言されていませんでしたが、数あるアウトドア用品店の中から、なんかREIっていいよね、REIで買いたいよね、という気分づくりには成功したのではないでしょうか。

強いファクトづくり

The Organic Effect(グランプリ受賞)
スウェーデンのスーパーCOOPが行った、調査PRキャンペーン。高くて手が出しにくいと思われているオーガニックフードへの意向を高めるために、オーガニックフードを食べ続けることで体にどんな変化が起こるのか? を一つの家族で実験。安くてノンオーガニックな食べ物に慣れていたその家族は、実験前の検査で、体内の殺虫剤レベルがとても高かったのですが、オーガニックフードのみを食べ続けた2週間後、もう一度検査をしてみると、なんと殺虫剤レベルがほぼ0になりました。一連の流れをおさえたバイラルムービーは、SNSで大きく広がり、3500万再生を達成。オーガニックフードに対する社会の意見は確かな変化を示し、COOPの売り上げも大きく伸長しました。

The Swedish Number(ゴールド受賞)
こちらは、PR部門以外にもたくさん受賞しています。スウェーデンの旅行協会が、世界中の人にもっとスウェーデンに興味を持ってもらおう! ということで実施した施策。アイデアはいたってシンプルです。世界ではじめて「国の電話番号」をつくりました。スウェーデンについて何か聞きたいことがあれば、その電話番号にかけると、ランダムにこのキャンペーンに登録している国民の誰かにつながり、どんな質問でも親切に答えてくれます。国民参加のこのキャンペーン、世界178カ国から13万件ほどの電話がかかってきたそうです。首相が参加した、という点も大きくバイラルする要因になっていたと思います。

ルールを逆手にとる

Manboobs(ゴールド受賞)
アルゼンチンの乳がん予防啓発をしている組織MACMAからの応募作。ロジックは明快です。多くの若い女性に、指を使ったセルフチェックのやり方を啓発しなければならない。彼女らは常にスマホでSNSに接触している。しかし、SNSでは女性がおっぱいを見せるような映像が検閲され禁止されている。そこで、MACMAがつくったのが、太った男性のおっぱいでセルフチェックのハウツーを紹介するムービーでした。驚異の4000万再生を達成、社会のルールを逆手にとることで大きな話題につながりました。

意外な組み合わせ

SL Benfica Safety Demonstration(ゴールド受賞)
ポルトガルのサッカーチーム、SLベンフィカのスポンサーであるエミレーツは、ブランドロゴをユニホームに載せる以上のアクションを起こしたかった。そこで行ったのが、フライトアテンダントによる試合前のパフォーマンスでした。機内放送風のナレーションと、彼女たちのジェスチャーで、観客に向けて、安全に試合を鑑賞するためのレクチャーをしました。これが会場で大ウケ、テレビやオンラインメディアに多く取り上げられたそうです。スタジアムの芝生にフライトアテンダント、という意外な組み合わせの絵作りが強かったのだと思います。スポンサーワークにとても参考になる仕事ですね。

別の理由をつくる

Edible Six Pack Rings(ゴールド受賞)
こちらは、その商品の価値を伝える、のではなく、その商品を選ぶ「新しい理由」をつくった仕事です。フロリダの海辺の小さなビールブランドSaltwaterは、ターゲットであるサーファー、フィッシャーマン、海を愛する人々へ、ローコストでキャンペーンを打つ必要がありました。彼らがとった方法は、缶ビールを束ねるプラスチックリングを、海の生き物が食べられる素材に変える、というものでした。ビールの醸造プロセスで生まれる副産物でつくったそうです。このアクションは、ペイドのメディア投下は皆無にもかかわらず、1億以上のSNSインプレッションをたたき出し、一躍Saltwaterの名がアメリカ中に知れわたりました。

BEHAVIOR CHANGE

手法別で見る、五つの切り口いかがでしたでしょうか。授賞式では、審査委員長のジョン・クリントン氏が“Behavior Change”を強調していました。パブリシティーの獲得に満足するのではなく、ビッグアイデアから生まれたPRコンテンツが、いかに世の中の議論を起こし、新たな行動を引き起こすに至ったか。どの仕事も、そんな視点で選ばれたのだと思います。日本からは、10分どん兵衛と、OPEN ROAD PROJECTが見事ブロンズを受賞していました。また数年前から語られている「ソーシャルグッド」については、社会の合意形成を目的とするPR部門においては、もはや当たり前という様相でもありました。

スケールも、社会が抱えている文脈も、日本とは大きく違う仕事が多いカンヌですが、こうして手法の切り口別に見ていくと、僕らの普段の仕事にも生かせそうな感じがしてきます。後編では、審査会でどんな議論がされたのか、日本の仕事は世界でどう評価されたのか、PR部門審査員、橋田さんへのインタビューをお届けします!