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カンクリ通信No.8

我田引水!エゴ広告のすゝめ(後編)

2016/07/14

前編に続き、第49回「やってみなはれ佐治敬三賞」を受賞した、電通関西支社のアートディレクター・藤井亮に、先輩・日下慶太が迫ります。

本文中にはいっさい登場しませんが、この記事は関西CR・福居亜耶が執筆しました。
藤井さんと日下さん

パロディーの限界

日下:お次は、「造船番長」について聞きたいねんけど、これ、すごく面白いやん。ただ、おもろいねんけどパロディーやん。そこ、誰かに言われることも多いでしょ。俺も「世界不潔遺産」(2008年TCC最高新人賞)のときに言われたりしたから。

藤井:ああ、言われますね。パロディーは当分、封印しとけ、みたいな。

日下:パロディーの正解っていうのは、ディテールを詰めていけば詰めていくほど面白くなるっていうところなんだけど。やっぱり、パロディーはパロディーでしかないやん。

藤井:でも、自分の好きなものを詰めた方がいい気がして。

日下:確かに、藤井の作品には、自分の好きなものを詰めている感じはあるよね。見てきた漫画とかね。

サノヤス・ヒシノ明昌/企業CM「造船番長」(2010)。カンヌ国際広告祭PR部門シルバー受賞(2010)。

藤井:でも、その自分の作風が幼稚だってことに、最近やっと気付きまして。自分の作品を見返しても、俺って相当幼稚やなと思って。なので、せめて身なりはちゃんとしないとあかんなとか。

日下:身なりは藤井の方が、俺よりはちゃんとしてるけどなあ。

藤井:日下さんがクレージーなところは見た目と行動で、ポスター展とか、地方創生とか、ちゃんとしたものを作るじゃないですか。

日下:それで言うとさ、藤井ってプライベートでそんなに面白いことを言ったり、人を笑かしたりってしないよねぇ(笑)。

藤井:全くしないですねぇ(笑)。

日下:なんでやろねえ、それは。藤井の作品見て、「どんな面白いやつが作ってるんやろ?」と思ったら、意外と普通、みたいな。

藤井:そうなんです。俺、めちゃくちゃ普通なんです。

日下:なんでやろね?

藤井:もともとクラスでも面白いタイプじゃなかったですし。

藤井が面白くないというよりも…

日下:ははは! でも、面白いものは好きやったんやんなあ? もちろん、武蔵美出身で東京やから、おしゃれな方向もあったわけやけど。

藤井:そういう、おしゃれなものを作るという欲はなかったですね。予備校に通っていたときに、一瞬かっこいいものを作りたいなと思ったくらいで。

日下:来るべくして関西に来たのかもしれへんね。

藤井:小学校のこととかも、自分が前面に出て「ウウェ〜イ!」とかいうタイプではなくて、ちょっと描いたものを誰かに見せて笑ってもらうのがうれしい、みたいな。

日下:それが藤井なんやろね。今もそれの延長なんやろね。じゃあ、パロディーの先とか、考える?

藤井:どうでしょう…やりきった先に、何かあるのかな、ということは考えますけど。

やりたいことをやる仕事術

日下:藤井は全部、自分のやりたいことにグイッと引っ張っていく感じがするなあ。オリエンの時に、どうやって自分のやりたい方向に企画を持っていくの? コツとかあんの?

藤井:自分のやりたいことのストックの中から、お題に近いものを持ってきて、それを少しずつ、すり合わせていく感じですね。そうすると、割とうまくいく気がします。

日下:仕事は全てそのやり方?

藤井:そういうやり方が多いですね。三戸ちゃんの時は特にそうでした。

三戸なつめ「前髪切りすぎた-落書き篇-」PV

三戸なつめ「前髪切りすぎた-落書き篇-」PV(2015)。監督・アニメーション・編集を藤井氏が手がけた。ACCイラストレーション賞受賞(2016)。

日下:普通はオリエンが来たら、それに対する最適解を見つけようとするじゃない。でも藤井はそうじゃなくて、いわば自分のフィールドに、強引に持ってきている感じがする。そういうやり方って、若手の励みというか、希望になるよね。「藤井さんみたいな仕事の仕方もあるんだ!」って。どうしたらいいか教えてあげてよ、そこのところ。

藤井:まあ、多少、強引だと言われても、無理やり持ってくるしかないんじゃないでしょうか。自分で演出してくれとも、アニメを描いてくれとも、特に誰にも頼まれてはいないので、手を動かしてるときって「なんで俺、こんなことやってるのかな」と思いながら作ってるんですよ。石田三成のときも、遊園地の仮想のキャラクターを勝手にデザインしたり、ロゴを作ったり、夜中の2時くらいに「なんで俺、家で一人でこんなことやってるのか」と。

日下:なるほどね。

勝手にデザインした仮想キャラクターやロゴの例
勝手にデザインした仮想キャラクターやロゴの例(2016)。

藤井:美大を出ている人間って、大学ではゼロから100まで自分で作ってるでしょ。それが会社に入った途端に、作るパーセンテージが5%くらいになるじゃないですか。ディレクターがいて、クリエーティブチームの中でも役割が分かれていて。

日下:確かに。

藤井:撮影現場にたくさんスタッフがいて、ディレクターがいて、自分が何も話さなくても進んでいく。俺は、その「作ってる感がない」作業がしんどいんですよね。何もしないと逆に疲れるんですよ。自分でバタバタ走り回っている方がまだ「作ってる感」があっていいんです。

日下:それはやっぱり、根が職人なんやろね。

藤井:お客さんみたいに座ってるだけの撮影現場はしんどくて。かといって、監督の横にピッタリついたとしても、そこで自分が仕切るわけでもないし。

日下:そのジレンマって、特に芸大や美大を出たアートディレクターは、みんな抱えてるよね。

オレ…もっと…つくりたい

藤井:そう思います。

日下:自分で手を動かしたいけど、そうできなくて、つらそうなやつがたくさんおる。

藤井:そんなジレンマを持つ人たちは、少しずつでも、なんとか自分ができる割合を増やしていったらいいと思うんです。アートディレクターの立場も微妙で、グラフィックでも、一番おいしい「創る」ところを人に任せて、クライアントとのやり取りとか、見積もりとか、一番興味のないところをやらないといけない。そうして「なんのために俺、この仕事に就いたんだっけ?」みたいになってくると、しんどくなると思うんです。だから、一番おいしいところを、先にガッと「ここは俺のものだ!」というようにしておかないと。それができれば、やれることも増えるってことですね。例えば、はじめに企画を出すときに、もう、そこは自分がやらざるを得ない形にしていくとか。

日下:最初から、そういう企画を出すと。それはCDとかOKしてくれるわけ?

藤井:ものによるとは思いますけど。

日下:自分の写真でやりたいと思ったら、写真の企画でいく。自分のイラストでいきたいと思ったら、イラストの企画でいく、と。

藤井:そうです。なおかつ予算をはみ出しそうな要素も入れておけば、そっちに予算を取られるから、予算的にも自分がやらざるを得なくなる。外注できない状況を作るんです。

日下:とことん追い込むなあ(笑)。でも、そこまでして自分のやりたいことをすると。それは藤井に学ぶべきところやね。

やりたいことを確保

藤井:せめて「やっていて楽しい」というのがいいですよ。広告の作業って、やりとりとか、しんどいことが多いじゃないですか。なので、せめて作っているときは「しんどたのしい」でないと。

日下:そうやね。健康維持のためにもやね。

藤井:精神的な健康維持のためですよ。自分の役割を増やせば増やすほど、これスベったら全部自分のせいだ、みたいになるので、その分、結構ギリギリまで頑張るんですよ。どうにかして1点でも上げようと思って。

日下:確かに。自分がスベったら、自分のせいっていう。

藤井:俺はプレッシャーがあった方がいいんです。

日下:そうやと思うわ。そうでないと、責任の所在がなくなっていくもんね。

広告は「作品」か「仕事」か

私がつくりました

日下:この業界でよく議題に上がる「広告は全てクライアントさんのものだ」という考え方についてはどう思う?

藤井:俺は、そう思ってないですね。

日下:俺もそう。「作品と言わずに仕事と言う」とか、「すべてはクライアントさんのものだから、私たちは黒子です」とか、「自分たちが目立ってはいけない」とか。そういう言われ方をずっとしてきて、最初は確かに俺もそう思ってたんよ。でも、それだと作品の圧力が弱くなるなと思って。

藤井:そう思います。俺も広告はクライアントさんのものだと思って、自分の作品集を「仕事集」って書いてたんです。でも、そうすると、「結局はクライアントさんのものだから…」っていう言い訳ができちゃうというか、

日下:そうそう。「自分たちは黒子である」。それはそうなんだけど、そう言ってしまうと、なんか無責任な感じがするというか…。

藤井:確かにビジネスとしてはその方が楽なのかもしれないですけど、強みがなくなるというか。

日下:そういう黒子に徹する広告というのは「量産型」やと思うのよ。きちんとした広告制作システムの中で生まれるもの。CMプランナー、プロデューサー、ディレクター、カメラマンなどがきちんと分業化されていて生産ラインができあがっている。だから、量産ができる。それぞれのプロフェッショナルがそれぞれの力を発揮して作品の質を上げていく。でも作品となると量産ができない。でも作品型の強みってあるでしょ。その点、関西電通はあまり量産型ではないよね。

藤井:主流は量産型なんですよね。だけど作品型的な突破の仕方もあると思うんです。

日下:今はネット環境の充実で、作品型が突破できるようになってきた。絶対的なオンエア数がなかったり、タレントがいなくても、YouTubeが使えるとか。それはありがたい時代やね。

藤井:昔は手応えがなかったから、正解が分からなかったんです。広告業界的に評価されないと、それは失敗みたいな。

日下:賞とか取らないと評価されたかどうか分からない。誰が見てたか分からなかったもんね。

藤井:周りの数人の人に言われるだけでしたけど、今はウェブのおかげで手応えがしっかりと分かりますからね。

日下:やっぱり、広告物は「作品」と言った方がいいと思うんよ。あと、以前は「クリエーター」という言い方にも抵抗があったんよ。広告制作者っていうのが一番しっくりきてて。でも、あえて「クリエーター」というのを背負った方がいいのかなあと、思い始めた。

藤井:俺も最近「クリエーター」に変えてるんです。

日下:おお!

創造者

藤井:「めざましテレビ」とかの取材でも、「クリエーター」と紹介してもらって。昔は、なんかダサいなあと思って嫌だったんですけど。今はもう、なんかそうした方がいいんじゃないかと。

日下:世の中の人は、「クリエーターさん」に対して期待をかけてくれるじゃない。その肩書に。いくら俺らが「そんなことないですよ」と言ってもね。思ったんだけど、「クリエーターさん」って言ってくれる人は、俺らに魔法をかけてほしいんじゃないかと。だから、そこで卑屈になる必要もないのかなと。魔法をかけてほしいという気持ちに対して、「じゃあ、魔法をかけましよう!」というのが正しい姿なのかなと思うねんよ。

藤井:だから「作品を作ります!」って、正直に言った方がいいですよ。「作品=広告として効かない」って訳じゃないですしね。

日下:俺もやっと、気付いたけどね。

藤井:俺らが入社したころって、ずっと、そういう流れだったじゃないですか。「『クリエーター』=ダサい」「『作品』=ダサい」「これは仕事で、私たちは一広告制作者です」みたいなのがカッコいい。でも、そういう流れって、順番に巡っていきますよね。糸井重里さんの時代って、逆に『作品』で、『クリエーター』でしたから。

日下:山崎隆明さん(ワトソン・クリック)なんか、明らかにクリエーター。ホットペッパーとか。もはや、アーティストやもんねえ。そういう作品は残るよね。

藤井:結果的に作家性丸出しというか。

日下:そうやね。作家性を否定するのはあまり良くないと思う。全てにおいてそうなんだけど、ものづくりって、作家がこれを書きたいんやとか、映画監督がこれを撮りたいんやとか、その思いが強い方が伝わってくるよね。

藤井:熱量ですね。

日下:そう、熱量!カロリー!関西電通は、高カロリーでいこう。

企画はカロリーや

藤井:ニーズがあればいいんですけどね、俺のやり方がう上手はまるような仕事の。なんとかそういう仕事を増やす方法はないかなと。

日下:この記事で増えていくんちゃう? どんどん売り込んで、自分の仕事を増やしていこ! めっちゃ忙しくなったら、そんとき考えよう! ワークライフバランスも大切やからね! 俺はワークライフバランスを取り戻そうと思って、スマホのアプリのゲームを今日、削除した!

藤井:ははは! スマホゲームは、削除するときが一番気持ちがいい。「気持ちよかったー!」って。でも、ふと思いついて、もう一度ダウンロードすると、データが残ってたりするんです。

日下:ええ!うそやん!!

藤井:だからいつでも再開できちゃうんですよ。

日下:マジで!絶対にやらない!俺のライフワークバランスはさておき、これからも藤井くんには好きな仕事をどんどん増やしていただいて。手を動かす仕事は、藤井くんにぜひ!ということで、ありがとうございました〜。

藤井:みなさま、いつでもなんでも相談してください!!ということで、ありがとうございました。