カンクリ通信No.7
我田引水!エゴ広告のすゝめ(前編)
2016/07/13
第49回「やってみなはれ佐治敬三賞」を受賞したのは、電通関西支社のアートディレクター・藤井亮氏。藤井氏の持ち味は、普通は広告会社のアートディレクターがやらないようなところまで、とことんやり抜く“職人技”。そんな藤井氏に、先輩・日下慶太が迫ります。藤井氏の最新作品も一挙公開!
ちなみに、本文中にはいっさい登場しませんが、この記事は関西CR・福居亜耶が執筆しました。
日下:第49回「やってみなはれ佐治敬三賞」(※)の受賞おめでとう。
※チャレンジ精神にあふれる作品を制作したクリエーターを顕彰する大阪広告協会主催の賞。
藤井:ありがとうございます。
日下:「自ら手を動かしてつくる “職人技”が大きく評価された」とのこと。
藤井:なんか、受賞理由にそう書かれていましたね。
日下:ということで、このインタビューでは藤井くんの作品や“職人技”について、いろいろ聞いていきたいと思います。よろしく!
藤井:よろしくお願いします。
特産品「石田三成」
日下:まずは、最近話題になった「石田三成CM」の話から。滋賀県からのオリエンはどんな感じだったの?
藤井:いわゆる地域PR動画を作ってほしいという依頼があり、お題として、石田三成を使えないかという話があったんです。まあ、最初は難しいな、と思った。石田三成の生い立ちとか生涯とかを見せても、たぶん、失敗するだろうなと。だけど、戦国武将のCMだったら、なかなか変な感じで面白くなるんじゃないかと。
日下:調べていくうちに、そう思ったのね。
藤井:はい。あえて開き直って、武将のコマーシャルみたいにしたら、今まで見たことのないものができるんじゃないかと。
日下:競合プレゼンだったの?
藤井:公示案件ですから、競合みたいなものですね。「こいつにやらせます」って感じで制作者プレゼンしてもらって、「じゃあ、この人で」と。なので、制作者が決まってからスタートしました。
日下:テレビでもいっぱい取り上げられてたね。「めざましテレビ」とか。
藤井:テレビは、20番組以上に取り上げてもらいました。NHKにも。
日下:それはすごいな。滋賀県にとっても大きなPR効果やね。そもそも、なんでパロディーというか、ローカルCMっぽく持っていったの?
藤井:ストーリーものとかじゃなく、コマーシャルっていうのが珍しくていいかなと思って。あとはどう落とそうかと。
日下:ウェブムービーをあえてCM仕立てにしたってことやね。
藤井:あ、これ、実際にオンエアしてるんです。
日下:え、オンエアしてるの?!
藤井:はい。最初は、これが本当に流れているCMだということで、話題にさせようという狙いがあって。メインはウェブなんですけど、こんなのが本当にCMとして流れているんだ、という驚きもほしいと。びわ湖放送で割といい時間帯に流してもらったんです。ローカルCM風にしたのは、石田三成は堅くて冷酷な人間のイメージなので、親しみやすさを増したいという目的が先方にはあって。親しみやすいCMといえばローカルCMかなと。
日下:ローカルCMは結構見たの? 企画の参考として。
藤井:ずいぶん見ましたよ。YouTubeに上がっているやつを延々と。
「お任せします」のありがたさ
日下:実際、「石田三成CM」の制作はどうやった?
藤井:なんか、部活ノリで楽しかったですね。滋賀県の方にも「お任せします」と言ってもらっていたので。
日下:第一弾から?
藤井:そうです。
日下:素晴らしいねぇ。懐が深い!
日下+藤井:まるで琵琶湖のように(笑)。
藤井:「お任せ」って言われると、プレッシャーが大きい反面、なんぼでもディテールを作り込めるので。
日下:藤井はディテール凝るもんなあ。
藤井:俺の場合は、細かい積み重ねで総点数を上げていくタイプなので。
日下:ほんまにそうやね。お任せじゃないと、積み重ねたディテールを否定されるかもしれないし。
藤井:そう。ある程度お任せ案件でないと力を発揮できないというか。
日下:なかでも、三戸なつめ「前髪切りすぎた」PVは、まさに藤井の職人技で突破したって感じだった。
藤井:あれも完全にラストまでノーチェックでしたからね。クライアントも、CDの日下さんも。まあ、お任せしてもらったっていうか、事前に見せることができなかったというか。編集日の前日からずっと書いてて。後半の1分とか、全部、編集の当日に書きました。
日下:時間が足りなかったって言ってたもんね。
藤井:でも、そこまでやると、点数を上げられるんですよ。
日下:それも職人たるゆえんやろうね。職人というのはディテールというか、完成度の積み重ねだから。
藤井:そこを一つ一つ、いろんな人にお伺いを立てていると、どんどんテンションが下がっていっちゃうんです。
日下:なるほど。ほんまにそうやなあ。
「役割」と「欲望」
日下:続いて、「PiTaPa」(多機能IC決済サービス)の記憶イラストリレーの話。これはどんな感じで作っていったの?
藤井:もともと言わないといけないワードが三つあって、それをポスターやウェブで展開してくれというお題だったんです。なので、普通に企業メッセージ広告を作らないといけないかな、とも思ったのですが、なんとか面白くできないかと。
日下:WHAT TO SAYは決まっていて、どうHOW TO SAYで遊ぶか、っていうことやね。でも、どう遊ぶかというところで、イラストを使うというのをよく思いついたね。
藤井:自分で絵を描きたいなと思って。
日下:なるほど! 来ましたね!
藤井:だけど、自分で描く理由がないなと。イラスト物のポスターって、最近、あまり見ないから、それをやりたいなと思って。まず、そういう自分のやりたいことに、企画をどう落としこもうかと考えて。
日下:ここ大事! まず自分が描きたいと思って、企画を組み立てていったと。自分の欲望を満たすためだけに、しりあがり寿先生や森田まさのり先生を巻き込んでいったわけやね。
藤井:そうかもしれませんね(笑)。
日下:いままでの藤井の場合は、どちらかというと、一本の完成度の高さで、良くも悪くも終わっていた感じがするんだけど、「PiTaPa」はそれが広がっている感じがして。自分の職人技を出しつつ、なおかつ、その技を含めて全体のプロデュースもするというか、その辺が今までと変わったような気がしたけど。
藤井:自分の仕切りでやれたというのが大きいですね。自分がCDのポジションでやるとなると、客観的に見ないといけないというか。自分が面白さのジャッジをしなければいけないというか。
日下:じゃあ、今までは先輩が邪魔で、自分の作品には、いいものが取り入れられなかったと。
藤井:いえいえ!それは違います! むしろ先輩たちに助けてもらってきた感じです。今までは自分に与えられた役割をちゃんとやろうっていう気持ちでしたね。ADならADの役割をきちんと、というように。
日下:役割には忠実に、あまりはみ出さず、と思うわけやね。表現は、はみ出してるけどね。それでいうと、古川雅之さんと組んだ、宣伝会議のコピーライター募集の広告も?
藤井:そうです。自分はビジュアル係として、MAXで頑張るという。
日下:ACCゴールド(2015)をとったサンポールとかも?
藤井:中治信博さん(ワトソン・クリック)に与えられた自分の役割の中で、最大限力を発揮するという作業になりますね。
日下:今までは、あるキャンペーンの仕事があって、CDとか上の人が全体を決めて、そこに藤井がアサインされていた。でも、今回は、どうしたらええねん、というゼロから藤井が入れた、っていうことやね。
藤井:そうですね。もちろんゼロから一緒には考えるんですけど、自分が矢面に立たないというか…。
日下:そういう意味では、三戸ちゃんも、映像作家としての藤井にゼロから描いてもらったという感じやし。
藤井:三戸ちゃんも、ゼロから自由にさせてもらえたというのが大きいですね。映像ってことしか決まっていなかったので、そこで自由演技させてもらえたという感じですね。
(後編に続く)