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9.11から15年目のアメリカ:海図なき時代のリーダーシップNo.1

グローバル・リーダーシップって何だろう?

2016/07/22

私はいま、1年をかけてアメリカのマケイン・インスティテュート*1の「次世代リーダー(NGL: Next Generation Leaders)プログラム」に参加しています。今後、数回にわたり、NGLプログラムで各界のリーダーを目の当たりにして感じた「これからの時代のリーダーシップ」について書いていきたいと思います。まず自己紹介をさせていただくと、私は電通入社後、企画開発業務を数年間担当して退社し、留学・戦略コンサルティング会社勤務を経て電通に再入社、営業・マーケティングや経営戦略に関わってきました。最近では英国に本社を置くイージス・グループ買収と電通との統合・シナジー創出を担当しています。

マケイン・インスティテュートの「次世代リーダー(NGL)プログラム」

「NGLプログラム」は、毎年、世界中から多様な経歴や特性、ポテンシャルを持つ約10人を選び、アメリカで1年間過ごす権利と共に、「指定する勤務先で働き、社会のためになるプランを立てる」というミッションを与えるものです。私を含め、今年のメンバーは12人*2、その出身国や職種はかなり幅広く、過去数年間、世界各地の社員と働き始めてはいたものの、人生のほとんどを国内の、しかも民間企業で過ごした私にはかなり新鮮…というか、共通の話題がそもそもあるのかと不安になるぐらいです。東アジア出身者も初めてのようです。

メンバーは普段、全く別の場所で過ごしています。私の場合は、世界有数のテクノロジー企業に配属されました。といっても、オフィスは本社のあるシリコンバレーではなく、アリゾナ州チャンドラー。「なぜアリゾナ?」という疑問と共に、一人で家を探し、知人も友人も縁もゆかりもない多国籍企業に通勤開始…。何もかもが、全く想像しなかった毎日です。

世界の若きリーダーから見た日本のイメージは…

参加メンバーのほとんどは、コソボ、パレスチナ、ナイジェリアなど、日本からいろいろな意味で遠い国の出身者です。彼らや彼女たちが日本に持つイメージはどんなものだと思いますか? また、欧米やアジア諸国と比較してどんな期待感を持っているのでしょう?

数人に聞くと、こんなキーワードが出てきました。洗練、革新的、型にとらわれない発想、すし…。何より、日本製品名の数々。日本人については「知らない」「想像がつかない」。来日歴のあるメンバーがわずか1人とはいえ、遠い距離を超えて届けられているのは私たち自身ではなく、私たちが手がけた製品でした。日本らしいといえるかもしれません。

これからのリーダーシップ キーワードは「ストーリーを創り出す力」

電通は2013年3月にイージス・グループを買収、海外子会社として電通イージス・ネットワーク(DAN)を設立し、私自身も世界各地とのやりとりが飛躍的に増えました。2012年度に約15%だったグループ全体の海外事業利益(売総)は、2015年度には54%となり国内事業を上回るなど、ものすごいスピードでグローバル化したためです。トップマネジメントから現場までさまざまなレベルのリーダーたちのやりとりを横目で見つつ、自分自身が本社と海外拠点との結節点の一つとなる中、「何でこんなことに!?」という事件や珍事の対応も回ってきます。

「違いは違いでいい、むしろ生かしたいんだけど、その違いをきちんと伝えられないと…」という悩みは日々現れ、多くのクライアントやパートナー社も同じ課題を共有していることに気付きます。DANのリーダーたちから多くを学ぶ一方、「電通社員は広告業界のリーダーだけをベンチマークにすればいいのか」という疑問も出てきました。こうした日々は、「日本や日本企業、日本人が取り得る、取るべきグローバルでのリーダーシップって何だろう?」「そもそもグローバル・リーダーってどんな人?」という疑問となり、今回のプログラム参加につながりました。

ちなみに、私がプログラム参加前に感じていた「リーダーシップ」を言葉にすると「目標達成に向けて最も効率的・効果的にチームを動かせる能力や資質」でした。いま感じているのは全く違う切り口で、政府・民間・非営利セクター全てに共通する「ストーリーを創り出す力」です。

この1年間、私はアリゾナで働き、時にメンバーと共に外交官、政治家、財界人や行政官、ジャーナリスト、教授、NPOトップなどにお会いし、いまだに大事・小事に一喜一憂する、息つく暇のない毎日を送っています。そんな中、おぼろげながら感じ始めたことがあります。それは、アメリカで、もっというと世界で起こっている地殻変動のようなもの。この瞬間にも、それぞれの地域でそれぞれの生活がそれぞれに営まれていますが、一方で、人と人とが距離を超えてつながり、情報が行き交うようになりました。新たな考え方や信条が会ったこともない特定のグループや人間を結び付け、いつの間にか日本人やアメリカ人、女性や男性、時には地域や人種や文化などを超えたうねりとなって世界を動かしているように思うのです。

マケイン・インスティテュートで、テクノロジー企業で、そしてアメリカ各地で。プログラムを通じてお会いするリーダー、他の国から来た若いリーダー、彼らの言葉、自分への示唆、コミュニケーション業界への示唆、そして日本や社会全体への示唆…。明確な海図がどこにあるのかさえ分からない今、私が感じたこれからのリーダーシップについて、さまざまな角度でご紹介させていただければと思います。次回は、ここ15年で大きく変わったと思われるリーダーシップの考え方について紹介する予定です。

よろしくお願いします!

すでに40度を超えるアリゾナの街。これからの毎日が楽しみでもあり、怖くもあります。
すでに40度を超えるアリゾナの街。これからの毎日が楽しみでもあり、怖くもあります。
*1 マケイン・インスティテュートは、グローバルリーダーとの協働や育成を目指して設立された「行動するシンクタンク」(Do Tank)。そのミッションは、「人格と信念に根ざした(Character-driven)リーダーシップ」をグローバルで育てること。創設者のマケイン上院議員は、父も祖父も海軍大将という軍人一家に生まれ、ベトナム戦争で英雄となった後に政界進出し、2008年には現オバマ大統領と大統領選挙を戦ったことでも有名です。ベトナム戦争における拷問の後遺症を抱えながら、ベトナムとアメリカの国交正常化に尽力するなど、超党派で活躍する共和党の重鎮ですが、大統領選後、支持者たちに「残った選挙資金を使って非営利組織をつくってほしい」と要望され、インスティテュートが設立されたそうです。
 
*2  ナイジェリアの医療専門家/産婦人科医、ハンガリーの汚職対策専門家、教育を通じてカンボジア再興を図る教員、コンゴ民主共和国の暴力排斥・女性支援活動家、コソボ初の多民族シンクタンク設立を目指す研究者、アフガン女性支援に燃えるアメリカ国務省職員、パキスタンの反人身売買活動家、ケニアでリーダー育成を狙うNGO代表、環境団体設立を計画するウクライナの元国連職員、若者の政治参加拡大を目指すトリニダード・トバゴの活動家、パレスチナの平和活動家。