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9.11から15年目のアメリカ:海図なき時代のリーダーシップNo.2

スタバ創業者、ミシェル・オバマ夫人に見る「真北」とは?

2016/08/25

皆さん、こんにちは! このシリーズでは、私がアメリカのマケイン・インスティテュート「次世代リーダー(NGL: Next Generation Leaders)プログラム」を通じてこの一年間にお会いしたり、新たに知った海外のリーダーたちから学んだ体験をご紹介し、「これからのグローバル・リーダーシップ」について考えていければと思います。


第1回:グローバル・リーダーシップって何だろう?


スターバックス創業者の会社設立の動機とは?

皆さんは、身の回りのリーダーたちにガックシしたこと、ありません?
あるいは反対に、自分がリーダーとして周りに脱力されたこととか。

「言ってることとやってること、違い過ぎ」「周りに厳しいが、自分に甘い」、さらに「上ばっかり見てるよね」とか。暑っ苦しい人間関係、延々と続くお説教は遠慮したいものの、私たちはどこかで、思わず心が洗われるような圧倒的に正しいお話・行動をリーダーに示してほしい、という気持ちがあるのではと思います。

そう、私たち、誰かを強烈に尊敬したいと思いませんか?

自分がそういうリーダーになれれば最高です。
では、そのためにどうすればいいか。「自分が正しいと思うことを、間違ってもいいからやり続ける」
今日は、そういうお話をさせてください。

スターバックスの実質的創業者の一人で、中興の祖といわれるハワード・シュルツ(Howard Schultz)さんのエピソードです。
シュルツさんは、みんなが居心地よく過ごせるカフェをつくりたかっただけでなく、幼いころの環境にすごく影響を受けて、今のスターバックスをつくったとのこと。

それは7歳の時、ドライバーだったお父さんがけがをしただけで会社を辞めざるを得ず、健康保険も出なくなったことから始まったそうです。困窮生活の中、食卓での両親の会話は「いくら必要で、誰から借りるか」の言い合いばかり。集金の電話がかかるとシュルツさんが代わりに出たのだとか。生きるためだけに働き続けるブルックリンの人々に囲まれて育った経験を、シュルツさんは「絶対に忘れられない」と言います。

その後、幾つかのきっかけからコーヒービジネスに携わりますが、当時小さかったスターバックスを買い取った動機は「父が働きたくても、とうとうそのチャンスがなかった、社員を大切にする会社をつくりたかったから」。十分な教育は受けなかったものの、こつこつ働いた父親がなぜ30もの職業を転々とし、不平ばかりの毎日を送ったのか…。「それは父の責任ではなく、自分に誇りを持てる機会を与えられなかったからでは?」と、父親が亡くなって初めて考えたそうです。

スターバックスは当初から、フルタイムでなくても、週に20時間以上働き、一定の資格を持つ社員に健康保険を提供しました。それが社員からの絶対的な信頼につながり、今では73カ国に2万4000店以上を擁するグローバル企業に成長させたとのこと。今も社員を「パートナー」と呼び、ストックオプションをはじめ自分の父親が決して得られなかった福利厚生を提供するなど、シュルツさん自身が培った価値観がスターバックス全体を支えているのです*1。

ミシェル・オバマ大統領夫人が手を差し伸べたい6200万人の「私」

もう一つの例は、ミシェル・オバマ(Michelle Obama)大統領夫人。最近、三大ネットワークCBSの人気番組に登場し、車の中で楽しそうにカラオケする姿が共感を呼び、YouTubeの公式動画はわずか1週間で3300万回以上再生されました。

ミシェルオバマ カラオケ
画像をクリックするとYouTubeで動画が閲覧できます

ミシェル夫人は、なぜこんなことをしているのか-それは、学校に通っていない世界中の6200万人の女の子に学ぶ機会を与えたいからです。でもそれは決して「大統領夫人が、恵まれない誰かに愛の手を」ということではないのです。超!厳戒態勢の、とあるスピーチ会場でミシェル夫人が語り掛けたのはこんなストーリーです。

黒人女性としてシカゴ南部に育った中、周りの大人から繰り返し言われたのは「こんな可能性がある」ではなく、「おまえにはこれもできないし、あれもできない」。

置かれた環境から人生を諦め、自分は何もできないと思い込む女の子を見るたび、「あれは、幼いころの私だ」といまだに思うのだそうです。そんな時に伝えたいのは、「何もできないなんてうそだって証明しよう。努力もしたし、本当に本当に大変だったけど、私ができたのだからあなたにもできる」

ミシェル夫人は“Let Girls Learn”というプロジェクトを立ち上げますが、活動を広め、資金を捻出するためにミッシー・エリオットたちと組んで“This Is For My Girls”という楽曲を発表します。テレビ番組で自ら歌い、手をたたき、楽しそうに紹介する姿から、歌と踊りやスティービー・ワンダーが大好きな少女時代のミシェルさんが見えるようです。

他人に言われたからではなく、自分の信念を自分なりのやり方でやる。それが多くの人たちの共感を呼ぶのでしょう。

いま、リーダーに求められる“True North”(真北)とは

そして2015年。
マケイン・インスティテュートから出た最初の課題は、書籍『True North』を読め。*2。

なに?「真北」って??

本には「リーダーに必要なのは、自分の信じる『真北』に向かって進むこと」と書かれています。「真北」とは個々人が最も重要だと思う価値観、人生の中で築かれた道徳的コンパスが示す方角です。

真北

先ほどご紹介したシュルツさんやミシェル夫人は、まさに「真北」に向かう二人といえるのではないでしょうか。また、プログラムではこんなことも言われました。

リーダーシップは旅路

なるほど…。でも、この「真北」ってお話、アメリカというより、日本の考え方に近くはないでしょうか。

そのお話はまた次回! 変わりつつあるアメリカのリーダー像と共に、プログラムに参加する新興国の若いリーダーたちが衝撃を受けた松下幸之助さんのエピソードについてご紹介します。

*1 下記*2 “True North”、マケイン・インスティテュート資料、最新データから
*2 “True North: Discover Your Authentic Leadership”(真北:自分なりの正統なリーダーシップを見つけろ)” Bill George著・Peter Sims共著。2007年3月にJossey-Bassから出版。ハーバード・ビジネス・スクールでリーダーシップを教えるシニアフェローBill George氏が中心となり、業績と共に、人物としても傑出したリーダー125人を取材して得られた教訓や発見を記したリーダーシップ論。