あらためて考える、動画プラットフォームYouTubeがつくった世界
2016/07/29
Google がアドバタイジングウィークに出展
みなさんこんにちは。電通 デジタルプラットフォームセンターの池上です。私はGoogleと電通のアライアンス業務を担当しており、その中で、広告プラットフォームとしてのYouTubeのビジネス開発にも携わっています(過去登場記事:業界人のための YouTube 論)。
今回は、6月に開催され、 YouTube も多数の動画クリエーターが出演するステージなどを出展した広告業界のイベント、アドバタイジングウィークアジア(以下、AWA )を振り返りながらオンライン動画プラットフォームとしてのYouTubeについて考えていきたいと思います。
(…余談ですが、このアドバタイジングウィークアジアの広報事務局を務め、同イベントを“AWA”じゃなく「アドウィ」と略している電通PRによるイベント紹介はこちらです)
イベント開催、ライブ配信、360度動画…ファンとYouTubeをさらに近づける取り組み
まず訪れたのは、AWAの会場となった東京ミッドタウン内のYouTubeステージ。ここでは、YouTuberがライブパフォーマンスなどを行なっていました。最初に登場したのは「本能寺の変」でおなじみのエグスプロージョン。同作品のキャッチーな曲が流れると、まるでライブ会場のように観客と一体となり盛り上がっていました。
リアルな場でのYouTuberとファンの一体感を、これまでも幾度となく見てきましたが、あらためてその“ちょっと違った”盛り上がり方に驚かされます。これはYouTube上での動画コンテンツを介したコメントのやりとりやSNSでのやりとりなど、恒常的なコミュニケーションの積み重ねによるものではないでしょうか。その結果として、例えば普段はテレビでしか見ることができないようなミュージシャンのライブなどとは異なる、距離感の近い反応が生み出されているのだと思います。また、観客席を見ると若い女性から年配の方まで、幅広い層の人がいます。一部の熱狂的な人だけではなくファン全体でこのような雰囲気が生まれるのもYouTubeならではのことだといえるかもしれません。
今回のステージの見どころを YouTube のマーケティング担当の長谷川泰さんに聞きました。
「360度全方位動画のライブ配信を行って、会場に来られなかったファンにも迫力あるステージを、ファンの盛り上がっている臨場感とともに発信しています」(長谷川さん)
よく見てみるとステージと観客席の間になにやらそれらしき機材が。
そして、長谷川さんに教えてもらったURLにアクセスすると、ライブストリーミング映像が出てきました。百聞は一見にしかずなので、ぜひ下の動画をご覧ください!
「VR は旬なので知っている方も多いですが、一般的には収録・編集した映像のオンデマンド配信で、生で全方位をライブ配信できるプラットフォームは他にはほとんど例がありません。
YouTubeとしても日頃から人気クリエーターと、その熱狂的なファンの強い結びつきを、その場にいるかのような臨場感とともにより多くの人に伝えたいと考えていたので、VR、しかもそのライブ配信はこれ以上にない最適なソリューションでした。よりリッチな体験やコンテンツをお客さまに届けることを可能にするYouTubeの最新技術、そして出演したクリエーターたちとファンの強い結びつき、この両方を体感していただけるイベントとなれば幸いです」(長谷川さん)
動画活用マーケティングの最新事例 WAVEと3Hとは?
次に向かったのは、広告業界人がひしめくセッション会場。マーケティングやクリエーティブに関わるさまざまなプレーヤーによるセミナーが開かれており、 YouTube に関連したセッションもあるということで、足を運びました。
「Video Contents That Win Hearts ~モバイル時代の動画活用を考える~」というテーマで、YouTubeのプロダクトマーケティングマネージャー中村全信氏と、パナソニックの木村知世氏が登壇しました。前半は、中村氏からいかにして生活者と企業の接点をつくっていくかという文脈で、視聴環境の変化などが紹介されました。その中で、WAVE(Watchtime、Audibility、Viewability、Engaged Consumers)という指標を起点にしてYouTube動画広告の特徴が紹介されました。
まず、YouTubeは動画プラットフォームのため、もともと動画のWatchtime(視聴時間)が長いことが大きな特徴であり、動画広告の視聴時間も長いことが挙げられます。実際に視聴時間の長い動画ほど、ブランド認知度や比較検討のリフトが高いことも実証されています。また、YouTubeでは音声をオンにしての動画視聴が中心のため、Audibility(可聴性)が高く、動画広告も音声オンの状態で視聴されているという特徴があります。音声がオンの動画広告ほど、ブランド認知度や比較検討のリフトが高いことも実証されています。Viewability(視認性)の点では、日本のYouTubeのViewabilityは94%であり、日本国内の他の動画広告と比較して20ポイント以上も視認性が高いという調査があるそうです。そしてYouTubeでは目的を持ってYouTubeを見る視聴者も多く、Engaged Consumers(能動的な視聴者)と言えます。そこで流れる動画広告への注目度も高く、さらに他のソーシャルメディアなどに共有している点が大きな特徴です。
木村氏は、同社の商品が「購入までの検討期間が比較的長く、かつ購入前にトライアルがしづらいため、購入後の使用実感を想起させられるのがウェブ動画のメリット」だと説明。「ふだんプレミアム」ではGoogleが提唱する3H(Hero Hub Help)という考え方に基づいて段階的に動画コンテンツを制作し、コミュニケーションを展開している事例が紹介されました。
セッションのまとめとして、今後はさらに「消費者との接点が変化していることについて、広告主も理解を高めていかなければならない。また、視聴者データをためてリターゲティングするなど、ウェブ動画ならではの手法が活用できるので、このメリットを生かしたコミュニケーションが不可欠だ」(木村氏)と語りました。
YouTuberは生活者のロールモデル?
イベントの帰り際に、YouTubeステージの前を通ると、先ほどよりもさらに大きな人だかりができていました。HIKAKIN、はじめしゃちょー、関根りさ、MACOらのみなさん…。YouTubeだけではなく、テレビ番組やCM などでも活躍するYouTuberが次々に登場し、ファンとの撮影や握手などに応じていました。
イベント後の関根りささんに話を聞くと、「日記のような感覚で始めたチャンネルを、こんなに多くの人が見てくれるようになるなんて思いもしていませんでした。最近はこのファンミーティングもそうですが、ファンが増えたことでいろいろなチャレンジができるようになってすごくうれしいです!」と興奮交じりに感想を語ってくれました。関根さんは、自身の動画が累計7800万回以上も再生されるほどの人気を誇っていますが、現役の看護師でもあります。仕事をしながらも自分が好きなことを発信することを、等身大で実現しているロールモデルの一人です。
YouTubeは、人々に何をもたらしたのか
あらためて感じたことは、YouTubeによって新たな“文化”が形成されている、という事実です。YouTubeというプラットフォームは今までの映像コンテンツにおける発信者と受信者の在り方とは異なる、新たな関係性を生みました。まさに関根さんの例のように、いわば“一般の人”がソーシャルメディアの投稿のような感覚で始めたチャンネルが、わずか数年のうちに何十万人という規模のファンを抱えるようになり、彼らに会うためにこれだけ多くの人が集まるのです。
この背景には、通信環境の進化・デバイスの変化といったインフラ的な要素ももちろんあると思います。しかしそれだけでなく、これまでの“映像”とは違った価値を持つコンテンツがYouTubeをはじめとしたオンライン動画メディアによって登場し、それが支持されるようになってきたことも確かです。
もちろん簡単にはくくれませんが、大きく捉えるならば、これまでは多くの制作スタッフや、一握りのタレントによって作られた映像が、分かりやすい花形コンテンツとして市民権を得ていました。しかしYouTubeをはじめとしたオンライン動画プラットフォームの登場によって、より“民主化された”作品やクリエーターが登場し、それが世間でも広く認知・受容され、デジタルネイティブ世代を中心にしながら爆発的な人気を得るようになったのです。
広告媒体という側面から見ても、それらの民主化されたコンテンツの普及によって、従来とは異なるメディア接触態度を持ち、従来のメディアではリーチできない若年層にリーチできることは、YouTubeの大きな価値の一つであることに疑いの余地はありません。
今後、プラットフォームとしてのYouTubeが、コンテンツをどのように語っていくのか。そこに生まれる文化にも寄り添いながら、あらゆるプレーヤーにとってのYouTubeの価値を考えていきたいと思います。