18歳のリアルNo.5
イマドキの若者が信頼できる大人とは?
2016/08/02
選挙権年齢が18歳以上に引き下げられ、18歳を中心とした若者への社会的な関心が一層高まっている。その一方で、「18歳(若者)」と「大人や社会」の間には、分かり合えていない壁のようなものがあるのではないか―。
電通総研18歳プロジェクト「Project18」では、キャリア教育活動を行う認定NPO法人カタリバが提供する「マイプロジェクト」※に参加する高校生との対話を実施。前回に続き、高校生のリアルな姿に迫り、彼らの持つ新価値観をひもといていく。
※マイプロジェクトは、身の回りの課題を解決するために、高校生自らプロジェクトを立ち上げ実行することを通して学ぶ、プロジェクト型学習(PBL=プロジェクトベースドラーニング)プログラムです。
Project18×高校生:きいなさんの場合
今回インタビューした若者はきいなさん(女性・仮名)。
マイプロジェクトでは、生まれ育った岡山県の日生(ひなせ)町の地域活性化、世代間交流を促進するべく、地域の特産であるアマモという海草とカキの殻を使った天然自然の肥料による野菜「あまvege」作りに、小中高校生主体で取り組んでいる。彼女のプロジェクトは、全国高校生マイプロジェクトアワードで高校生特別賞を受賞した。
ここでは、きいなさんへの取材から発見した「新しい時代の価値観」につながる三つの手掛かりを紹介する。
Findings①
“高校生だから”と枠を狭める必要はない
「なぜマイプロジェクトに参加したの?」と聞くと、きいなさんはこう答えた。
「周りが部活などに一生懸命な姿を見て、私も何かやりたいな、でも私にできるのかなと思ってた。そんな時に、『Life is Tech!』※で知り合った東京の友人に相談したら、『マイプロジェクトっていうのに参加している高校生も多いから、きいなもやってみたら』って言ってくれて。もともと日生町を盛り上げたいという思いは心の片隅にあったし、マイプロジェクトという枠も見つかったので、やってみようと。
話はずれますが、実は小さいころから『将来何になりたいの?』っていう質問が一番苦手で。というのも、私はこれまで何事もある程度うまくこなせてきたタイプなので、ある場所に置かれたら、そこで思い切り楽しめる自信があるし、枠をもらった方が自分を活用できると思っています」
※Life is Tech!:プログラミングやアプリ作成、デザイン、ゲーム開発などを学ぶ中高生のためのITキャンプ・スクール。
注目したいのは、同世代の友人からの助言で自分を生かせる枠と出合えたことだ。「高校生でもいろいろやっていいんだ」という肯定感を前提に、同じような意欲を持つ同世代が活躍している姿を見て自分の中で定義していた“高校生がやれること”という枠を飛び出し、羽ばたいた。
時として大人は、「高校生が活躍できる枠を用意してあげよう」と考えがちだ。実際きいなさんも「高校生でもやっていいんだ」と発言しているように、彼女の中にも“高校生”という枠があった。だが彼らには、時にもっと深く社会と関われて、さらに大きく羽ばたくための枠が必要だ。大人は彼らを規定することなく、可能性を広げる手助けをすることが重要なのである。
イラストレーション:川辺洋平
Findings②
求めるのは“否定”ではなく、“意見”をくれる大人
マイプロジェクトでは、協力してくれる大人を巻き込んで活動するプロジェクトも多い。「大人が高校生の活動に賛同してくれなかったり、否定されたりしたとき、どうする?」と聞いてみた。
「マイプロジェクトでは野菜を作るために畑を借りる必要があったので、母と一緒に農家さんに相談しにいったら、最初は私を見ることもなく母と話をしてて。『どうせただの高校生だろ』ってばかにされている感じがした。でも、私の話す番になって考えていることをきちんと伝えたら、ビビッときたようで。それですんなり借りることができた。
否定的な意見って、実は私は好きなんです。これまでの経験上、ただ褒めたたえる人は、ちゃんと私のやったことや内容を見てくれていない人が多かった。否定的な意見であっても、単にいじわるで言っているのか、プロジェクトをしっかり見て厳しい意見をくれたのかはちゃんと理解できるので。だから、厳しくてもいい意見を言ってくれた人と付き合っていきたい」
イマドキの若者は否定されることや叱られることに慣れていないなどとニュースでは言われている。だけど、彼らは大人からの否定や叱りの言葉が、本当に自分に向き合って出てきたかをしっかりと見ている。それを象徴するのは、きいなさんの、「どうせただの高校生だろってばかにされている感じがした」という言葉だ。
“自分”ではなく、“高校生”だからばかにされる、というのが嫌なのだ。“高校生”に対して向ける言葉ではなく、“私”という個人に対して誠実に向けられる言葉ならば、否定も意見になる。自分のことを思って意見をくれている大人には、彼女たちは誠実に向き合う。大人はつい“高校生”や“若者”とくくってしまいがちだが、自分の目の前にいる相手は一人一人異なる個人であることを意識する必要があるのだ。
イラストレーション:川辺洋平
Findings③
建前ではなく、本気で楽しむ大人が好き
きいなさんには、かっこいいと思える大人とそうでない大人に、明確な線引きがあることも分かった。
「尊敬している大人は、母です。『自分には学がないし、狭い環境でしか育ってないから』って、私や兄にはいろんな人に会わせてくれ、いろんなところに連れて行ってくれた。私の感覚を研ぎ澄ませてくれた人間力の大きな母を尊敬するし、何より母自身が(日々の生活を)一番楽しんでいる。
本当にかっこいい大人って、お金でも地位でもなくて、“その場所で最大限楽しめている人”だと思います。東京でリッチな生活をしている人にも会ったことはあるけど、山の中に住んでるおじさんの方が楽しそうに暮らしているし、かっこいいなって思います」
幼少期から祖母に付き添って地元の婦人会に参加していたきいなさん。夢は「婦人会に入ること」とも言っている。それは、婦人会に参加している人たちが楽しそうだったから。身近な大人たちが心から楽しんで活動している姿を間近に見てきた彼女だからこそ、本気で楽しんでいる大人に引かれるし、自分もやりたいと思った活動には本気で取り組み、本気で楽しんでいるのだ。
自分たちの姿が楽しそうかどうか、そんなことを子どもから見られていると意識できている大人はあまり多くないのではないだろうか。だが、確実に彼女は“ありのまま楽しそうに生きる大人”からいい影響を受けている。彼女の中に存在する“その場所で最大限楽しめている人”が本当にかっこいい大人、という意識からは、実はわれわれの方が学ぶことが多いのだ。子どもに見せても恥ずかしくない姿でいることの重要性を彼女は伝えてくれている。
まとめ
Findings を三つ紹介したが、今回見えてきたのは「前提となる価値観を簡単に壊してしまう新しい価値観の兆し」だ。
・高校生というのはこうあるべき、という先入観にも似た前提を、たった一人の同世代の一言で乗り越えてしまう軽やかさがある。
・単純に否定的な発言に反発するのでなく、否定であっても意見であれば自分にとって重要なもの、と判断できる。
・お金や地位のあることこそかっこいい、という価値観ではなく“楽しんでいるかどうか”という本質で人を判断できる。
こうした彼女の感性は、上の世代や社会がつくり上げてきた、さまざまな定説や前提をあっという間に崩し、これからの時代にあったカタチを柔軟に構築する手掛かりになるだろう。
大人が思い込んでしまったり、忘れてしまったりしている感覚をいとも簡単に超えてしまう18歳(=若者)たち。「18歳(若者)」との向き合いは、彼らを知るだけでなく、大人に気付きを与えてくれる。「Project18」では、引き続き18歳(若者)のリアルに迫っていく。