Experience Driven ShowcaseNo.74
ホラーで、世界の感情を揺さぶる:頓花聖太郎(前編)
2016/08/09
「会いたい人に、会いに行く!」第10弾は、ネットで大注目を集めているホラテク(ホラー×テクノロジー)のエンターテインメント制作会社、株式会社「闇」の頓花聖太郎さんに、電通イベント&スペース・デザイン局の笠井真里子が会いました。ホラー界のアンファン・テリブル(恐るべき子どもたち)、次々と斬新なホラー企画を生み出している謎の集団、株式会社「闇」の実態とは?
取材構成:金原亜紀 電通イベント&スペース・デザイン局
ホラテク(ホラー×テクノロジー)って、たとえばどんなこと?
笠井:京都精華大学で講演されたときの資料をネットで見て、お会いしたいなと思いました。
頓花:いやー、講演もしてみるものですね(笑)。京都精華大学ではデザインを教えているんです。
笠井:闇はどんな会社か、教えていただけますか。
頓花:ホラーとテクノロジーで新しい体験、「恐怖感動」をつくりたいなと考えて立ち上げた会社ですけれど、僕がすごいホラーが好きというところから始まりました。親会社もテクノロジーに特化した、ウェブとかアプリを制作している会社で、そもそもテクノロジーは基本的に魔法みたいな体験がつくれるし、意外とホラーとテクノロジーの組み合わせを専業にやっている会社はあまり見当たらなかった。そこを頑張れば1等賞を取れるんじゃないかなと思って、エイプリルフールに会社を立ち上げました(笑)。
笠井:きっかけは、会社の肝試しだったんですよね。
頓花:そうです。「ホラーをテクノロジーと組み合わせて売りましょう」と会社にずっとプレゼンしていたんですけれど、社内にホラーを好きな人が全然いなくて、「そんな気色悪いことしたくないよ、もっと夢とか売っていこうぜ」みたいな感じで(笑)、僕はアウェーだった。「みんな、ホラーの魅力に気づいてへんだけちゃうか?」ということで、和歌山に社員旅行へ行くときに部下をかき集めて、上層部の意識を変えるぞと(笑)。
その時点では普通の肝試しにテクノロジーを組み合わせるのも難しかったので、そこに謎解きの要素を足して、ウオークラリーじゃないですけど、スマホで指示される地点に行ったら、次々メールが届いて指令が来るみたいなシステムをつくって、謎を解いていくというホラーイベントを突貫でつくったらすごく受けました。
僕は元々の会社の事業としてやっていけたらいいなと思っていたのですが、その会社の仕事はスタイリッシュな業種や子ども向けの事業も扱っているんですね。そこにホラーが交ざるのはどうかと。ちゃんと表現のスタイルを切り分けるような見え方をした方がいいという判断で子会社になり、あれよあれよという間に今は独立採算を果たしました。
5万円でつくったイベントと熱意で、社長の気持ちが動いた
笠井:ちなみに、その肝試しイベントにはいくらぐらいかかったのですか。
頓花:いや、安かったですよ。多分5万かかってないと思う。人件費を考えたら、それは恐ろしいことになっていますけれど。関わった社員を全員寝かさないという(笑)、ブラックな地獄を社員に味わわせているので、慰謝料とか取られたらどうするかなという話ではあるのですが。基本的にはシステムをつくって、メールとウェブサイトとナビアプリの制作のみをやったという感じです。
笠井:じゃあ5万円と熱意だけで、会社を立ち上げたんですね。
頓花:そうです。こっちが本気を見せることで、社長も本気でやろうかという話になった。会社をつくるまでの苦労は実はあまりなくて、ただ、事業の一環としてやるつもりだったので、自分が社長になるとは思っていませんでした。それが大変だなと今は思っていますけど。
笠井:立ち上げの日から、いきなり仕事が来たんですよね。
頓花:そうです。開始1時間で来ましたね。
笠井:それはどういう宣伝の仕方をされたんですか。
頓花:株式会社「闇」のウェブサイトをつくって、サイト自体が結構インパクトあった。たまたま関西の知り合いの制作会社の人のところにお化け屋敷の相談が来ていて、そのタイミングでわれわれが立ち上げたサイトを見て、ホラー専門の会社だったら信用できると思ってもらえたみたいです。
笠井:検索で「株式会社」と探すと、「闇」は上位に出てきますね。
頓花:そうですね。グーグルでは、「株式会社」の検索で「闇」がレコメンドで出てくるので、ありがたいなと。ただ、全国の株式会社に迷惑をかけている(笑)。迷い込んでくる人も多いので、苦情も多いんですが。
笠井:苦情、多いんですか?
頓花:はい。主に男子中学生から、イタ電いっぱいかかってきます(笑)。肝試し的な感じなのかな。「この会社、本当にあるのかな?」みたいな。大体「あ、ほんまにあるわ!」と言ってブチッと切られるんです(笑)。
笠井:ピンポンダッシュ(笑)。
頓花:元々は親会社と同じ電話番号で共用してたんですが、いっぱいそんな電話がかかってくるから別回線にしました(笑)。
「ホラー」切り口なら、なんでも株式会社「闇」におまかせ
頓花:2015年4月に会社を立ち上げたのですが、会社の実体が分かりにくいというのもあるのかもしれないですけれど、ホラーの切り口ならどんな仕事でも飛んでくる。ホテルでホラールームをつくりたい、ホラーウェブサイトをつくりたい、ホラー謎解きさせたい、などなど。
脱毛サイトのプロモーションをホラーの切り口でとか。一方でイベントをやったりウェブサイトをつくったり、ストーリーを書いたり、使う筋肉がすごく幅広いんですね。ホラーというくくりは全部やらないといけないので、日々勉強中です。
笠井:どの案件も、何かしらテクノロジーは必ず関わっているんですか。
頓花:最近、テクノロジーですらない依頼も飛んできますよ。ホラーイベントのストーリーを書いてくれとか。
笠井:世の中には、そんなにホラーを売りにしている競合がないということですね。
頓花:まだ少ないんじゃないかな。ホラー業界が狭いのか、そのおかげで結構憧れの人と会えます。五味弘文さんというお化け屋敷プロデューサーがいるんですけれど、僕は神のようにあがめていたんですが一発目の仕事で会えて、「あっ、超高速で夢がかなった!」という。
笠井:梅田お化け屋敷ですね。
Jホラーには、インタラクションを引き出しテクノロジーを使う「間」がある
笠井:いろいろお仕事を見せていただくと、アメリカでよくあるようなスプラッターでバーン!みたいなものではなく、「闇」はいろいろ細やかな工夫をされていて、こだわりを感じました。
頓花:個人的には日本のホラーが好きなんです。もちろん洋画のホラーも好きですが、僕は和ホラー、Jホラーで育ってきたので。Jホラーはインタラクションとかテクノロジーが生きやすい。間や呼吸があるから。ちょっとずつ進むとか、ドアを開けるとか、そういう能動性が高いものに対してテクノロジーができることはいっぱいあるので、和ホラーとテクノロジーの相性はいいなと思っている。
笠井:いろんなものが向こうから来るというよりは、少し自分で何かアクションをして、来るな、来るな、来るな、やっぱり来たぁ、みたいなのがいいということですね。
頓花:そうなんです!
笠井:そもそもホラーを好きになったきっかけは何ですか。
頓花:もともと遊園地が大好きなんですが、僕はすごい田舎育ちだったんですね。だから、お化け屋敷って古い人形が並んでいて、出口でガスがバーッと出てくるぐらいの子どもだましなものしか見たことなかったんです。
大阪に来て「エキスポランド」というテーマパークの中で、「バイオハザード」をテーマにした、人が演じるタイプのお化け屋を体験したときに、同級生5~6人でギャーギャー言いながら、泣きそうになりながら走って出てきたんですが、出終わった後は全員で大爆笑して、すごく楽しい思い出になった。
ホラーって面白いんだと気づいて、そこからできるだけお化け屋敷を回るようになりました。
感情の揺れ、「すごく怖い」と「すごく安心する」、その落差が麻薬的に楽しくなってきたんです。でも僕は、基本はすごくビビりなんで、いまだにお化け屋敷は本当に怖いんですよ。
話題になるような、使える「ジェネレータ」をつくる
笠井:今年のエイプリルフールにやった、「応募者全員採用」も面白かった。
頓花:エイプリルフール用なので、ウソをつくツールをつくろうと。エイプリルフールって、企業がウソサイトつくるというのはいっぱいあるじゃないですか。違うアプローチとして「自分がウソをつけるツールを、つくってあげよう」と思ったんです。
株式会社「闇」に入社したといったら、その人の周りはびっくりするかなと。そう信じ込ませるようなジェネレーターをつくろうと思ったんですが、結構普通に応募が来ましたね(笑)。いまだにずっと応募が来るので、ちょっとややこしいことになっていますが(笑)。
※後編につづく