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【続】ろーかる・ぐるぐるNo.90

「思いつき」を育てる三つの視点~ぼくの商品開発コンサル術(後編)~

2016/09/01

人生の下り坂にいるからでしょうか。夏に向けてガンガン暑くなっても平気の平左なのですが、峠を越えて少しずつ涼しくなると、無性にさみしくなります。目にはさやかに見えねども、魚屋にサンマが並べば秋の気配。嗚呼、今年も残りわずかです。

商品開発コンサルティング 手順のフロー

さて、前回から2回シリーズでぼくが商品開発のコンサルティングをするときの手順について、お話ししています。ベースとなる原理と言うか、頭の使い方としては「ぐるぐる思考」なのですが、実際の手順は(おおよそ)「いまの言語化→ブレスト→十字フレームでの整理→具体策づくり→ブラッシュアップ」と進みます。ありとあらゆる可能性を考え尽くす「ブレスト」までお話ししたので、今回はその次から。

十字フレームでの整理

さて、ブレストで生まれるのは「こうすればうまくいんじゃないか?」という予感の数々です。その中から本当に機能するコンセプトを見つけ出すのがこの段階の目的です。そしてそのチェックは大きく三つの視点で行われます。それで本当にターゲットは動くのか? それでユニークな具体策はできるのか? そして、それで本当にビジョンは実現できるのか? です。十字フレーム

まず、「本当にターゲットは動くのか?」を検証するためには、クライアントの皆さんと一緒に「ターゲットはそれを買ってくれそうですか?」「なぜですか?」「これを買うと、他の何を買わなくなりそうですか?」という三つの質問を繰り返します。

たとえば「甘いものが苦手な男性向けに、日本酒を使ったパウンドケーキを売りたい」という思いつきがあったとします。提案者に「売れそうですか?」と聞くと、たいていみんな「ハイ」と答える。「なぜ?」と聞くと「お酒が好きな男性が多いから」となる。本人はいたってマジメなのでしょうが、正直、これはツッコミどころが満載です。「酒好きはケーキじゃなくて日本酒を欲しがるのでは?」なんて意地悪な質問を重ねることになります。
コンセプトを考えていると、ついつい自分の都合で架空のターゲットを描きがちですが、あくまでホンネで考えたいのです。「これを買うと、他の何を買わなくなりそうですか?」も同様。こう尋ねることで「消費」という行為を、より生々しく想定できます。

次に、「それでユニークな具体策はできるのか?」というのもコンセプトを洗い出すための重要な視点です。イノベーションを表すサーチライトの図を思い出していただければ明らかなように、新しいコンセプトはいままでの常識を覆す「新しい事実」を生み出します。新しい具体策を生まないのであれば、その思いつきは「フェイク。コンセプト」の類いということでしょう。大々的に製造ラインを動かしたり、大規模な商談を行わなくても、いままでとは違う何かが具体化しそうかどうか、(必要に応じてプロトタイプをつくりながら)理性でしっかり精査します。

最後の視点は「ビジョン」との関係です。ビジョンとは「単なるカネもうけを超えた基本的価値観と目的意識」のことですが、コンセプトがこの実現に向けてちゃんと貢献するかどうか、検証するのです。
言い方を変えると、これは「その企業らしい取り組みか?」という議論です。「いまある技術で比較的簡単につくれるから」「もうかりそうだから」ということだけではターゲットに底の浅さを見破られてしまいます。

こうして「思いつき」が十字フレームで整理されると「コンセプト」に昇格します。そしてその視点に従って、現実に商品づくりに取り組みます。主にクライアント社内で動いていたプロジェクトが一気に社外に拡大するので、メンバー全員が「コンセプト」という言葉を共有していることはとても強力な武器になります。

機能するコンセプト

ブラッシュアップ

広告キャンペーンづくりは(もちろん例外はありますが)一般的にトップヘビー、スタート重視です。これに比べて商品開発はいつまでも続く不断のプロセス、持久走。熱しやすく冷めやすいともいわれる広告業が商品開発に関わる場合には「立ち上げたら、おしまい」ではないと肝に銘じなければなりません。
実際、商品発売後にこそ、製造、販売、商品その他、数えきれないほどの課題が見つかります。それをチャンスととらえて、じっくり取り組みます。

以上、ぼくが経験する現場に共通する流れでした。「ぐるぐる思考」ほどの一般性はありませんが、リアルな姿です。ひとつご参考になれば、と思います。
それにしても、人に伝えることの、なんて難しいことでしょう! そのやりがいとストレスを抱えつつ、秋の夜長で肥える夜が続きます。

どうぞ、召し上がれ!