「言葉にできる」は武器になる。No.1
「言葉にできない」ことは、「考えていない」のと同じである。
2016/09/09
はじめまして、電通 プロモーション・デザイン局に所属する梅田悟司と申します。拙著『「言葉にできる」は武器になる。』が2016年8月29日に発売されました。発行元は、前書『企画者は3度たくらむ』と同様、日本経済新聞出版社です。
本書のテーマは、私の専門である「言葉」についてです。といっても、コピーライティングの本ではありません。自分の気持ちをいかに正しく言葉にするか、ひいては、いかに正しく考えるか、といった内容です。ウェブ電通報では、そのダイジェスト版とも言えるコラムの連載をさせていただきます。
言葉の役割とは?
「梅田さんは、どうやって伝わる言葉を生み出しているんですか?」
最近になって、このように聞かれることが多くなりました。そこで、なぜこうした質問をするのかを注意深く聞いてみると、多くの人が様々な場面で、言葉に関する課題を抱えていることが垣間見えてきます。
例えば、メール文章。私的なメールであれば、気の利いた返信ができない、文字だけでは気持ちまで表現できず、ニュアンスを伝えるのが難しいといった課題。ビジネスメールであれば、簡潔に書いたほうがいいことは理解しつつも、説明が増えて長文になってしまい、本当に書きたいことが分かりにくくなってしまったり。
会話で言えば、仕事やプライベートにかかわらず、自分の言いたいことが言葉にならない。相手に思いが届かず、理解を得られない、伝わっていない気がする。想定していない質問をされると言葉に詰まってしまう。会話が続かない、などが挙がります。
さらに最近は、SNSの投稿に、悩みを持っている人も多いように感じます。自分の書き込みに対して「いいね!」などの反応が薄く、もっと人を引きつける文章を書きたい、ブログへの集客を増やすために文章力を磨きたい、といったものも見られます。
このような悩みを聞いた上で、私は次のような質問するようにしています。
「言葉をコミュニケーションの道具としてしか、考えていないのではないですか?」
この問いに対して、目が「?」になる人が多いのですが、ハッとした表情をする人も少なからず存在します。そう、言葉にはもう一つ、大切な役割があるのです。
一般的に、言葉は自分の意見を伝え、相手の意見を聞くための道具とされています。こうした意見のキャッチボールのために言葉は用いられ、お互いの理解を深めていくことが可能になることは言うまでもありません。
ここで考えを一歩先へ進めてみると、次のような疑問にたどりつかないでしょうか。
「言葉が意見を伝える道具ならば、まず、意見を育てる必要があるのではないか?」
冒頭の質問に対する私なりの答えは、ここにあります。
「伝わる言葉」を生み出すためには、自分の意見を育てるプロセスこそが重要であり、その役割をも言葉が担っている、というものです。
自身の経験を思い出していただければ分かりやすいのですが、人は多くの場合、言語は違えども、言葉で疑問を持ち、言葉で考え、言葉で納得できる答えを導き出そうとしています。言い換えるならば、自分という存在や自分の考え、価値観と向き合い、深く思考していく役割も、言葉が担っているのです。もしかしたら今も「そうか」「確かに」と思いながら、頭の中で表に出ない言葉を発していたのではないでしょうか。
その頭の中に生まれた言葉こそが「内なる言葉」です。
言葉は思考の上澄みに過ぎない。
言葉には「外に向かう言葉」と「内なる言葉」が存在しています。しかしながら、大半の人はコミュニケーションを取るための「外に向かう言葉」しか意識することなく、言葉を磨く=テクニックやスキルを学ぶ、となってしまいます。
本当に大切なのは「内なる言葉」と向き合い、「内なる言葉」の解像度を上げること。
その理由は、至ってシンプルです。
「言葉は思考の上澄みに過ぎない」
考えていないことは口にできませんし、不意を突かれて発言をする時、何も答えられなかったり、自分の考えを伝えられず誤解が生じてしまうこともあります。つまり、言葉にできないことは、考えていないのと同じなのです。
ここで、私が抱いているのは、世の中の風潮として、コミュニケーションの道具としての「外に向かう言葉」の比重が高まり過ぎている、という危惧です。
書店には、伝え方を高めたり、雑談を続けるためのスキルを語る書籍が並び、セミナーや講演も同様のテーマであふれています。日々の会話力や雑談力を高めたい人にとっては、喉から手が出るほど欲しい情報だとは思うのですが…。
その一方で、これらのスキルを得た人は、一体どれだけ実行できるようになったのでしょうか? 「理解はできたが、実践できない」というジレンマを感じている方も多いのではないでしょうか? もしくは実践しているものの、言葉と頭の中で考えていることが一致しておらず、違和感を覚えている人もいるかもしれません。
このコラムをお読みいただいている方の中にも、上記のような体験や悩みを持っている人が少なからずいらっしゃると思います。
しかし、こうした現象が起きるのは、理解不足でも対人能力が低いからでもありません。ここまでお読みになっている方であれば、もうお分かりのはずです。
「思考の深化なくして、言葉だけを成長させることはできない」
私がコピーライターとして行っているのも「人が感心することを書く」「耳なじみのいい言葉を生み出す」「モノは言いようで、製品やサービスを良く見せる」といったことではありません。実際に行っていることは、一人で考え、チームで議論し、その結果に言葉という形を与えているのです。言葉を生み出す前には、必ず思考や考えを深めるプロセスが存在しています。
この連載を通して「内なる言葉で思考を深め、外に向かう言葉に変換する」といった流れを理解していただければ幸いです。そうすれば、きっと、一生モノの「言葉にできる力」を手にするきっかけを得ることができるようになるはずです。
私はコピーライターですが、理系一辺倒で、さほどの読書経験もありません。しかしながら、広告キャンペーンやコミュニケーションのコンセプトを「言葉」で規定することをなりわいとしています。そんな私がどのように思考を深め、強い言葉を生み出しているかを追体験していただけるよう、言葉を紡いでいきたいと思います。