「俺、いけるかも」若手に必要な思い込みの力とは?
2016/09/15
コピーライター阿部広太郎の書籍『待っていても、はじまらない。―潔く前に進め』(弘文堂)が刊行されました。本書では、各業界で活躍する同世代の6人に、「自分の道の見つけ方」を聞いています。
今回紹介するのは、その中の一人である作家の白岩玄さん。白岩さんはどうやって自分の道を切り開いたのでしょうか―。 仕事で迷ったり、もやもやしたりもする。それでも自分らしく働いていきたいと願う全ての人に、潔く前に進むためのヒントをお伝えします。
白岩さんは、「野ブタ。をプロデュース」で第41回文藝賞を受賞し、デビュー。最近では、「R30の欲望スイッチ」(宣伝会議)、「ヒーロー!」(河出書房新社)などを発表されています。白岩さんから話を伺って見えてきた潔く前に進むための3カ条はこちらです。
根拠のない自信を大切にする。
まず、「自信」とは何でしょうか。「自分を信じる」ことこそが自信であると、よく言われます。もっと踏み込んで考えると、それは「前向きな思い込み」なのかもしれないと思います。
では、「根拠のない」とは何でしょうか。「根拠のある」とは、目に見えて確認できるもの。人によっては学歴だったり、はたまた業績や賞歴だったり。目に見えて確認できる分、誰かと比べられる相対的なものともいえます。そこから自信を手に入れることは、それはそれでとても大切なものだと思います。ただ、時代が激しく変化している分、評価は移ろいやすく、根拠のある自信は崩れてしまうことがある。
だからこそ、「根拠のない自信」はもっと強い。目には見えないけれど自分の中にある絶対的なもの。根拠のない前向きな思い込み、それは「意志」といえるかもしれません。
そんな根拠のない自信の持つ強さを、白岩さんは教えてくれています。文章を書き始めた最初のきっかけは、「俺って文章書かせたら面白いんじゃないか」という根拠のない自信を抱いた高校生の時だったそうです。
卒業後、留学先で家族宛てに旅行記をレポート用紙20〜30枚書く。両親に褒められて、次の旅行ではさらに小説スタイルで手書きの文庫本にしてみる。そうして根拠のない自信をどんどん高め、ついには文学賞に出すしかないと思って頑張って毎日、毎日、書き続けた。そこから「野ブタ。をプロデュース」での作家デビューにつながったのだと。
なんだかできる気がする、誰の中にもそんな気持ちが芽生える瞬間はあると思います。その自分を信じて、気持ちを逃さずに、突っ込んでみると、開かれていくものがきっとあります。
プロになるための努力を続ける。
プロフェッショナルとは何か? その定義は、人の数だけあるように思います。そのひとつの定義として、プロとは、「自分の技術を持っている人」といえるかもしれません。
白岩さんから伺った話を引用します。
「プロになってからプロになったというか、プロになるための努力をしたんです(笑)。(中略)知れば知るほど難しくなって、書けても、次はまた違うことを書きたくなる。そしたらまた0からスタート。書く技術は自作するしかないし、他人の技術を使えば、ばれちゃうんです」
何かのプロになりたいと思った時に、スタート地点はゼロです。そこから優れた仕事や作品の事例を浴びるように吸収していく。ただそれをコピーするだけでは、自分がつくるものにはなり得ません。吸収する時点から意識を変えていく必要があります。
圧倒的に素晴らしい仕事を見た時に、天を仰ぎたくなる気持ちをぐっとこらえる。プロであるからには、その仕事をした人と同じ土俵にいます。その素晴らしさの中に、何とかして「自分ならこうする」のかけらを見いだしていく。そうした時どうなるかを想像してみる。本音で話せる人に伝えてみて、素直な感想をもらう。そして、自分が今、取り組んでいる仕事に生かせるか模索してみる。
その繰り返しで、自分の技術を育てていく。「技術」というと難しい印象を受けてしまいますが、「自分ならこうする」をあらゆる場面で持っている人が、プロなのだと思います。そしてそれは、肩書を手に入れて、プロになったから終わるものではありません。時代が変わっていく中で、プロでいることは、「自分ならこうする」を編み出し続けるということです。変わり続けるからこそ、いつまでも変わらずにいられるのだと思いました。
時代を捉えて自分の役割を見つける。
2016年、現在。今はどんな時代でしょうか? 時代の流れを捉えて、その流れに乗っていくのか、はたまた、潮目を変えるカウンターを目指すのか。考えることで、自分の役割を見いだしやすくなることもあると思います。
白岩さんとは、「男性の生き方」を問い直す必要がある時代という話をしました。「昔は、男性には戦争に行くという役目があった。それが企業戦士というかたちに変わっていく。(中略)(今は)戦いに行く場所がなくなって、自分自身が敵みたいになってしまっている」と。
昔のように一つのお手本やロールモデルがあるわけではなく、価値観の多様化のせいもあって、「あんな人になりたい」という誰もがイメージする男性像というものが成立しにくくなっている、そんな時代。白岩さんはそんな今だからこそ、小説として、新しい時代の中で自立する男性の姿を形として見せていきたいと話してくださいました。
時代観については、もちろん人それぞれに興味関心のある分野があると思いますし、人によって捉え方も変わってくると思います。ただ、時代の流れを読んで、今の世の中にないポジションに身を置くことは、間違いなく誰かに必要とされることだと思います。そこで成果を出せれば、時代の流れが変わって救われる人だっているかもしれません。
いかがでしたでしょうか? 白岩さんは根拠のない自信を大切にしながら、一歩二歩と踏み出し、その過程でプロとしての在り方を模索し、時代における自分の役割を見いだしていました。皆さんも、自分の仕事がどんな役割を担っているのか一度考えてみることで、世界がすこし開けるかもしれません。
白岩さんご本人の言葉による思いは、ぜひ本書で感じてもらえたらと思います。次回は、映画監督の松居大悟さんとの対談から見えてきた潔く前に進むための3カ条です。