Synapse×電通報No.1
誰にも「絶対に負けられない戦い」がある
2016/09/29
テレビ朝日×企業による「絶対に負けられないミサンガプロジェクト」が社会的ムーブメントに
『Synapse』9月号(9月25日発行)に掲載された「Challenge to THE NEW VALUE OF TV/ RADIO」特集の一部を公開。
テレビ朝日が中継するサッカー日本代表のコピーとして広く知られる「絶対に負けられない戦いが、そこにはある」。この言葉をキーとするコラボレーションキャンペーンとして展開されたのが、「誰にも負けられないミサンガプロジェクト」だ。参加者は1カ月で約15万人を超え、社会的ムーブメントをつくりあげた。プロジェクトに関わったテレビ朝日の加藤暁史氏、クロススポーツマーケティングの中村考昭氏、電通の服部展明氏・川﨑寛氏を迎え、雑誌『シナプス』編集部の青山隆一氏がその施策の裏側に迫る。
テレビ朝日サッカー中継発の“あの言葉”でスポーツすべてを盛り上げる。
青山:「中村さんは、クロススポーツマーケティングでゼビオのプロモーションなどを手掛けられていますが、小売以外でも注力しておられる領域はあるのでしょうか?」
中村:「スポーツ施設の運営をはじめ、プロスポーツクラブの経営や、プロリーグの運営にも携わっています。例えばプロスポーツクラブですと、東京ヴェルディ1969が経営破綻したときに、社外取締役として入って再生支援をしました。約4億円の赤字から始まり、約6年で黒字化しています。現在の取り組みの軸としては、スポーツ・エンターテインメントの価値をつくるということです。かつてスポーツ小売業は、テレビ局やメーカー、スポーツ団体が活性化させてきた種目や競技のなかで商品を売ってきました。端的に言えば“利益を拾わせていただいていた”んですよね。でも、今みたいにいろいろなエンターテインメントが出てきて、また余暇の過ごし方が多様化し、少子高齢化が進んでいくなかでは、単に“モノを売って終わる”だけでは良くないのではないかと考え始めたんです。消費者や社会にとってのスポーツの価値を上げ、自ら市場を盛り上げて、結果、自分たちが生きるフィールドも大きくするという両輪でやっていきたいと考えています」
青山:「そんななかで、テレビ朝日とのコラボが始まったわけですね」
加藤:「もともと、テレビ朝日では『絶対に負けられない戦いが、そこにはある』というコピーをサッカー日本代表の中継時に使っていたのですが、実はこの言葉はいろいろなシーンに当てはまるのでは?とずっと思っていたんです。この言葉をもっと多くの方々に知ってもらうことで、最終的には今年9月からのW杯アジア最終予選を通して、日本中がひとつになって盛り上がればいいなと考えたんです」
青山:「このコピーはかなり長い間、使われてますよね」
加藤:「最初は2001年、テレビ朝日がAFC(アジアサッカー連盟)の放送権を獲得した時に生まれました。当時、日本は1回しかW杯アジア最終予選を突破したことがなかったですし、オリンピックもアトランタ大会で久々に予選を突破したという状況でした。アジアのなかでも確固たる地位を築かないと、世界に打って出ることなんてできないという思いから、この言葉が生まれたと聞いています。このフレーズを聞くと“テレビ朝日が中継するサッカー日本代表の試合なんだ”という言葉にしたかったということですね」
青山:「ゼビオさんとしては、今回のコラボはどのように始まっていったのでしょうか?」
中村:「『絶対に負けられない〜』はみんな知っているものの、“サッカー中継の宣伝文句”なんだろうなと思っていました。でも今回、はじめに電通から、“そもそもサッカー文脈であるこの言葉を、より多くのスポーツに広げていって、社会全般に意味のある言葉に深めていこう”とご提案いただいたんです。先ほど申し上げた、スポーツの価値を上げていこうという当社の想いのそばに『絶対に負けられない〜』という言葉があって、それがテレビ朝日とのプロジェクトを通してサッカーだけでなく、他のスポーツ、そして社会全体にも広がっていく。そんなムーブメントをつくり出すことが一緒にできれば、当社にとって非常に意義があると思いました」
単なるPRではなく、メッセージを我がごととしてもらうために。
青山:「このコラボに至るまでに、電通のCP6部はどのような動きをなさったのでしょうか?」
川﨑:「まず、ゼビオさんが2016年度の目標を立てられて、その目標達成のために新規のお客さんにより多くご来店していただきたいという課題がありました。一方で、テレビ朝日からは今年『絶対に負けられない〜』というコンセプトフレームでスポーツをより盛り上げたいご相談もいただいていましたので、これは融合できるんじゃないかと思ったんです。そこでゼビオさんへ、テレビ朝日とスポーツ振興のテーマのもとで社会的ムーブメントをおこすコラボキャンペーンをつくりましょうとご提案して、そこに共感いただいたのではないかと思っています」
青山:「どういう流れで“ミサンガ”という形に結実したのでしょうか?」
加藤:「ミサンガはサッカーと縁が深く、みんなの思いがひとつになりやすいものとしていいね、ということで話がすんなりまとまりました」
青山:「ミサンガの告知はどうされていますか?」
中村:「大きくは3つです。まずテレビ朝日のテレビでの発信力。一気に日本中に広まるメディア展開です。そして、全国約160店舗の『スーパースポーツゼビオ』で年間にレジを通過するお客さんが約3200万人。こちらは当社が直接のコンタクトポイントを持っています。さらに、それらをつなぐのがデジタル。テレビ朝日には可能な範囲でプロジェクトサイトを展開していただいて、弊社は小売業としてそれぞれを連携させるという建てつけで考えています」
青山:「苦労しておられることはありますか?」
加藤:「このコピーを一人一人の生活者に自分ごと化としてもらうためのスイッチをどう押せるかですね。単純にテレビの発信力を使ってPRを流せばいいということではなく、視聴者の方にとって何かしらの行動の動機につながるようにすることが大事で、それが最大の課題です。『みんなで応援しよう』なのか、『みんなの“絶対に負けられない”を聞かせてください』なのか……そのスイッチを押すためのメッセージをどう発信していくのか。今は“一体感”がキーになるような気がしています。『みんなで盛り上がりたい』『みんなとつながっていたい』といった感覚が今の日本の人たちにはあるように感じるので」
中村:「当社の売り場でミサンガを買って下さったお客さまの声を聞いていると、まさに“一体感を持って応援したい”という気持ちが強い。例えば、甲子園に出る選手の保護者や応援団がまとめ買いしたりするようなことが実際に起き始めています。サッカーのインターハイなどはもちろんのこと、スポーツ以外では受験などでも。自分だけが頑張る、負けられないというのでなくて、周りで応援している人たちが、試合の場には立たないけど、一緒に応援したいっていう思いでミサンガをつけたり、試合や受験に赴くわが子に送ったり。ハッシュタグでミサンガに関するツイート量で見ていても、ふつふつと増加してきている状況で、このコラボの手応えを感じているところです」
ムーブメントをつくる時、何を重視するのか。
青山:「服部さんはCP6部を束ねる立場として、今回のコラボについて、どんなことを感じながら業務に携わられていますか?」
服部:「CP6部のひとつのミッションは、放送局というわれわれにとって非常に重要なパートナーが持っている力を最大化して、クライアントへのソリューションに転化していこうというものです。枠の提供だけでなく、もともと放送局さんが持っているパワーやリソースをすべてソリューションに変えてご提供する。その大きなチャレンジが、今回のゼビオさんとテレビ朝日さんの取組で、ひとつかなって良かったなと思っています。一方で、このようなチャレンジをする以上は、そのPDCAが非常に重要です。これまではGRPとかリーチ、認知率の話だけで済んでいた部分が大きかったかもしれませんが、よりゴールに近い具体的な数値をKPIにして、そこにわれわれCP6部もコミットメントしないと、最終的に何が残ったのか曖昧になってしまいます。そこまで踏み込まないと、当社としての最終的な仕事は完結しないと考えています」
川﨑:「今回のテレビ朝日、ゼビオのように、ある種の社会的なムーブメントを起こそうとするにはコンテキストが大事なんだと思います。今回のコラボはテレビ朝日ご自身、ゼビオご自身、それぞれにとってのキャンペーンであり、同時に社会的なキャンペーンでもあります。当然、『絶対に負けられない〜』というコピーがその中心にあるわけですが、そこにプラスしてコンテキストがないと、各社の各部署はもちろん、別々の企業体が同じ方向を向くことなんてできない。そういうコンテキストをゼビオもテレビ朝日も最初に見つけられたっていうことが大きかったと思います。また、今回のコラボのためにテレビ朝日がすごくいいチームを組んでくださいました。それだけに、最終的に関わったみなさまにメリットがあって、目標も達成しましたというところまで持っていかないといけないと強く感じています」
青山:「良いチームづくりにはどんなことが必要でしょうか?」
加藤:「当社にはもともと、大きなスポーツ物件に関しては縦割りではなく各部署が垣根を越えて集うプロジェクトで物事を決め、横断的なつながりでやっていこうという仕組みがあります。そして、みんなでプロジェクトを盛り上げる時って、一人一人が宣伝マンで、誰に聞いても熱い想いを語れるようにならなければダメだと言っています。今回の取り組みは思いのある宣伝マンが何人もいて、そこに『面白いね!』といろいろな人たちがどんどん乗っかってきてくれています。縦割り発想じゃない風土が、今までやってきたスポーツプロジェクトのなかで育まれてきたっていうのはあるのかもしれないですね」
中村:「実際、週2回くらいの頻度でミーティングさせていただいていて、その場の話題に出た件が翌日には動き出していることが多いんです。そのチームプレーとスピード感をいつも強く感じていて、当社としては本当にありがたく思っています」
服部:「今のお話はわれわれのような仕事に従事している者にとっての原点かもしれないですね。本来ムーブメントをつくることさえできれば、関係者みんながハッピーなわけです。そして、なぜムーブメントになるかっていうと、それはみんなが乗りたいと思うものがそこにあるからであって、決して無理矢理やらせられるわけではない。僕らは広告屋なので、改めてそこが大事なんだなとすごく感じます。広告という行為は無理矢理何かを打ち出すのではなく、こういうものがあるといいよね、って多くの人が思うムーブメントをつくることであって、それこそが本来のコミュニケーションだと思うんですよね」
これからのテレビのあり方。横のつながりの重要性。
青山:「改めて感じることですが、“言葉の力”って大きいですね」
加藤:「先ほど甲子園の話が出ましたが、このフレーズはいろいろなスポーツにあてはめることができます。そして、選手だけでなく、その家族、親戚、友達がミサンガを巻いて応援している。それを見たディレクターが『ここでも絶対に負けられない戦い……』とSNSで発信したり。このミサンガプロジェクトをより多くの人に知ってもらいたいという熱意を持って取り組むというか、そういうところからもできますよね」
中村:「それだけ言葉に力があって普遍的で、どんなシーンのどんな人にとってもすんなり入ってくる。スポーツの世界に限らず、サラリーマンや学生にだって絶対に負けられない時は必ずあって、非常に納得感があるというか。そういうベースの部分があったからこそ実現できたコラボだと今は感じていますね」
服部:「テレビ朝日というフィールド全部を使えるとなったら、われわれにとってはものすごい武器になるし、それらを駆使したソリューションができるようになれば、クライアントさんのコミュニケーションも変わってくると思います。放送局が持つあらゆるコンテンツやコンテキストに乗っかった時のソリューションパワーってものすごいんですよ。こういう取り組みをご一緒できるようになれば、クライアントさんにもより貢献できるようになってくるし、結果として僕らの価値もより上がっていく。この正の循環をもっとつくっていきたいですね」
■コンセプト
テレビとメディアを応援する雑誌
■発行元
株式会社ビデオリサーチ
■発刊サイクル
季刊誌。3月、6月、9月、12月の年4回発行
■価格
980円(税込)