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Synapse×電通報No.2

放送局がつくる地域ムーブメント

2016/10/04

テレビ山梨の新たなVI制作。それは、社内ポテンシャルの向上、さらには県民も巻き込んでいく

 

『Synapse』9月号(9月25日発行)に掲載された「Challenge to THE NEW VALUE OF TV/ RADIO」特集の一部を公開。

Uワク♡UTY 壁の向こうを覗き込んでいる姿で、誘惑感を醸成すると共に、世代を超えて家族全員が楽しめるメッセージを込めた。
Uワク♡UTY
壁の向こうを覗き込んでいる姿で、誘惑感を醸成すると共に、世代を超えて家族全員が楽しめるメッセージを込めた。
 

昨年7月に電通のラジオテレビ局内に設置された「CP6部」。放送局とタッグを組み、社員の意識・行動の変革はもちろん、放送局としての価値向上、さらには地域ムーブメントをつくりだしている。テレビ山梨では、VI(ビジュアル・アイデンティティー)、スローガン、ステートメントの制作を担当。それにより放送局のポテンシャルはどう変わり、どう県民を巻き込んでいったのか。雑誌『シナプス』編集部の青山隆一氏が、テレビ山梨の水石和仁氏、電通の服部展明氏に聞く。

(左から)青山 隆一氏、服部 展明氏、水石 和仁氏
 

改めて、自分たちの価値を見つめなおす。そこから新VIプロジェクトは始まった。

 

青山:「そもそも、テレビ山梨(以下、UTV)と電通CP6部の出会いの経緯はどういったものだったのでしょうか」

水石:「昨年1月に山梨地区のステーションイメージ調査を実施したのですが、弊社にとって芳しくない結果だったんです。そこから危機感が生まれて『ブランディングを行うセクションをつくろう』という話が持ち上がり、現在のクロスメディア・PR戦略室が設置されて私が室長に就任しました。しかし、部署をつくってみたものの、ブランディングについては右も左も分からない状態です。そこで東京支社にも相談して、まずは専門家の方のお話を聞かなければということで、電通に相談することになりました。電通からは2つの大事な話をしていただきました。1つは『キャッチコピーやロゴマーク、スポットCMをつくるだけがブランディングではない』ということ。もう1つは『一部のセクションだけがブランディングを声高に叫んでも、会社全体が同じ方向を向かなかったら失敗する』ということでした。非常にもっともなお話で、それを持ち帰りまして、すぐにブランディングの基本計画を考えることにしました。その際に、クロスメディア・PR戦略室だけが手掛けるのではなく、社員を巻き込もうということになったんです。まず、コアターゲットを30~50代の女性と策定し、その年齢に合致する女性社員を集めて、彼女たちの意見を聞くことから始めました」

青山:「最も身近なコアターゲットですね」

水石氏
水石氏
 

水石:「そうなんです。暮らしぶりや今欲しいものといった質問から始まり、テレビに何を求めているかなどをリサーチしました。最初の対象は社員だけでしたが、彼女たち自身がターゲットに該当する友人や親戚にも調査の輪を広げてくれて、潜在的なニーズをかなり具体的に把握することができました。その後は、彼女たちに抱いてもらうべきUTYのイメージをあぶり出すために、消費者向けのグループインタビューを実施するなどしながら、ブランディングの基本路線を少しずつ整理していきました」

青山:「基本路線の概略を教えていただけますか?」

水石:「ひと言で言うと“UTYを見ると何かが広がる”です。当社のさまざまな活動に“広がりを持たせる”ことを目標に、ブランディング活動を推進していく。ただ、この時点ではゴールは見えたのですが、スタートの切り方が分からない状態でした」

共にコンテンツをつくる立場だから協力すれば、絶対に面白くなる。

 

青山:「そこからCP6部とのやりとりに入ったのですね。UTYからブランディングについての相談を聞いた時、服部さんはどんなことをお感じになりましたか?」

服部:「まずCP6部としては、ミッションのひとつとして、“放送局の価値向上に貢献する”という大きなテーマを掲げていました。ですから、さっそくUTYからご相談を頂いた時は、気合が入りましたね。VI制作やブランディングは、ある意味僕らの得意分野です。ただ、先ほどの水石さんのお話にありましたように、ブランディングの本質は一部のセクションだけでやるものではなく、社員一人一人がやるもの。実際、ブランディングにおいて、VIや広告などのアウトプットだけで変えられることは、それほど多くありません。そのため、今回のVI制作にあたっては、それがいかにUTYの社員一人一人のエンジンになって、UTYの価値がどう高まっていくのか、を常に意識しながら進めていきました」

青山:「服部さんたちの得意分野ではあるものの、一方でこのお仕事の難しさはありましたか?」

服部:「アウトプットに対する目が非常に厳しいことは意識していました。というのも、コピーにしてもビジュアルにしても、放送局さんも日々つくっておられるわけで、それはすごく緊張しましたね。どうすれば期待されているハードルを越えられるかにチャレンジしたいと思いましたし、必死に考えました。一方で、共にコンテンツをつくっている放送局と僕らとが同じ意志を持って、同じゴールに向かって協力して動くことができれば、爆発力はあるはずだし、絶対に面白くなるという確信もありました」

青山:「ご提案に至るまでの考え方や業務の流れなどをお聞かせください」

服部氏
服部氏
 

服部:「UTYからの依頼は、VIとスローガン、ステートメントを制作してほしいというものでした。当然それらはつくるのですが、VIなどが変わることで『今後のUTYさんの何がどう変わっていくのか』という道筋をつくることこそが本当の意味での仕事だと考えました。つまり、それらが世の中に打ち出されると、番組づくりがどう変わるのか、社員のみなさんの意識・行動がどう変わるのか、あるいは、UTYの山梨県における印象がどう変わるのか。そしてその先には、UTYさんの価値がどう高まっていくのか。ただロゴをつくるのではなく、そこまでイメージできる提案をしようと考えたわけです。そういう考えのもとに出した何十案のなかから、VIやスローガンを見たり、聞いたりした時に“あ、明日からちょっと違う動きをしてみよう”と思えるような、力強さとチャーミングさがあるものが生き残ったんです」

課題に応じて最適な社内スタッフィングができることも、CP6部の強み。

 

青山:「最終的にコピーを『Uワク♡UTY』に決められた理由を教えてください」

水石:「電通さんから3案ご提案いただいたのですが、どれも良かったんです。ならば、うちの会社にないものということで、現在の当社のイメージから一番遠いものを選ぼうと思いました」

青山:「現在のUTYさんのイメージというのは、どういうものなのでしょうか?」

水石:「どちらかというと、真面目で控えめでおとなしい。また、アクセルを踏む場面があまりなくて、ブレーキをかける場面が多いため、必然的にそのかけ方は上手といったところでしょうか(笑)」

青山:「この壁の向こうを覗いているグラフィックは、どのように生まれたのでしょうか?」

服部:「コピーは『Uワク♡UTY』でOKをいただいたので、グラフィックもその流れでアートディレクターに進めてもらいました。今回の作業で非常に重要だったのは、山梨県出身のアートディレクターをアサインできたことです。子供の頃からUTYに触れてきたことで、UTYの存在感や山梨県の県民性などが肌感覚で分かっています。やっぱり、肌感が分かっている人間が言うことがいちばん正しいと思うんですよね。このアサインに成功したことが、うまく進んだ最大の要因かもしれないと思うほどです。われわれCP6部の強みのひとつは、案件に応じて最適な社内スタッフィングができることですから、その人選ができたことは本当に良かったと思います。この覗き込んでいる姿が、誘惑感をうまく出していると思いません?(笑)また、世代を超えて家族全員が楽しめるといったメッセージも込めています」

UTYの新ステートメント ・そのテレビは、奥さんをとりこにするか。 ・そのテレビは、勇気は沸くか。 ・そのテレビは、山梨をワクワクさせるか。 など、計12個の判断基準から構成される。
・そのテレビは、奥さんをとりこにするか。
・そのテレビは、勇気は沸くか。
・そのテレビは、山梨をワクワクさせるか。
など、計13個の判断基準から構成される。
 

青山:「VIやスローガンなど、すべてが出そろって、社員の方々の気持ちに変化はありましたか?」

水石:「対外的なリリースは3月28日でしたが、社員には弊社の創立記念日である2月8日に発表しました。先ほども申し上げましたが、あえてうちの会社のイメージからいちばん遠いものを選んだので、これから何かが変わるのではないかという期待感を持ってくれたと思います。あとは、仕事で迷うことがあったらステートメントに立ち返ろうという話もしましたね。リリースに合わせてはノベルティをつくったのですが、社員が率先して配ってくれてすぐになくなってしまいました。自分たちの会社を売り込もう、もっと露出しようという気持ちが早速出てきたのだと思います」

青山:「ノベルティー以外で、どのようなところでVIを活用しておられるのでしょうか?」

水石:「HPもVIのピンクに統一しました。また地元のJリーグチーム、ヴァンフォーレ甲府のピッチ看板には『Uワク♡UTY』の文字を使用。さらに、ホームスタジアムで観客が人文字をつくる紙の裏側(自分側)には、家族が壁の穴を覗いているグラフィックを印刷しました。他には、地元のイオンモールに覗き壁のパネルを設置しました」

服部:「こういった広がりが生まれていくのは、地元に密着しているローカル局さんならではですよね」

水石:「この秋には、女性のための無料講演会とマルシェを開催します。その名称も『Uワク♡講演会』と『Uワク♡マルシェ』です。これも、女性社員がたくさん声を上げてくれました。こういった活動が出てきたという部分でも少しずつ変化を実感していますね」

服部:「また、次の展開としては『Uワク♡チューブ』という、視聴者が撮影したUワク動画をアップできる仕掛けも考えています」

水石:「これも県民を巻き込んでできれば、とても面白いと思います」

服部:「活動の幅はいろいろと広げていけると考えています。放送局さんの強みは、何といっても自らコンテンツをつくれることです。こちらからアイディアを出すと、ご自身ですぐ形にしてくださるので、発展的に仕掛けていくことができて、非常にやり甲斐がありますね。冒頭にも申し上げましたが、CP6部の重要なミッションは、放送局の価値を上げていくこと。放送局の価値が上がれば、そこから新たなビジネスが発展する可能性があり、最終的には当社としての価値も上がることにつながっていくと信じています」

もっと“誘惑”することでテレビに振り返ってもらう。

青山氏
青山氏
 

青山:「シンクタンクにもおられた水石さんは、現在のテレビの状況をどのように分析されていますか?」

水石:「ネットメディアの浸透とともに、多くの人が自分の興味がある情報にしかアクセスしない、あるいは自分に都合のいい情報しか発信していかない社会が近づいてきていることに怖さを感じます。一見は多様化しているようにも感じられますが、自分の好きな情報しか摂取していないので、個々人としては実は多様化していないのではないでしょうか。ひとつの考え方に染まると、徐々に自分と異なる考えの相手を排除したり、攻撃したりするようになるのは、歴史も証明しています。そんな社会にならないためにも、テレビは踏ん張って、少数意見を知ってもらうための仕掛けもしていかなくてはいけません。そのためには、まずはテレビに振り返ってもらわないと。だからこそ『Uワク♡UTV』で、もっと“誘惑”していきたいですね」

青山:「服部さんは、今回のお仕事を通じてどのようなことを感じられましたか?」

服部:「今回は、放送局の取り組みそのものをデザインしたわけですが、そのダイナミックさに別の思いを持ちました。放送局というエンジンを中心に置いた時に、ひとつの大きなムーブメントをつくり出し、それをソリューションとして提供すれば、新たなビジネスができるのではないか?と。ムーブメントをつくり出せれば、いろんなクライアントにご一緒しませんか?とお声掛けできますからね。そのためには、番組だけではなく、リアルなコンタクトポイントも必要になります。今回で言えば、Jリーグのホームスタジアムやイオンモールなどです。通常、こういった場所でソリューションを展開しようとすると、大変な手間がかかります。しかし、地域に密着しているローカル局であれば、一発でクリアできる。これは、ローカルだからこそできる手法だし、県民のマインドがある一定方向に向いているから情報発信しやすいという面もあります。そして、そのような主要コンタクトポイントを網羅して広がりのある施策を打つためには、ひとつの概念やかけ声があるとやりやすくなるわけです。それをつくるのが、クリエーティブのできることであって、僕らがやるべきことは、こういった新しい法則や新しい売り方を見つけ出すことだと再確認できて、とても貴重な機会となりましたね」

■コンセプト
テレビとメディアを応援する雑誌
■発行元
株式会社ビデオリサーチ
■発刊サイクル
季刊誌。3月、6月、9月、12月の年4回発行
■価格
980円(税込)