コミュニケーション・ショーケースNo.1
見えない電気を可視化する?
パナソニック「Life is electric」
2016/11/04
カンヌでも絶賛、斬新でキュートな見え方のプロジェクトとは
現代社会において電気の重要さは、改めて言うまでもありません。ただ、電気がもたらす便利さや楽しさ、心地よさはイメージできても、電気そのもののイメージはいまひとつ像を結びづらい。なんとなく地味というか、あくまでも縁の下の力持ちといった感じがします。
そんな状況下にあえて、「見えない電気に姿を与えるプロジェクト」をコンセプトに展開したパナソニックのキャンペーンがあります。
「エネループ」という製品をご存知でしょうか。パナソニックが製造・販売している、繰り返し充電が可能なニッケル水素電池です。
「Life is electric」は、この製品の特徴を生かして、電気を可視化しようとする試みでした。
例えば、ハムスター6匹で3台の回し車を回転させ、実働60分間充電した「ハムスターのかわいい電気」(充電率0.34%)。のべ10人の子どもがグローブジャングルジムを回転させ、実働63分間充電した「子どもたちの元気な電気」(充電率99.5%)。大人1人がシェーカーを振り、実働33分間充電した「カクテルのロマンチックな電気」(充電率0.43%)など。エネループに生活の中のさまざまな方法で充電し、異なる21本の電池をつくりました。それぞれの電池には、電気を起こした方法をイラストにした特別なパッケージが用意されています。それら21本のエネループを展示する「ライフ・イズ・エレクトリック展」を開催する。その充電の様子を撮影して、ウェブムービーとして公開する。どれも見た目は同じエネループですが、充電量もさまざま。電気を起こした方法もさまざま。そんな背景に思いをはせると、同じ電池が、電気が個性豊かな別物に見えてきます。
言い換えると、電気という目に見えないものをキャラクター化した、ということかもしれません。また、そのことにより電気を身近に感じてもらうことに成功したプロジェクトといえるでしょう。
また、この取り組みはアイデア・クオリティの高さから、カンヌライオンズで日本初、デザイン部門でのグランプリをはじめ数々のアワードで受賞の栄誉に輝いていることを付記しておきます。
電通CDC 筒井晴子
デザインでブランディングする、ということ。
パナソニックはさまざまな国や地域で展開しているブランドなので、グローバルブランディングというか、統一したイメージをつくりたいという意向がもともとクライアントにはあったのですね。家電から住宅やデバイス、エネルギー事業の開発をしている会社だけれど、そもそもは電気の力でハッピーを届けたいと考えている。何よりもまず、そのことをきちんと伝えようと思いました。折しもエネループが発売10周年ということもあり、この商品を題材に訴求しようということになったのです。
例えば、普通の電池が10個並んでいて、その中身が全部違っていたら面白いよね、というのが出発点でした。いつもの電気なんだけど、みんな違う。一つ一つの電池に1冊ずつカタログをつくる感じでしょうか。で、それぞれに名前を付けて。さらに、誰しもが住んでいる街を描きました。それがないと、ただの充電イベントみたいになっちゃいますから。イラストでハートの部分を足すことでクールな記録だけではない、いろいろな気持ちが生まれるんじゃないか、と思いました。
心掛けたのは、説明しすぎないこと。過剰になり過ぎないこと。文章も、映像も、質感も。製品や表現、そのものに対して常に適切であるかという点に気を配りました。ある意味、見る人の想像力を信じてつくったところもあります。でも、反応は予想以上でしたね。イベント会場では、子どもが食い入るようにじーっと製品や映像を見つめていたり。学校の先生が、こんな授業をしてみたい、と言ってくれたり。あるいは、モノに感情移入することを海外の方に理解してもらえるのかな?と危惧もしたのですが、むしろ、より深く感じてくれました。冗舌にならなくても、ちゃんと伝わるんですね。直接的な売り上げやプロモーションということとは少し違うかもしれませんが、まっとうな、広告らしい広告になったのかな、と感じました。
デザイン、というと、すぐ見た目とか、クラフトとかの話になることも多いのですが。重要なのは、ブランドの何を体現し、何のためにデザインをしているか、ということだと思います。そういう考え方をすると、デザインはブランディングと、とても近いところにあるものではないでしょうか。