コミュニケーション・ショーケースNo.2
富士フイルム「写プライズ」
2016/11/11
「写真はデータ」「プリントはあまりしない」
そんな時代に富士フイルムが取ったプリント需要喚起の方法とは
スマートフォンやデジタルカメラで撮ったたくさんの写真を1枚のプリントにランダムに配置してくれるプリントサービス「シャッフルプリント」。この商材を若い女性にどうやって売っていくか、というところから話は転がり始めた。しかし、そもそも「写真はデータで持てば十分」で「わざわざプリントアウトはしない」という風潮の世の中で、どのように訴求していけばいいのか。単に機能性・利便性や写真の美しさをアピールしても、消費者の生活行動を変えるまでにはいかないだろう。
それならば、逆に世の中(特に若い女性)の生活行動や嗜好を分析することから始めよう、というのが、「写プライズ」キャンペーンだった。「イベント好き」「サプライズ好き」の彼女たちに向けて、直接商品を売り込むというよりは、どうやって使うかというシチュエーションを提案する。誕生日、記念日、同窓会、送別会…あらゆる機会に、あるいは、なんでもない日だってサプライズを仕掛けて相手を驚かせる、喜ばせる。商品やサービスの機能を売るのではなく、それらが提供するストーリーを売り込んだのである。
それ故キャンペーンは「シャッフルプリント」に留まらず、デザインされた豊富なテンプレートから1枚でも写プライズできる「バラエティプリント」、思い出ごとに保存する「イヤーアルバム」、シールを使って貼り直せるフォトパネル「シャコラ」など、他のプリントサービス・関連製品へも波及。しかも対象は若い女性に留まらず、家族、友人、さまざまな世代・関係にも広がり、1商品の域を超えてプリントに関係するひとつの大きなムーブメントとして成長していった。
あ、そういうことならやってみたい! ─ いわば、モチベーションをストーリー化した、ということなのだ。しかもテレビCMでは、出演者の広瀬すずさんに実際に誕生日サプライズを仕掛け、その模様を撮影するという二重三重の仕掛けを施したという。
それ以外にも、リアルサプライズムービーをウェブ上で展開するなど、仕掛けることを面白く見せることで、単なる商品ではなくモチベーションが世の中に拡散していくという現象につながっていったのだ。
北京電通CDC CHINA(元電通3CRP局)
三戸健太郎
大事なのは、気持ちを捉えられているか、ですね。
プランニングをするときは、いつも、まず自分で使ってみるんです。この「シャッフルプリント」も自分でやってみたんですけど、それだけだと今ひとつピンと来ない。そんなとき、後輩の女子大生の誕生パーティーがあるというのでシャッフルプリントをつくって持っていってみました。そうしたら、意外に盛り上がったんですね。「私もやりたい」と口をそろえて。考えてみると、フェイスブックなどでもサプライズを仕掛けたりという状況が増えてきているじゃないですか。それほど高価なものではないけれど、カスタマイズされた特別感が演出できる。あげる方も、もらう方も、うれしい。これはいけるんじゃないか、と早い段階で感じました。
「写プライズ」という言葉が生まれたのが大きかったですね。商品を使用する、ただのシチュエーションを言っているだけでは、広がりがない。みんなが口に出す言葉、使ってもらえる言葉が生まれたことで芯ができたんですね。どこでも使ってもらえるし、広告に興味がない方でも分かる言葉。だから、あちこちの写真店で勝手にPOPをつくってくれたり、といったことが起きる。若い女性だけじゃなく、シャッフルプリントだけじゃなく、広がっていく。しかもバズワードのように一瞬面白いけど、すぐに忘れられてしまう一過性の言葉ではない。みんながずっと使って残っていく言葉が発見できたんです。
キャンペーンを組み立てる上で心掛けたのは、「やらせなし」ということです。サプライズは、リアルであることが大事で、演技だと分かってしまいますから。広瀬すずさんのCMをつくるときでも、偽の台本を渡して普通のCMをつくるふりをしたりということまでして。一般の方でウェブムービーをつくるときなども含めて、あくまでドキュメントにこだわりました。
単にシチュエーションを提案する、というのは、よくあるじゃないですか。それだけじゃなくて、ユーザーの気持ちをちゃんと捉えたことでうまくいったんじゃないかと思います。