ネガティブな「幹事あるある」を解消するオンラインワリカンの実力
2016/11/07
フィンテックがもたらす恩恵は企業だけでなく、個人にも。食事会、プレゼント、屋形船貸し切りパーティーなど、仲間内でのお金のやりとりを手軽に“オンラインワリカン(割り勘)”できるフィンテックサービスが注目を集めています。
クラウドファンディングならぬ“フレンドファンディング”とは? フィンテックで変わるマーケティングとは? SMILABLE(スマイラブル)代表の澁谷洋介氏に、電通ビジネス・クリエーション・センターの蓮村俊彰氏がFINOLABで聞きました。
ドタキャン、立て替え、未回収…ネガティブな「幹事あるある」を解消
蓮村:仲間内でオンラインワリカンができるスマイラブルのサービス「アイムイン」を知ったとき、「もっと早くに出合いたかった」と切実に思いました。まずは、「アイムイン」について教えてもらえますか?
澁谷:例えば「バーベキューをしたい」とか「屋形船を貸し切ってみたい」とか、やりたい企画があるときに、仲間内からインターネット上でお金を集めて実現させるためのサービスです。
食事会、同窓会、花見、ハロウィーンや忘年会などのイベントや、誕生日や出産祝いなどのプレゼント、社会人サークルのチームTシャツづくりなど、仲間が集まればそこには必ずお金のやりとりが発生します。
「アイムイン」では、インターネット上で企画を立てて、目標額や支払額を設定し、仲間にSNSやメールでシェアするだけ。手数料無料、最短3分で始められますよ。
蓮村:食事会などでは幹事がまとめて精算して現金徴収という場面もありますが、人数が多いと高額の現金が手元に集まることもあり、神経質にならざるを得ないときもあります。
それからドタキャンや先に帰った人がいた場合、ひとまず幹事が立て替えたけどなかなか当人に会えず未回収…とか(笑)。
澁谷:幹事あるあるですよね。私は「みんなで何か楽しいことをやりたい!」と企画する側の人間なので、幹事が何かと不安になってしまう気持ち、とても理解できます。このサービスは私自身の悩みを解決するためにつくったといっても過言ではありません(笑)。
それから、お金のことだけでなく「やる?」と誘ったときの周囲の反応も怖い。そもそも誰も集まってくれないんじゃないか、「やる」と言ってくれたのに「やっぱり参加できない」と言われるんじゃないか…とか。Facebookのイベントには「興味あり」や「未定」という選択肢があって「つまりどっちなの?」なんて思ってしまいます。
蓮村:参加前はお金のやりとりが発生していないから、生返事のような反応もありますよね。
澁谷:そうなんです。でも、「アイムイン」では参加表明と同時にカードで決済できるので、ドタキャン率も下がる傾向にあります。目標額を達成した場合のみ、幹事であるスターターの銀行口座に振り込まれるので、企画が実行されなかったらお金はどうなるの?という参加者の不安もなくなります。
時代は、コミュニティーで体験を共有する“コト消費”志向へ
澁谷:私自身、「アイムイン」を使っていて思わぬ効果を感じたことがありました。昨年、屋形船を貸し切るという企画を立てましたが、参加者が主体的に関わってくれたのです。
屋形船は大人数でなければ貸し切れませんし、費用は1人1万円程度と高額です。でも前払いだったので欠席者も遅刻者もゼロ。さらには「実現したいし楽しみたいから」と自分の知人を誘ってくれた参加者もいました。当日お金のやりとりも発生しないので、幹事自身も心配事がなく大いに楽しめました。
蓮村:ある目的のためにみんなでお金を出し合うという仕組みは、不特定多数の人からお金を募るクラウドファンディングにも通じます。「アイムイン」の立ち位置は?
澁谷:クラウドファンディングは1人当たり1万円以上のお金で合計億単位の額を集めたりもしますが、「アイムイン」は1人当たり300円や1000円で、合計1万円などの少額のやりとりに向いています。
海外にも同じようなC to C向けのサービスがあって、集める金額感やメンバーとの関係性の違いから、グループファンディングやコミュニティーファンディング、フレンドファンディングなどと呼ばれています。
例えばアメリカには、「Venmo」というオンライン送金のサービスがあります。現地の若者にはすっかりおなじみで、仲間と食事をして誰かが立て替えたとき「あとでベモってね!」(Venmo me!)なんて言ったりするんです。
蓮村:日本でもフレンドファンディングの仕組みが浸透すれば、コミュニティー内の経済活動は変わりそうですね。
マーケティングの流れを顧みると、21世紀に入ってからモノ消費から体験を重視するコト消費へと変わってきました。さらに数年前からは、個人中心のコト消費から家族や友人、同僚など自分が所属するコミュニティーで体験を共有できるコト消費志向へとシフトしています。
9月のグローバルイベント「FinSum:フィンテック・サミット」では、登壇した麻生太郎副首相も「今、若い人たちの間でワリカンというとお互いにスマートフォンを使って電子決済できる時代になった」とおっしゃっていましたし、このサービスは近年の流れにフィットしています。
澁谷:ありがとうございます。私もFinSumのプレゼン大会(PITCH RUN)へ登壇させていただいたので、麻生副首相のそのご発言を会場で直接聞くことができて、とてもうれしかったです。
「アイムイン」は、いわばエンタメ系のフィンテック。楽しいアイデアは、ちまたにたくさんあるけれど、「この企画、立て替えが高額になるから無理だ…」とか、何かしらのやりにくさがあって実現しないことって結構ありますよね。
テクノロジーでそれらのハードルを圧倒的に下げることで、コミュニティーにおけるもっと楽しいコト消費を促進していけると感じています。
蓮村:「アイムイン」が潤滑油の役割を果たし、楽しいこと、面白いことを掘り起こしたり、売り上げが伸びたりといったように、市場そのものもうまく循環していくイメージができますね。
澁谷:コミュニティーが存在するところに「アイムイン」あり、と認識してもらうことが目標です。人々にとって最も身近なフィンテック、というポジションまで浸透させて、コミュニティーの活動におけるネガティブな側面を解消し、ハッピーな関係を支えたいですね。
コミュニティー単位で、地方活性化に貢献する
蓮村:全国の地方新聞社が厳選するお取り寄せサイトを運営する47CLUB(よんななくらぶ)が新しくスタートした提案型ギフトサイト「おくりものソムリエ」とのタイアップが10月から始まりました。
タイアップの場となる「おくりものソムリエ」は、贈る相手の嗜好や生活環境を選ぶだけで、その人に喜んでもらえる“最適”なギフトを紹介する提案型ギフトサイトです。各地の特産品も多く、地方創生の実効的なファンクションとしても非常に興味深い取り組みになりそうですね。
澁谷:蓮村さんに47CLUBをご紹介いただき今回のタイアップに至りましたが、ちょうどお歳暮商戦やクリスマスなどのパーティーシーズンですので、仲間内のグループ払い(=みんなでお金を出し合って購入すること)による贈答品の需要が増えればと思っています。
例えばちょっと豪華な忘年会をするために、「アイムイン」で集めた予算で高級和牛を取り寄せる、なども考えられますね。
あとは、予算を決めてワリカンではなく、支払額を「いくらでもOK」の設定にして、集まった額に応じていい肉や高級なお酒を買うのも楽しいですよね。「僕はたくさん飲む予定だから1万円!」「私は遅れて参加するから3000円」といったように、あえて金額を決めない。こういうスタイルも、コミュニティーにおける楽しみ方の一つになり得ます。
蓮村:こういったお取り寄せサイトを、個人ではなくコミュニティー単位で上手に利用することで需要が拡大すれば、新たな地方活性化のスタイルにもなりますね。
お金の流れを見える化することで、マーケティングはより進化する
蓮村:コミュニティー経済において、フィンテックはどのように貢献できるとお考えですか?
澁谷:まず、従来のお金のやりとりは、顔を合わせられる距離なら現金の受け渡し、遠い場所にいる人とのやりとりは現金書留や振り込みといった手数料のかかる手段しかありませんでした。
しかし、カード決済できるフィンテックサービスなら、手数料の壁だけでなく、通貨の壁がないので国境も超えられます。
蓮村:国内だけでなく、海外の友人をも含めたコミュニティー経済になるということですね。
澁谷:そうです。コミュニティー経済の概念は、グローバリゼーションを含めたものに変わっていきます。例えば、都会で暮らす人が地方の農家から無農薬野菜を買うといった国内主体の消費だったものも、今後は中国や外国で暮らす人が、現地から日本産のものを購入するといったケースがもっと増え、地方に収入をもたらすことに寄与できるかと。
蓮村:とはいえ、日本はまだまだ現金主義が強いです。澁谷さんはそこにパラダイムシフトを巻き起こそうとしているわけですが…。
澁谷:そうですね。日本における個人消費の決済手段は、いまだ現金がおよそ50%を占めており、現金決済が20%以下のアメリカと比べてもその割合は高くなっています。アメリカでは2019年には現金決済がおよそ10%になるとの予測もあります。
澁谷:東京2020オリンピック・パラリンピックの開催を踏まえて、日本でも今後はよりキャッシュレス化が進むことが予想されており、また、キャッシュレス化が加速することで新たに見えてくるものがたくさんあります。
例えば今、私が蓮村さんに立て替えてもらい、ワリカンで牛肉を買うとします。私が蓮村さんに現金を渡しても、支払いの履歴は残りませんよね。
でも「アイムイン」なら、私が蓮村さんにいくら、何の名目で支払ったというデータが残り、それがマーケティング情報になる。企業からは、これまで支払った代表者の情報しか見えなかったわけですが、実は何人でいくらずつ出し合って買ったというさらに深い情報が見える化されるわけです。
蓮村:これまで見えなかったC to Cのやりとりが、何のために行われたかまでひも付けたビッグデータで残るので、リアルなインサイトが見えてきますね。
澁谷:そうですね。将来的にはそのようなビッグデータを扱うサービスも行っていく予定ですし、クレジットカードだけでなくポイント決済などさまざまな決済方法を取り込んでいく計画です。
蓮村:ありがとうございました。