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クリエーターのしっぽNo.2

誰もが共感する「ストーリー」で“ブランド認知”と“会員獲得”を両立した、BUYMA10周年キャンペーンの裏側

2016/11/17

世界中の商品が買えるファッション通販サイト「BUYMA」。2015年に展開したキャンペーンは、テレビCM「世界を買える」シリーズや、ネット動画「親切なドローン」といったユニークなクリエーティブ、バラエティー番組でのパロディーなどで大きな話題を呼びました。結果として、ブランド認知率と会員獲得数の双方を向上させ成功を収めました。

そのプロジェクトを推進したクリエーターが、電通の佐久間崇氏。ブランディングと会員数獲得を同時に…そんな課題を持つ全ての企業で生かせる、次世代クリエーターならではの“情緒コミュニケーション”の秘訣を語りました。

取材・執筆:PR Table
※この事例に関するエピソードは、PR Tableでもお読みいただけます。


ブランドが実現する「ストーリー」でブランディング

佐久間崇氏
 

─「世界を買える」シリーズのテレビCMは、エピソードが印象的ですが、どのような狙いがあったのでしょうか。

佐久間:そもそもの背景をお話しすると、15年当時、10周年を迎えるBUYMAのさらなる認知拡大と会員獲得が目的で、そのキャンペーンを任されることになりました。BUYMAは、海外に在住している出品者が、注文を受けて商品を購入し発送を行うのが特徴で、日本で手に入らない商品を手に入れられるという点に、他のファッション通販サイトとは一線を画するユニークさがあります。

実は、ちょうどこのプロジェクトチームに入る2週間前くらいにたまたまBUYMAで、欲しかったスニーカーを購入していました(笑)。そのときの僕の体験からもう一歩踏み込んで、その仕組みによって消費者がどんな価値を得ているのかを考え、仮説を立てていきました。そこから「ずっと欲しかった何かを手に入れる」という、購買行動の背景にある私的なストーリーをテレビCMなどで表現することにしました。BUYMAが実現する本質的な価値をストーリーを通じて伝えることでブランディングすること。それをキャンペーンの目的に据えました。

 

ブランディングとセールスプロモーション、双方で目的を達成

 

─ 通販サイトのコミュニケーションでは、価格や限定販売などの告知でサイトへの流入を促すという、いわば即物的な手法が求められがちだと思います。どのように両立したのですか?

佐久間:僕はいわゆるブランディングだけの担当ではありません。コンバージョンを本気で上げるために何が必要なのか、全体を見据えて戦略を立てます。そこでブラウザーよりもアプリからの流入の方が多く、購入に至る率も高いので、当時アプリはiOSしかなくAndroidのアプリが開発段階だったので、マスコミュニケーションに合わせてローンチを急ぎましょう、とサービス開発の提案もしましたね。

BUYMAの魅力をしっかり伝え、本質的な意味でユーザーを獲得していくためには、ブランディングが大切です。一方で、「限定」「セール」といった短期的なセールスプロモーション(SP)的要素も必要でした。SPは、商品やサービスの世界観を伝えるブランディングとは相いれないと考えられがちです。しかし、その双方を両立させる戦略を打ち立てました。

─ テレビCMだけで双方を両立させることは難しくなかったですか?

佐久間:CM「世界を買える」は、梨花さん、小嶋陽菜さん、亜希さん、又吉直樹さんの4人それぞれが「欲しいもの」にまつわるエピソードを語るシリーズCMです。キャンペーンは派手にスタートさせようということで、初放送日は15年6月に行われた2018FIFAワールドカップロシア・アジア2次予選のハーフタイムという、大きな注目を集める時間帯でした。

でも90秒枠の中で、4人それぞれのCMを流して合計75秒。最後の15秒が余ってしまったんです(笑)。そこで、最後の15秒で「BUYMA NIGHT SALE(バイマナイトセール)」 という文字とダイナマイトのアニメーションを組み合わせただけの告知をしました。そのために、一日限定セールの実施もお願いしました

─ そのような形で、ブランディングとSPの両立を図られたんですね。初日の反響はどうでしたか?

佐久間:15秒、ダイナマイトがカチカチとカウントダウンするCMが面白いと話題になり、放送直後から翌日午前2時までの限定セール予告だったのですが、反響があまりにも大きかった。放送直後からサイトPVは通常時の約10倍にまで跳ね上がり、セールに向けて体制を整えていたのにもかかわらずサーバーがダウン。「セールなのにBUYMAにつながらない!」とちょっとした騒ぎになりました。

 

─ どのように対応したのですか?

佐久間:その日のうちに、BUYMAの運営会社であるエニグモ社と緊急会議を招集し、すぐに翌日から“SORRYクーポン”という割引クーポンを発行することになりました。“ごめんなさいセール”をすることにしたんです。注目されていただけあって、会員数がぐんぐん伸びました。

結果として立ち上がりのノイズアップになったということ。そのような事態から、しっかりと認知拡大や会員数獲得につながったのは、対応に迅速に動いてくださったエニグモの社長をはじめとしたクライアントの皆さんがいたからです。

─ もうひとつ、大きな注目を集めたネット動画「親切なドローン」がありますよね。これはどういった狙いがあったのでしょうか?

佐久間:「親切なドローン」は1夜限りのテレビCMでした。15年12月のフィギュアスケートグランプリファイナルに合わせて放送しました。全裸の男女が美しいクラシックバレエを踊る中、ドローンが“大事な部分”を巧妙に隠してくれるというものです。

BUYMAのグローバルなブランドイメージと、服を買う楽しさや服を着る喜びを、斬新な表現で伝えようという狙いがありました。このテレビCMもSNSを中心に、大きな話題を呼びましたね。バラエティー番組でパロディー化もされたんですよ。

 

手段と目的に合わせて、フォーカスを切り替える

 

─ よりBUYMAというサービスを印象付けるために、工夫した点はありますか?

佐久間:実は「世界を買える」では、最後に「バイマ。バイマ」と、発音を変えてサービス名を連呼しているんです。SNSなどで「どっちの発音が本当なの?」と話題にもなりました。

社長から「もっとサービス名を大きくうたってほしい」という要望があってのことですが、「ブランディング広告だから雰囲気が壊れる」とそれを拒絶するのではなく、どうすればユニークな形で記憶に残せるのか。そのアイデアを提供することは、僕らに求められることではないでしょうか。

経営視点でのキャンペーンの「目的」は認知拡大と会員数の増加、「手段」としてテレビCMなどがある中で、カメラのレンズやフォーカスを替えていくような感覚で全体をプロデュースしていきます。目的と手段、そのどちらかだけ考えてしまうと全体が見えなくなるので、時には引いて俯瞰したり、ピントを替えてみることも大切です。

─ フォーカスを変える。面白いですね。どんなことなのでしょうか?

佐久間:全体の「目的」を考えたときにCMという「手段」がいるのかいらないのか…。いるとしたら、優れたCMを作ることそのものを「目的」にして、どういう内容にするのかという「手段」を精査していく。柔軟にカメラのフォーカスを切り替えていくと、チームとして最大限のパフォーマンスを発揮できます。

俯瞰したところから入っていって、フォーカスを切り替える。そして、手段を目的にしていく。反対に、「こんなキャンペーンをしたら楽しいよね」というアイデアをたくさん出すことで、「あのインサイトは、こういうことかも」と最初の大きな「目的」に立ち返る。両方行き来しながらやっています。

佐久間崇氏
 

コミュニケーションは情緒——人の心をつかみ取るプランニング

 

─ ストーリーとITで情緒コミュニケーションを実現したということですね。

佐久間:一般的に「戦略」は左脳寄り、論理的なものと思われていますが、どうやって人の心をつかむかでいえば、大事なのは情緒です。ブランディングも情緒が核になります。今回のキャンペーンでは、「欲しかったものを思い出してBUYMAにたどり着く」という情緒をストーリーにしました。そのストーリーを、ITでのコミュニケーションを駆使して届けていったんです。実際に、キャンペーン後でも新規会員数の登録は伸びているそうです。地道に本質的な会員獲得を真剣に考えた結果、 必要なブランディングを地道に進めていったからこそできたことだと思っています。

─ コミュニケーションプランニングでは、どんなところにこだわりましたか?

佐久間:BUYMAがもたらす、欲しいものを手に入れる「感動」や、BUYMA NIGHT SALEの告知を見た人が感じた「気になる気持ち」、全ては情緒だと考えています。これはこのプロジェクトだけでなく、どんな企画でも、どこに人が反応するのかをいつも探すようにしています。全てのブランドには、必ず何か情緒がひもづいています。僕の場合は、プライベートも含む、自分の実体験からそれを探すことが多いですね。

─ ご自身が体験したことや生活で起こること、その全てがヒントになっているんですね。

佐久間:自分が体験したことの中で、ちょっとしたことでも、うれしかった、切なかった、恥かいた、そういう感情の動きがありますよね。それをちゃんと覚えておいて、そのときどんなふうに心が動かされたのか、どうして動かされたのかをひもといていくことが大切です。コミュニケーションやクリエーティブの仕事に携わっている人は、そういった自分の体験、生活の全てからヒントを得られるのではないでしょうか。